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性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


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 《泣き声の塔》。


 深夜。


 雨。


 静かな蝋燭の火。


 王妃セレフィナは窓辺で紅茶を飲んでいた。


 その向かい。


「のだっ♡」


 レイ。


 超ご機嫌。


 机へ身を乗り出しながらニヤニヤしている。


「面白かったのだぁ♡」


 完全に悪い顔だった。


 エリシアは天井近くで頭を抱えている。


「……どんどん嫌な方向へ才能発揮してるわねこの勇者……」


 だが。


 セレフィナは静かだった。


「報告して」


「のだっ♡」


 レイはドヤ顔。


「アラン、またお仕事してたのだぁ♡」


「……」


 セレフィナは静かに目を細める。


 アレン。


 王の剣。


 真面目で。


 優秀で。


 逃げない男。


 だから。


 王に使われ続ける。


「今回は?」


「教会なのだぁ」


「……そう」


 レイは焼き菓子を齧りながら続ける。


「なんかお爺さんと喋ってたのだぁ♡」


「聞こえた?」


「ちょっとだけなのだぁ♡」


 レイ。


 本当に尾行していた。


 しかも。


 王妃命令。


 数日前。


『アレンを見てきて』


『お金くれるのだぁ?』


『あげる』


『やるのだっ♡』


 即落ちだった。


 そして。


 現在。


 妙に有能。


 犬。


 猫。


 鳥。


 全部使って監視している。


 怖かった。


「のだっ♡」


 レイはニヤニヤする。


「アランのやつ全く気づいてなかったのだっ♡」


「……」


「しかも吾輩を見ても捕まえるのど忘れしてやがったのだっ♡」


 レイは腹を抱えて笑う。


「ぷぷっ……」


 セレフィナは静かに紅茶を置いた。


「それは」


「のだぁ?」


「少し疲れてるのかもしれないわね」


「のだっ♡」


 レイは机へ頬杖をつく。


「アラン、真面目過ぎるのだぁ」


「……ええ」


「吾輩なら途中でサボるのだっ♡」


「知ってる」


 レイはケラケラ笑っていた。


 だが。


 セレフィナは少し考えていた。


 最近。


 王は処理を急ぎすぎている。


 司祭。


 神官。


 巫女。


 貴族。


 不穏分子。


 静かに消えていく。


 そして。


 その実行役がアレン。


「……」


 セレフィナは窓の外を見る。


 雨。


 暗い王都。


 王は昔より賢くなった。


 だが。


 やっていることは本質的には変わっていない。


 ただ。


 洗練された。


 昔は激情。


 今は静かな切除。


 それだけ。


「のだぁ?」


 レイが首を傾げる。


「難しい顔なのだぁ」


「……そう?」


「悪いこと考えてる顔なのだっ♡」


 鋭かった。


 セレフィナは少し笑う。


「あなたほどじゃないわ」


「のだっ♡」


 レイ。


 超嬉しそう。


「褒められたのだぁ♡」


「褒めてない」


 だが。


 レイは本当に役立っていた。


 王城の空気。


 騎士団。


 噂。


 人間関係。


 全部拾ってくる。


 しかも。


 本人が異常に軽い。


 だから。


 深刻な空気にならない。


「のだっ♡」


 レイは急に机へ身を乗り出した。


「あとぉ♡」


「?」


「アラン、焼き芋でちょっと泣きそうだったのだぁ♡」


 セレフィナが止まる。


「……」


「……」


「……泣きそう?」


「のだっ♡」


 レイはケラケラ笑う。


「ちょろいのだぁ♡」


 だが。


 セレフィナは少し黙った。


 アレン。


 壊れ始めているのかもしれない。


 真面目な人間は。


 限界まで我慢する。


 そして。


 ある日急に壊れる。


「……」


 セレフィナは静かに目を伏せる。


 王は多分気づいていない。


 あるいは。


 気づいていても使う。


 有能だから。


 レイはそんな空気を知らず、まだニヤニヤしていた。


「のだっ♡」


「?」


「吾輩、超上手く尾行できたのだぁ♡」


「そうね」


「犬姿、便利なのだっ♡」


 レイは得意げに尻尾の真似をする。


「わんっ♡」


 セレフィナは吹き出しかけた。


「……ふっ」


 ほんの少しだけ笑う。


 レイは即反応。


「のだっ♡」


「?」


「笑ったのだぁ♡」


「……」


「もっと笑うのだっ♡」


 セレフィナは少しだけ目を細める。


 変な男。


 最低。


 守銭奴。


 性格も悪い。


 だが。


 この塔へ風を持ち込む。


 腐った空気を乱す。


 そして。


 王妃は静かに思っていた。


 この男。


 いつか。


 王国をめちゃくちゃに掻き回すかもしれない、と。

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