表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/46

7

 深夜。


 盗賊団《黒犬団》のアジト。


 宴会は終わっていた。


 酒臭い空気。


 転がる空き瓶。


 寝息。


 いびき。


 焚き火の赤い光だけが、洞窟の中をぼんやり照らしている。


 その片隅。


「……のだぁ……」


 勇者レイは毛布にくるまっていた。


 昼間。


 散々だった。


『税金未納』


『借金王』


『勇者(弱)』


 顔面への落書き。


 宴会芸。


 尻振りダンス。


 挙句の果てに。


「おい勇者! 吠えろ!!」


「わんっ♡なのだぁ……」


「ギャハハハハ!!」


 本当に犬扱いされた。


 しかも飯のために従った。


 勇者として終わっていた。


 そして今。


「のだぁ……」


 レイは半泣きだった。


「うぇ……うぇええええん……!!!」


 ついに泣き始めた。


 かなり情けない泣き方だった。


「酷いのだぁ……」


 すすり泣く。


「吾輩、勇者なのにぃ……」


 なお。


 本人は割と本気で傷ついていた。


 レイは性格こそ最悪だが。


 メンタルは妙に子供っぽい。


 なので。


 馬鹿にされると普通に落ち込む。


「うぇええええん!!」


 しかも。


「顔に変なの描かれたのだぁ……」


 そこが一番ショックだった。


 女神エリシアは、洞窟の天井近くにぼんやり現れていた。


「……」


 ジト目。


 完全に呆れている。


「何泣いてるのよ……」


「虐められたのだぁ……」


「当たり前でしょうが」


「酷いのだぁ……」


 レイは鼻水をすすった。


「吾輩、勇者なのにぃ……」


「その勇者が盗賊団に捕まって犬やってるのよ」


「のだぁあああ!!」


 致命傷だった。


 レイは毛布へ顔を埋めた。


「うぇええええん!!」


 エリシアは深くため息をついた。


 本来。


 女神が関わる存在ではない。


 勇者とはいえ、この男はかなりアレである。


 性格は終わってるし。


 怠け者だし。


 守銭奴だし。


 平気で人へ責任転嫁するし。


 しかも妙に図太い。


 なのに。


「うぇええええん!!!」


 こうやって泣かれると。


 妙に放置しづらい。


「……はぁ」


 女神はゆっくり降り立った。


 レイの横へ座る。


「……ほら」


「のだぁ?」


 淡い光が現れる。


 毛布が少し温かくなる。


 レイは鼻をすすりながら見上げた。


「……慰めてるのだぁ?」


「勘違いしないで」


「のだっ♡」


 レイはちょっと元気になった。


 だが次の瞬間。


「うぇええええん!!」


 また泣いた。


「今度は何」


「思い出したのだぁ……」


「何を」


「尻振りしたのだぁ……」


「自分でやったんでしょうが」


「ご飯のためなのだぁ!!」


 エリシアは本気で頭を抱えた。


 すると。


 レイは急に毛布を握りしめた。


「……復讐するのだぁ」


「は?」


 さっきまで泣いていた男の目が妙に据わっていた。


「吾輩を笑ったやつら全員に復讐するのだぁ……」


「小物臭いわねぇ……」


「絶対に泣かせるのだぁ……」


 レイはぐすぐす泣きながら言った。


「顔に変な落書きしてやるのだぁ……」


「スケール小さっ」


「あとお金取るのだぁ……」


「本当に小さい」


 だが。


 レイ本人はかなり本気だった。


「うぅ……許さぬのだぁ……」


 毛布の中で丸くなる。


 完全に拗ねた幼児である。


 女神はしばらく黙っていた。


 そして。


「……ほら」


「のだぁ?」


 女神はレイの頭を軽く撫でた。


「元気出しなさい」


「のだっ」


 レイが固まる。


「……」


「……」


「……もっと」


「調子乗るな」


 即デコピンされた。


「のだぁっ!?」


 レイは額を押さえた。


 だが。


 少しだけ元気になったらしい。


「のだぁ……」


 モゾモゾと女神の近くへ寄る。


「……何」


「寒いのだぁ」


「知らないわよ」


「女神パワーで暖かくするのだぁ」


「便利道具扱いするな」


 しかし。


 エリシアは結局、軽く魔力を流した。


 毛布がさらに暖かくなる。


 レイは即うとうとし始めた。


「のだぁ……」


「単純ね」


「……女神ぃ……」


「何」


「盗賊ども、酷いのだぁ……」


「そうねぇ」


「吾輩、可哀想なのだぁ……」


「自業自得よ」


「のだぁ……」


 レイは半分寝ながら呟いた。


「……でも復讐するのだぁ……」


「はいはい」


「絶対なのだぁ……」


 そして数秒後。


「ぐごぉおおお……」


 寝た。


 早かった。


 エリシアは呆れた顔で見下ろす。


「……子供じゃないんだから」


 だが。


 寝顔だけは妙に無防備だった。


 昼間あれだけ泣いて暴れていたくせに。


 今は毛布へ抱きつきながら幸せそうに寝ている。


 しかも。


「のだぁ……無料ぉ……」


 寝言まで守銭奴だった。


 女神は静かに天を仰いだ。


「……本当に何なのよこいつ」


 だが。


 その声は少しだけ柔らかかった。


 洞窟の外では魔物が遠吠えしている。


 盗賊たちは爆睡。


 そしてその片隅では。


 女神に幼児扱いされながら寝ている終わった勇者がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ