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性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


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38 さらに出世するアレン

 数ヶ月後。


 王都アルメリア。


 中央広場。


 朝から人で溢れていた。


「副団長殿がついにか!」


「若いのになぁ!」


「さすが英雄アレン様だ!」


 歓声。


 拍手。


 白い花びら。


 そして。


 広場中央。


 白銀の正装へ身を包んだアレンが立っていた。


 長身。


 整った顔立ち。


 真っ直ぐな立ち姿。


 民衆が熱狂するのも無理はない。


 まるで。


 物語から出てきた理想の騎士だった。


「……」


 だが。


 本人だけは静かだった。


 玉座席。


 国王が立ち上がる。


「アレン・グランディス」


「はっ」


「其方を本日より――」


 広場が静まる。


「王国騎士団総長代理へ任命する」


 歓声。


 大歓声。


「おおおおおお!!」


「すげぇ!!」


「若すぎるだろ!!」


 普通なら異例だった。


 二十代でここまで出世する騎士など滅多にいない。


 だが。


 誰も文句を言えない。


 実績がありすぎた。


 盗賊討伐。


 魔物掃討。


 貴族反乱鎮圧。


 災害対応。


 外交護衛。


 全部成功。


 しかも。


 人格者。


 汚職なし。


 女遊び少ない。


 部下人気も高い。


 完璧だった。


「……」


 王は静かにアレンを見る。


 信頼している。


 それは本当だった。


 そして。


 使いやすい。


 それも本当だった。


 アレンは断らない。


 責任から逃げない。


 だから。


 どんどん重い仕事が来る。


「……」


 アレンは跪いたまま静かに頭を下げる。


「謹んでお受けいたします」


 歓声。


 拍手。


 だが。


 アレンの胸は少し重かった。


 なぜなら。


 出世するほど。


 綺麗な仕事が減るからだ。


 一方。


 貴族席。


「……」


 何人かの貴族は複雑そうだった。


「若すぎる」


「だが民衆人気が高い」


「陛下のお気に入りだからな……」


 そして。


 誰も口には出さないが。


 理解していた。


 アレン。


 今や。


 王の剣そのものだった。


 必要なら。


 誰でも切る。


 王命なら。


 汚れる。


 だから。


 便利。


 式典後。


 王城廊下。


「総長代理殿!」


「おめでとうございます!」


「流石です!」


 騎士たちが集まる。


 アレンは微笑みながら応対していた。


「ありがとうございます」


「皆のおかげです」


 完璧だった。


 だが。


 その時。


 王直属秘書官が近づく。


「……総長代理殿」


「?」


「陛下がお呼びです」


 周囲の空気が少し変わる。


 皆察する。


 祝いではない。


 仕事だ。


 しかも。


 重い方。


「……」


 アレンは静かに頷いた。


「承知しました」


 玉座の間。


 人払い済み。


 国王は窓の外を見ていた。


「……来たか」


「はっ」


「アレン」


「はい」


 王はゆっくり振り返る。


「最近、南部貴族が妙な動きをしている」


「……」


「証拠はまだない」


「……はい」


「だが、放置はできん」


 アレンは静かに理解する。


 つまり。


 消せ、ということだ。


 まだ。


 罪が確定していなくても。


「……」


 王は静かに言う。


「其方なら任せられる」


 その一言。


 重い。


 信頼。


 期待。


 そして。


 逃げ道のない責任。


「……」


 アレンは目を伏せる。


 断れない。


 断れば。


 別の誰かがやる。


 もっと下手に。


 もっと汚く。


 だから。


 自分がやる。


 いつもそうだった。


「……承知しました」


 王は静かに頷く。


 それで終わり。


 会話は短い。


 だが。


 アレンの肩へ乗るものはどんどん重くなる。


 その夜。


 騎士団本部。


「総長代理殿!」


「書類です!」


「南部視察日程を!」


 忙しい。


 止まらない。


 出世とは。


 自由が減ることでもあった。


「……」


 アレンは机へ座る。


 書類の山。


 地図。


 報告書。


 そして。


 窓の外。


 ふと。


 白い犬が見えた気がした。


「……」


 アレンは少し目を細める。


 だが。


 もういない。


「……レイさん」


 思わず呟く。


 あの男なら。


 今頃どこかで肉食って笑ってる。


 責任もなく。


 自由に。


「……羨ましいですね」


 本当に少しだけ。


 そう思ってしまった。


 そして。


 アレンは再び書類へ目を落とす。


 真面目な人間は。


 止まれない。


 出世すればするほど。


 王国という巨大な歯車へ、深く組み込まれていくのだった。

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