表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/46

33 泣き声の塔

 王都アルメリア。


 王城北部。


 誰も近づかない古塔がある。


 白灰色の石塔。


 細長い。


 窓は少ない。


 昼でも薄暗い。


 そして。


 夜になると。


 時々。


 泣き声が聞こえる。


 だから人々は呼んだ。


 ――《泣き声の塔》。


 使用人たちは近づきたがらない。


 近衛騎士ですら夜番を嫌がる。


「また聞こえたらしいぞ」


「泣いてる女の声」


「亡霊か?」


「いや……」


 そこから先は誰も言わない。


 王城では。


 触れてはいけない話だった。


 塔の最上階。


 そこに。


 一人の女がいた。


「……」


 王妃セレフィナ。


 まだ美しかった。


 長い銀髪。


 青白い肌。


 細い指。


 だが。


 目だけが死んでいる。


 部屋は豪華だった。


 王妃待遇だからだ。


 絹のカーテン。


 暖炉。


 高級な調度品。


 だが。


 扉は外からしか開かない。


 窓にも鉄格子。


 つまり。


 牢獄だった。


「……」


 セレフィナは窓辺へ座っていた。


 もう何年ここにいるのか。


 本人ですら曖昧だった。


 理由は単純。


 泣いたからだ。


 ただ。


 それだけ。


 数年前。


 王国で飢饉が起きた。


 民衆は荒れた。


 貴族は責任を押し付け合った。


 そして。


 一人の巫女が選ばれた。


 生贄として。


 巫女ミレナ。


 セレフィナの友人だった。


 優しい女だった。


 真面目で。


 民へ施しを続け。


 最後まで神へ祈っていた。


 だが。


 王は決めた。


『穢れを招いた』


 そう発表した。


 処刑。


 火刑。


 民衆は歓声を上げた。


 誰かを悪者にしたかったから。


 そして。


 その日。


 セレフィナは泣いた。


 友人が燃やされるのを見て。


 ただ。


 泣いてしまった。


 それだけだった。


 だが。


 王はそれを許さなかった。


『王妃が巫女へ同情した』


『不吉だ』


『民衆の前で王を否定した』


 そして。


 塔へ閉じ込めた。


 処刑はしない。


 だが。


 出さない。


 王妃として生かし。


 女として殺した。


「……」


 セレフィナは静かに窓の外を見る。


 雨。


 遠くの王都。


 人々の灯り。


 届かない。


 何も。


 彼女はもう。


 王へ怒りすら抱いていなかった。


 疲れ果てていた。


 若い頃。


 王はもっと違った。


 愚かで。


 暴君で。


 酒と女と戦争ばかりだった。


 だが。


 笑うことはあった。


 今は違う。


 賢王。


 民衆人気。


 名君。


 だが。


 目だけが冷たい。


 責任を押し付けることへ躊躇がない。


 人を切り捨てることへ慣れすぎた。


「……」


 セレフィナは小さく目を閉じる。


 ミレナは最後まで泣かなかった。


 燃えながら。


『王妃様、泣かないでください』


 と笑っていた。


 なのに。


 泣いた自分が生きている。


 それが時々。


 たまらなく苦しかった。


 その時。


 窓の外。


 何かが動いた。


「……?」


 白い。


 ふわふわ。


 犬。


「……犬?」


 子犬が窓の鉄格子へ張り付いていた。


「のだっ♡」


 セレフィナが固まる。


「……」


「……」


「……何?」


 子犬。


 キラキラした目。


 妙にムカつくドヤ顔。


 そして。


 ボフン。


 煙。


「のだっ♡」


 人間へ戻った。


 レイだった。


「侵入成功なのだぁ♡」


 セレフィナは数秒沈黙した。


「……」


「……」


「……誰?」


「勇者なのだっ♡」


「帰って」


 即答だった。


 レイが固まる。


「のだぁ!?」


 しかし。


 セレフィナは本当に疲れていた。


「暗殺ならもう少し静かにして」


「違うのだぁ!!」


「誘拐?」


「違うのだぁ!!」


「なら何」


 レイは胸を張った。


「迷子なのだっ♡」


 セレフィナは頭を抱えた。


「……何故ここへ来たの」


「泣き声の塔って聞いたのだぁ」


「……」


「気になったのだぁ♡」


 最悪だった。


 だが。


 レイは窓から部屋へ侵入すると、勝手に椅子へ座る。


「のだっ♡」


「帰りなさい」


「お茶欲しいのだぁ♡」


「図々しいわね……」


 しかし。


 レイは急に静かになった。


「……」


「?」


「お主、寂しそうなのだぁ」


 セレフィナが止まる。


「……」


「……」


「……」


 久しぶりだった。


 そんなことを言われたのは。


 王城では誰も言わない。


 使用人は目を逸らす。


 騎士は敬礼だけ。


 皆。


 この塔を見ないふりをする。


 セレフィナは小さく笑った。


「……そうかもしれないわね」


 レイは少し考える。


 そして。


 ゴソゴソ。


 袋から焼き菓子を出した。


「ほれ」


「……何これ」


「盗んだお菓子なのだっ♡」


「最低」


 だが。


 セレフィナは少しだけ笑った。


 本当に。


 少しだけ。


 窓の外では、静かに雨が降り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ