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性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


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 《泣き声の塔》。


 深夜。


 静かな雨音が続いていた。


 王妃セレフィナは机へ向かっていた。


 古い羊皮紙。


 封蝋。


 暗号化された記録。


 何年もかけて集めた情報。


 王城で生きる女は、無力ではいられない。


 まして。


 幽閉された王妃なら尚更だった。


「……」


 セレフィナは一枚の紙を静かに閉じる。


 そこに記されているのは。


 処刑。


 粛清。


 隠蔽。


 横領。


 密約。


 失敗。


 全部。


 王の治世の裏側だった。


 もちろん。


 全てが悪ではない。


 むしろ。


 現国王は間違いなく優秀だった。


 そこが厄介だった。


「……」


 セレフィナは窓の外を見る。


 王都。


 夜でも灯りが多い。


 飢餓暴動はない。


 大規模反乱もない。


 治安も比較的安定している。


 近隣諸国と比べれば。


 この王国はかなり豊かな方だった。


 それは事実。


 王は災害対応に優れていた。


 飢饉が起きれば備蓄を開放する。


 洪水なら即座に治水工事。


 疫病なら隔離。


 貴族反乱の芽も早めに潰す。


 しかも。


 必要なら。


 汚れ仕事を躊躇しない。


 だから。


 王国は安定した。


「……」


 セレフィナは小さく目を閉じる。


 反省していない。


 それも事実だった。


 王は今でも。


 責任を誰かへ押し付ける。


 必要なら巫女を燃やす。


 司祭を消す。


 貴族を事故死させる。


 そして。


 民衆へ。


『王国を守るためだった』


 と言う。


 実際。


 結果だけ見れば。


 守れてしまっている。


 そこが最悪だった。


「……」


 もし。


 現国王が単なる暴君なら。


 簡単だった。


 失脚させればいい。


 秘密を暴けばいい。


 だが。


 違う。


 王は。


 王国そのものを支えている。


 少なくとも現時点では。


「……復讐」


 セレフィナは小さく呟く。


 彼女には理由がある。


 友人を焼かれた。


 塔へ閉じ込められた。


 人生を奪われた。


 許せない。


 だが。


 単純な感情だけで王を倒せば。


 王国そのものが壊れる可能性がある。


 そして。


 最大の問題。


 王太子。


「……」


 セレフィナは机上の肖像画を見る。


 若い青年。


 まだ二十代前半。


 真面目。


 聡明。


 優しい。


 だが。


 父ほど冷酷ではない。


 つまり。


 父ほど強くない。


「……」


 それを。


 母親であるセレフィナ自身が理解していた。


 王太子は優秀だ。


 だが。


 現国王レベルではない。


 災害。


 暴動。


 飢饉。


 外交。


 貴族統制。


 全部を同時に回せるか。


 正直。


 怪しい。


 そして。


 もっと深刻なのは。


 王の権威だった。


 現国王は。


 賢王として民衆へ浸透している。


 多少冷酷でも。


 結果を出し続けてきた。


 だから支持される。


 もし。


 そのイメージが崩壊すれば。


 どうなるか。


「……」


 王太子が巻き込まれる。


『賢王の息子』


 というブランドごと壊れる。


 民衆は急に不安定になる。


 貴族は動く。


 近隣諸国も狙う。


 つまり。


 王だけを倒すことはできない。


 王国ごと揺れる。


「……」


 セレフィナはゆっくり紅茶を飲む。


 冷めていた。


 彼女は長年考え続けていた。


 どうすれば。


 王だけを壊せるのか。


 どうすれば。


 王太子の継承を守りながら。


 王へ報いを与えられるのか。


 だが。


 答えはまだ見えない。


「……」


 皮肉だった。


 憎んでいる。


 それは本物。


 だが。


 同時に理解している。


 現国王が消えれば。


 王国はかなり危うくなる。


 それも事実。


 だから。


 動けない。


 機密情報は集まる。


 秘密も増える。


 だが。


 使えない。


 使うタイミングを間違えれば。


 全部終わる。


「……」


 窓の外。


 雨が強くなる。


 セレフィナは静かに目を閉じた。


 王は罪深い。


 だが。


 王国は今。


 その罪深さの上で安定している。


 それが。


 最も醜く。


 最も厄介な現実だった。

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