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山奥。
盗賊団《黒犬団》のアジト。
岩山をくり抜いた天然洞窟の中では、昼間から酒臭い笑い声が響いていた。
「ギャハハハハ!!」
「勇者様、泣いてるぞ!!」
「もっと描け描け!!」
「のだぁあああああ!!やめるのだぁあああああ!!」
洞窟中央。
縄で椅子に縛り付けられた勇者レイが絶叫していた。
そして。
「ふふっ、動かないでくださいな」
目の前には少女。
盗賊団頭領の娘、リズ。
十七歳。
赤茶色の髪を後ろでまとめた快活そうな少女である。
健康的な美人。
しかも性格がだいぶ悪かった。
現在。
彼女は筆を持っていた。
そして。
レイの顔面に落書きしていた。
「のだぁああああ!?!? やめるのだぁあああ!!吾輩の美しい顔になんてことをぉおおお!!」
「普通の顔ですよね?」
即答だった。
周囲の盗賊たちが吹き出す。
「ギャハハハ!!」
「普通の顔って!!」
「勇者様ショック受けてるぞ!!」
レイは涙目だった。
「のだぁ……」
リズはクスクス笑いながら、レイの頬にヒゲを描いていく。
「うーん、次はこれですね」
「のだっ!?」
今度は額に。
『借金王』
と書かれた。
「のだぁあああああ!!」
レイは暴れた。
「やめろなのだぁああ!!」
「動くと曲がりますよ?」
「嫌なのだぁああ!!」
だがリズは止まらない。
しかも妙に絵が上手かった。
頬には渦巻き。
鼻の下には変なヒゲ。
額には借金王。
さらに。
「ここに星も描きましょう」
「のだぁああ!!」
盗賊たちは腹を抱えて笑っていた。
「勇者様最高だな!!」
「酒より面白ぇ!!」
「おい鏡見せろ鏡!!」
「見せるななのだぁあああ!!」
しかし即見せられた。
「のだっ」
レイ、固まる。
鏡の中。
完全に馬鹿だった。
「……」
「どうです?」
「……ひどいのだぁ……」
レイは本気で落ち込んだ。
「吾輩の顔がぁ……」
「普通の顔がちょっと面白くなっただけですよ」
「違うのだぁ!!吾輩は勇者なのだぁ!!威厳が必要なのだぁ!!」
「その性格で?」
「のだっ♡」
レイはドヤ顔した。
「威厳だけはあるのだっ♡」
「ゼロですよね?」
盗賊団全員が頷いた。
頭領ガルドまで頷いていた。
「威厳はねぇな」
「のだぁ!?」
レイはショックを受けた。
リズは笑いながらレイの髪を引っ張った。
「それにしても本当に弱いんですね、勇者なのに」
「ぐぬぬなのだぁ……」
「どうやって今まで生きてきたんです?」
「周りが頑張ったのだっ♡」
「最低」
レイは誇らしげだった。
「有能な部下を使うのも才能なのだぁ♡」
「捨てられましたよね?」
「のだぁああああ!!」
致命傷だった。
レイは椅子ごとジタバタ暴れる。
「言うななのだぁああ!!」
「図星なんですね」
「うるさいのだぁ!!」
リズは面白そうにレイを眺めていた。
最初は「なんか変な勇者捕まったな」程度だった。
だが。
話してみると異常に面白い。
見栄っ張り。
守銭奴。
性格最悪。
なのに妙に小物。
しかも変に打たれ強い。
普通の人間なら泣いてる状況で。
「ご飯まだなのだぁ?」
とか聞いてくる。
頭がおかしかった。
その時。
盗賊の一人がニヤニヤしながら言った。
「お嬢、こいつ本当に勇者なら賞金とか出るんじゃねぇですか?」
「んー……」
リズは考える。
レイはハッとした。
「のだっ♡」
そして急に媚び始めた。
「リズちゃん♡」
「気持ち悪い呼び方やめてください」
「吾輩を売ると面倒なのだぁ♡」
「へぇ?」
「ほら! 勇者だから人気者なのだぁ♡」
「嫌われてるって聞きましたけど」
「……」
一瞬黙った。
「……一部に」
「王都全域らしいですよ?」
「のだぁあああ!!」
レイはまた泣いた。
だが。
次の瞬間。
「でもなのだぁ!!」
急に真顔。
「吾輩を雑に扱うと女神が怒るのだぁ」
洞窟が静まった。
「……は?」
レイは偉そうに鼻を鳴らす。
「吾輩、女神に気に入られてるのだっ♡」
「そんな嘘信じるわけ」
その瞬間だった。
ゴォォォォ……
洞窟の奥で風が吹いた。
松明が揺れる。
盗賊たちがざわつく。
「な、なんだ?」
「風か……?」
リズだけが妙な寒気を感じていた。
そして。
レイの背後。
一瞬だけ。
青白い女の影が見えた気がした。
「……っ」
リズは目を見開く。
だが。
次の瞬間には消えていた。
「……」
「のだっ♡」
レイはドヤ顔。
「ほら見ろなのだっ♡」
「……偶然ですよ」
「ビビってるのだぁ♡」
「ビビってません」
しかし声が少し硬かった。
その頃。
遥か遠く。
廃教会。
女神エリシアは頭を抱えていた。
「……なんで私があんな馬鹿のハッタリ補強みたいになってるのよ……」
だが。
完全に放置すると。
なんだかんだ本当に死にそうなので困る。
「……はぁ」
女神は深くため息をついた。
一方その頃。
レイはまだ調子に乗っていた。
「のだっ♡ 今ならサインもつけるのだっ♡」
「いらねぇよ」
「金貨三枚なのだぁ♡」
「誰が払うか!!」
「のだぁああああ!!」




