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《泣き声の塔》。
夜。
雨。
静かな石塔の最上階。
蝋燭の火だけが揺れている。
「のだっ♡」
窓から白い子犬が飛び込んできた。
ボフン。
煙。
人間姿へ戻る。
レイだった。
「遊びに来たのだぁ♡」
「ノックくらい覚えなさい」
王妃セレフィナは呆れた顔で紅茶を飲んでいた。
――一ヶ月。
レイはちょくちょく塔へ来ていた。
本当にちょくちょく。
しかも。
大体夜中。
大体窓。
大体何か盗んできた。
「高級クッキーなのだっ♡」
「また盗品?」
「王城のなのだぁ♡」
「最悪」
だが。
セレフィナはもう慣れていた。
最初は警戒した。
狂人かと思った。
実際かなり狂人寄りだった。
だが。
この男。
妙なところで有能だった。
「のだっ♡」
レイは椅子へ座る。
勝手に。
図々しく。
しかも。
何故か王城情報を大量に持っている。
「東棟の貴族、愛人バレて修羅場なのだぁ♡」
「……どうして知ってるの」
「見たのだっ♡」
「どこで」
「天井裏」
「怖い」
本当に怖かった。
しかも。
レイ。
変幻魔法がある。
犬。
猫。
使用人。
兵士。
なんでも化ける。
そのせいで。
王城内情報収集能力が異常だった。
「第二王子、借金まみれなのだぁ♡」
「……」
「財務卿、横領してるのだぁ♡」
「……」
「あと近衛騎士長、カツラなのだぁ♡」
「最後どうでもいいわね」
セレフィナは紅茶を置いた。
そして。
静かにレイを見る。
「……」
レイ。
性格最悪。
守銭奴。
倫理観終わってる。
だが。
異常に使える。
特に。
政治向きの汚れ仕事。
スパイ。
潜入。
攪乱。
情報収集。
全部できる。
しかも。
本人に政治思想がない。
『お金』
『面白そう』
『宿代』
大体これで動く。
つまり。
扱いによっては非常に便利だった。
「……」
セレフィナは少し目を細める。
レイは焼き菓子を頬張っていた。
「美味いのだぁ♡」
間抜け。
だが。
王妃は知っている。
こういうタイプほど危険。
特に。
権力者が使うと。
「……レイ」
「のだぁ?」
「あなた、王城に自由に入れるのよね」
「余裕なのだっ♡」
レイはドヤ顔。
「犬になれば誰も気にしないのだぁ♡」
「……」
「あと侍女になるとめちゃくちゃ便利なのだぁ♡」
「聞きたくなかった情報ね」
しかも。
妙に観察眼が鋭い。
誰と誰が敵対してるか。
誰が愛人抱えてるか。
誰が金を隠してるか。
全部見ている。
本人は遊び感覚だが。
情報としては危険すぎた。
「……」
セレフィナはゆっくり窓の外を見る。
王。
賢王。
民衆人気。
だが。
巫女を焼き。
失敗を死人へ押し付ける男。
彼女自身。
塔へ閉じ込められている。
つまり。
王妃であって王妃ではない。
飾り。
亡霊。
「……」
レイはそんな彼女を見て首を傾げる。
「のだぁ?」
「何でもないわ」
「難しい顔なのだぁ」
セレフィナは少し笑った。
「考え事よ」
「お金なのだぁ?」
「違う」
「じゃあ食べ物」
「違う」
「じゃあ悪いこと」
セレフィナが止まる。
「……」
「……」
「……どうしてそうなるの」
「悪い顔してたのだっ♡」
レイはニヤニヤしていた。
だが。
半分当たりだった。
セレフィナは静かにレイを見る。
もし。
この男を使えば。
王城を引っ掻き回せる。
王の秘密。
貴族の汚職。
巫女処刑。
過去。
全部。
しかも。
レイは妙に人懐こい。
警戒されにくい。
馬鹿に見える。
だから皆、油断する。
実際には。
かなり危険な生き物なのに。
「……」
セレフィナは紅茶を飲む。
そして。
小さく微笑んだ。
「ねぇレイ」
「のだぁ?」
「お金、欲しい?」
「のだっ♡」
レイの目がキラァァァンと輝く。
「超欲しいのだぁ♡」
即答だった。
セレフィナは少し笑う。
やっぱり扱いやすい。
「じゃあ」
「のだっ♡」
「ちょっとお願い聞いてくれる?」
「内容次第なのだぁ♡」
「人を殺したりはしないわ」
「安心なのだぁ♡」
「ただ」
セレフィナの笑みが少し冷たくなる。
「少しだけ、王城を困らせたいの」
「のだっ♡」
レイ。
満面の笑み。
「得意分野なのだぁ♡」
エリシアは天井近くで頭を抱えていた。
「……最悪の組み合わせになりそうね……」




