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性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


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5

 山奥。


 盗賊団《黒犬団》のアジト。


 岩山をくり抜いた天然洞窟の中では、昼間から酒臭い笑い声が響いていた。


「ギャハハハハ!!」


「勇者様、泣いてるぞ!!」


「もっと描け描け!!」


「のだぁあああああ!!やめるのだぁあああああ!!」


 洞窟中央。


 縄で椅子に縛り付けられた勇者レイが絶叫していた。


 そして。


「ふふっ、動かないでくださいな」


 目の前には少女。


 盗賊団頭領の娘、リズ。


 十七歳。


 赤茶色の髪を後ろでまとめた快活そうな少女である。


 健康的な美人。


 しかも性格がだいぶ悪かった。


 現在。


 彼女は筆を持っていた。


 そして。


 レイの顔面に落書きしていた。


「のだぁああああ!?!? やめるのだぁあああ!!吾輩の美しい顔になんてことをぉおおお!!」


「普通の顔ですよね?」


 即答だった。


 周囲の盗賊たちが吹き出す。


「ギャハハハ!!」


「普通の顔って!!」


「勇者様ショック受けてるぞ!!」


 レイは涙目だった。


「のだぁ……」


 リズはクスクス笑いながら、レイの頬にヒゲを描いていく。


「うーん、次はこれですね」


「のだっ!?」


 今度は額に。


『借金王』


 と書かれた。


「のだぁあああああ!!」


 レイは暴れた。


「やめろなのだぁああ!!」


「動くと曲がりますよ?」


「嫌なのだぁああ!!」


 だがリズは止まらない。


 しかも妙に絵が上手かった。


 頬には渦巻き。


 鼻の下には変なヒゲ。


 額には借金王。


 さらに。


「ここに星も描きましょう」


「のだぁああ!!」


 盗賊たちは腹を抱えて笑っていた。


「勇者様最高だな!!」


「酒より面白ぇ!!」


「おい鏡見せろ鏡!!」


「見せるななのだぁあああ!!」


 しかし即見せられた。


「のだっ」


 レイ、固まる。


 鏡の中。


 完全に馬鹿だった。


「……」


「どうです?」


「……ひどいのだぁ……」


 レイは本気で落ち込んだ。


「吾輩の顔がぁ……」


「普通の顔がちょっと面白くなっただけですよ」


「違うのだぁ!!吾輩は勇者なのだぁ!!威厳が必要なのだぁ!!」


「その性格で?」


「のだっ♡」


 レイはドヤ顔した。


「威厳だけはあるのだっ♡」


「ゼロですよね?」


 盗賊団全員が頷いた。


 頭領ガルドまで頷いていた。


「威厳はねぇな」


「のだぁ!?」


 レイはショックを受けた。


 リズは笑いながらレイの髪を引っ張った。


「それにしても本当に弱いんですね、勇者なのに」


「ぐぬぬなのだぁ……」


「どうやって今まで生きてきたんです?」


「周りが頑張ったのだっ♡」


「最低」


 レイは誇らしげだった。


「有能な部下を使うのも才能なのだぁ♡」


「捨てられましたよね?」


「のだぁああああ!!」


 致命傷だった。


 レイは椅子ごとジタバタ暴れる。


「言うななのだぁああ!!」


「図星なんですね」


「うるさいのだぁ!!」


 リズは面白そうにレイを眺めていた。


 最初は「なんか変な勇者捕まったな」程度だった。


 だが。


 話してみると異常に面白い。


 見栄っ張り。


 守銭奴。


 性格最悪。


 なのに妙に小物。


 しかも変に打たれ強い。


 普通の人間なら泣いてる状況で。


「ご飯まだなのだぁ?」


 とか聞いてくる。


 頭がおかしかった。


 その時。


 盗賊の一人がニヤニヤしながら言った。


「お嬢、こいつ本当に勇者なら賞金とか出るんじゃねぇですか?」


「んー……」


 リズは考える。


 レイはハッとした。


「のだっ♡」


 そして急に媚び始めた。


「リズちゃん♡」


「気持ち悪い呼び方やめてください」


「吾輩を売ると面倒なのだぁ♡」


「へぇ?」


「ほら! 勇者だから人気者なのだぁ♡」


「嫌われてるって聞きましたけど」


「……」


 一瞬黙った。


「……一部に」


「王都全域らしいですよ?」


「のだぁあああ!!」


 レイはまた泣いた。


 だが。


 次の瞬間。


「でもなのだぁ!!」


 急に真顔。


「吾輩を雑に扱うと女神が怒るのだぁ」


 洞窟が静まった。


「……は?」


 レイは偉そうに鼻を鳴らす。


「吾輩、女神に気に入られてるのだっ♡」


「そんな嘘信じるわけ」


 その瞬間だった。


 ゴォォォォ……


 洞窟の奥で風が吹いた。


 松明が揺れる。


 盗賊たちがざわつく。


「な、なんだ?」


「風か……?」


 リズだけが妙な寒気を感じていた。


 そして。


 レイの背後。


 一瞬だけ。


 青白い女の影が見えた気がした。


「……っ」


 リズは目を見開く。


 だが。


 次の瞬間には消えていた。


「……」


「のだっ♡」


 レイはドヤ顔。


「ほら見ろなのだっ♡」


「……偶然ですよ」


「ビビってるのだぁ♡」


「ビビってません」


 しかし声が少し硬かった。


 その頃。


 遥か遠く。


 廃教会。


 女神エリシアは頭を抱えていた。


「……なんで私があんな馬鹿のハッタリ補強みたいになってるのよ……」


 だが。


 完全に放置すると。


 なんだかんだ本当に死にそうなので困る。


「……はぁ」


 女神は深くため息をついた。


 一方その頃。


 レイはまだ調子に乗っていた。


「のだっ♡ 今ならサインもつけるのだっ♡」


「いらねぇよ」


「金貨三枚なのだぁ♡」


「誰が払うか!!」


「のだぁああああ!!」

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