表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/46

42

 南部反乱。


 それが公式名称だった。


 だが実際には、反乱と呼べるほど大層なものではない。


 飢えだった。


 干ばつ。


 重税。


 徴発。


 蓄積された疲弊。


 それが限界を超えただけ。


 村人たちは武器すらまともに持っていなかった。農具。石。木槌。その程度だ。


 だが。


 王国は「反乱」と呼んだ。


 そうしなければ処理できないからだ。


「……」


 玉座の間。


 国王は静かに書類を見ていた。


「南部の混乱、長引いております」


「……」


「一部領主は増税停止を提案しておりますが」


「甘い」


 国王は即答した。


「今止めれば他地域まで揺れる」


 正論だった。


 実際。


 王国は巨大だ。


 一箇所の譲歩は連鎖する。


 だから。


 潰す。


 いつものように。


「アレン」


「……はい」


 アレンは静かに跪いていた。


 顔色は悪い。


 目の下には濃い隈。


 最近まともに眠っていない。


 だが。


 国王は気づかない。


 あるいは。


 気づいていても止まらない。


「南部を鎮圧しろ」


「……」


「見せしめが必要だ」


 アレンは目を伏せる。


 見せしめ。


 つまり。


 大量処理。


 焼き討ち。


 公開処刑。


 いつものやり方だ。


「……承知しました」


 口はそう答えた。


 だが。


 その瞬間。


 夢の中の声が耳へ蘇る。


『貴方も王と同じよ』


『剣を振ったのは貴方』


『真面目ぇ♡』


 アレンの指が小さく震える。


 国王はまだ続けていた。


「甘さを見せるな」


「……」


「王国のためだ」


 王国のため。


 ずっと聞いてきた言葉だった。


 ずっと。


 自分を納得させてきた言葉。


 だが。


 最近。


 もう。


 それが空虚に聞こえる。


「……」


 アレンはゆっくり顔を上げる。


 国王を見る。


 賢王。


 民衆の英雄。


 王国の支柱。


 だが。


 その目は冷たかった。


 昔、クラウディアへ狂った男。


 今は感情を切り捨てることで王国を守る男。


 そして。


 気づけば。


 自分も同じ場所へ立っていた。


「……」


 その時だった。


 ふわり、と。


 甘い香り。


 アレンだけが気づく。


 玉座の後ろ。


 赤いドレス。


 クラウディア。


 亡霊。


 誰にも見えない。


 彼女は笑っていた。


『可哀想♡』


 アレンの胸の奥で。


 何かが切れた。


「……陛下」


「何だ」


「……」


 アレンは静かに剣へ手をかける。


 国王はまだ気づかない。


「俺は」


「?」


「もう限界です」


 次の瞬間。


 白銀の剣が抜かれた。


 ギィン!!


 玉座の間が凍る。


「――ッ!?」


 近衛騎士が叫ぶより早かった。


 アレンは踏み込んでいた。


 速い。


 王国最強級。


 誰も止められない。


「アレン!!」


 国王が立ち上がる。


 だが。


 遅い。


 ズバァァァッ!!


 鮮血。


 赤。


 玉座へ飛び散る。


 国王の身体が崩れた。


「……っ」


 静寂。


 誰も動けない。


 国王は床へ倒れながら、信じられないものを見る目でアレンを見上げていた。


「……な、ぜ……」


 アレンは答えない。


 呼吸だけが荒い。


 そして。


 ゆっくり。


 国王の傍へ膝をつく。


「……」


 その時。


 赤いドレスの女が現れた。


 クラウディア。


 亡霊。


 彼女は楽しそうに笑っていた。


「……ふふっ」


 近衛騎士たちには見えない。


 だが。


 死にかけた国王だけは見えていた。


「……っ」


 国王の顔が青ざめる。


「クラウ、ディア……」


 彼女はゆっくりしゃがみ込む。


 そして。


 死にゆく王の頬へ触れた。


 白い指。


 冷たい。


 だが。


 昔と同じ仕草。


「お久しぶりですわぁ♡」


 国王の目が震える。


 恐怖。


 後悔。


 愛情。


 全部混ざっていた。


「……お前、は……」


「酷いわねぇ♡」


 クラウディアは笑う。


「全部わたくしのせいにしてぇ♡」


「……」


「でも」


 彼女は少しだけ優しく微笑んだ。


「ちゃんと覚えててくれたのね」


 国王の目から涙が落ちる。


 賢王。


 英雄。


 支配者。


 だが。


 最後だけは。


 昔の愚かな王子の顔だった。


「……クラウディア……」


 彼女は静かに王を抱きしめる。


 まるで。


 昔へ戻るみたいに。


 炎と血と欲望に満ちていた時代へ。


「……ふふっ」


 クラウディアは優しく囁いた。


「今度はちゃんと地獄まで付き合ってねぇ♡」


 その瞬間。


 国王の呼吸が止まった。


 静寂。


 そして。


 誰にも見えないまま。


 王の霊がゆっくり立ち上がる。


 若い頃の姿。


 愚かだった頃の王子。


 クラウディアはその手を取った。


「行きましょうか♡」


「……ああ」


 二人は抱き合う。


 まるで。


 最初から全部壊れる運命だった恋人みたいに。


 そして。


 光へ溶けるように消えていった。


 一方。


 現実。


 玉座の間では。


 アレンだけが立ち尽くしていた。


 剣は血塗れ。


 王は死んだ。


 そして。


 アレンはようやく理解する。


 自分が。


 本当に取り返しのつかない場所まで来てしまったことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ