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性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


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43 全てが終わったあと

 王が死んだ。


 その事実は、王国全体をゆっくり、しかし確実に壊していった。


 最初の数日は混乱だった。


 玉座の間での暗殺。


 しかも犯人は王国の英雄アレン・グランディス。


 民衆は理解できなかった。


『何故?』


 その疑問が王都中へ溢れた。


 王は賢王だった。


 少なくとも表向きは。


 災害を抑え。


 反乱を潰し。


 王国を安定させ続けた男。


 その王を。


 最も忠実だった騎士が斬った。


 意味がわからない。


 だから。


 王城は即座に情報統制を始めた。


『総長代理アレンは精神錯乱状態に陥っていた』


『王を守るため、自ら命を絶った』


 それが公式発表だった。


 実際。


 アレンは自殺した。


 王を斬った直後。


 抵抗もしなかった。


 逃げもしなかった。


 ただ。


 王の死体を見下ろしながら。


 静かに剣を自分の喉へ当てた。


 近衛騎士たちが止める間もなかった。


 最後まで。


 彼は何も語らなかった。


 そして。


 王妃セレフィナは《泣き声の塔》から解放された。


 今では王太后。


 新王の母。


 表向きには。


『先王崩御に伴う名誉回復』


 そう発表された。


 だが。


 王城の古い使用人たちは知っている。


 あの塔。


 元々、王妃を閉じ込めるための場所だったことを。


「……」


 王太后となったセレフィナは、静かに玉座の間を見つめていた。


 そこにはもう先王はいない。


 だが。


 彼女は勝利感を抱いていなかった。


 むしろ。


 胃が痛かった。


 何故なら。


 王国が揺れ始めていたからだ。


 現王――つまり王太子だった青年は、真面目で善良だった。


 だが。


 父ほど強くない。


 そして。


 王国は長年、先王個人の能力へ依存しすぎていた。


 だから。


 失った瞬間、歪みが噴き出した。


 南部貴族は税制見直しを要求。


 西部では小規模暴動。


 北方では隣国が国境へ兵を集め始める。


 財務官僚たちは責任を押し付け合い。


 王城内では派閥争いが再燃。


 まるで。


 長年無理やり押さえつけられていたものが、一気に噴き出したようだった。


「……」


 セレフィナは静かに目を閉じる。


 先王は間違いなく罪深い男だった。


 だが。


 同時に。


 王国を支えていた。


 それも事実。


 だから。


 彼女は時々わからなくなる。


 これで良かったのか、と。


 一方。


 そんな王国の激動など全く関係ない場所。


 王都外れ。


 川辺。


「のだっ♡」


 レイ。


 超ご機嫌。


 焼き串を食べていた。


「美味いのだぁ♡」


 隣。


 リズが呆れ顔で歩いている。


「……あんた、本当に緊張感ないわね」


「のだぁ?」


「国王死んだのよ?」


「大変なのだぁ」


「他人事ねぇ……」


 完全に他人事だった。


 現在。


 王国は混乱中。


 だが。


 レイ。


 普通にデートしている。


「のだっ♡」


 しかも。


 妙に楽しそう。


 屋台。


 川。


 市場。


 全部回っていた。


「ほれ!」


「?」


 レイがリズへリンゴ飴を押し付ける。


「おごりなのだっ♡」


「……珍しい」


「吾輩、今ちょっとお金あるのだぁ♡」


「盗品じゃないでしょうね」


「たぶん違うのだぁ♡」


「たぶんって何よ」


 リズは呆れながらも受け取った。


 最近。


 王都の空気は重い。


 皆不安そうだ。


 次の王は大丈夫か。


 戦争になるのでは。


 税はどうなる。


 色々な噂が飛び交っている。


 だが。


 レイだけは変わらない。


「のだっ♡」


 焼き串もぐもぐ。


「平和なのだぁ♡」


「どこがよ」


 リズは思わず笑った。


 その時。


 橋の上で楽団が演奏を始める。


 静かな音楽。


 夕暮れ。


 川面が光る。


「……」


 リズは少しだけ目を細めた。


 不思議だった。


 こんな時代なのに。


 こんな馬鹿と歩いていると、少しだけ気が楽になる。


「のだぁ?」


「何でもない」


「むむっ♡」


 レイは急にニヤニヤする。


「デートっぽいのだぁ♡」


「……今更?」


「のだっ♡」


 レイは何故か得意げだった。


「吾輩、モテモテなのだぁ♡」


「普通顔のくせに」


「性格が最高なのだぁ♡」


「最低の間違いでしょ」


 レイはケラケラ笑う。


 そして。


 ふと。


 空を見る。


 王城の方角。


 遠い。


「……のだぁ」


「?」


「なんか王都ピリピリしてるのだぁ」


「当たり前でしょ」


 リズは少し真顔になる。


「これから荒れるわよ」


「のだぁ」


「賢王が死んだんだから」


 レイは少し考える。


 そして。


「……でも」


「?」


「みんな、頑張るしかないのだぁ」


 リズが少し驚く。


「……珍しくまともね」


「吾輩も頑張って逃げるのだっ♡」


「台無しね」


 リズは吹き出した。


 夕暮れ。


 笑い声。


 王国は揺れている。


 これからもっと混乱する。


 だが。


 それでも人は生きる。


 泣きながらでも。


 笑いながらでも。


 そして。


 川辺では、最低で自由な元勇者が焼き串を頬張っていた。


「のだっ♡ 追加でもう一本買うのだぁ♡」

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