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性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


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31 新しい拠点

 王都から離れた山岳地帯。


 古い街道跡。


 さらにその奥。


 崩れかけた石造りの砦。


 現在。


 盗賊団《黒犬団》の新しい拠点である。


「……」


 昼。


 リズは砦の見張り台で腕を組んでいた。


 風が冷たい。


 最近はずっと落ち着かない。


 理由?


 レイである。


「……」


 あの馬鹿勇者。


 処刑から逃亡。


 国王激怒。


 王国全土指名手配。


 今や賞金首。


 普通なら死んでいてもおかしくない。


 なのに。


「……」


 リズは妙に気になっていた。


 別に心配してるわけじゃない。


 たぶん。


 いや。


 少しはしている。


 すると。


 下から盗賊の声。


「リズー!」


「何よ!」


「白い犬いるぞー!」


「……?」


 リズが眉をひそめる。


 次の瞬間。


「のだっ♡」


 砦の壁から。


 白い子犬がぴょこんと顔を出した。


「……」


「……」


「……レイ」


「のだっ♡」


 正解だった。


 リズは数秒固まる。


 そして。


「……」


「……」


「……生きてたの」


「のだっ♡」


 レイ犬は尻尾をブンブン振る。


「遊びに来たのだぁ♡」


 リズは思わず脱力した。


「……はぁぁぁ」


 なんだそれ。


 いや。


 レイならあり得る。


 周囲の盗賊たちもザワついていた。


「おい勇者!」


「生きてたのか!」


「今めちゃくちゃ指名手配されてるぞ!」


 レイ犬はドヤ顔。


「のだっ♡」


「人気者なのだぁ♡」


「違うだろ」


 ガルドも砦から出てきた。


 相変わらずデカい。


 怖い。


 だが。


 レイを見るなり少し表情が緩む。


「……なんだ、生きてんじゃねぇか」


「のだっ♡」


「処刑されたって噂もあったぞ」


「逃げたのだぁ♡」


「知ってる」


 盗賊団たちが笑い始める。


「ぎゃははは!!」


「王城で亡霊騒ぎ起こしたんだろ!?」


「クラウディア姫ぇ♡とかやったって?」


「のだっ♡」


 レイ、超ドヤ顔。


「超似てたのだぁ♡」


「お前ほんと馬鹿だな!!」


 大笑いだった。


 だが。


 笑いながら。


 皆ちょっと安心していた。


 生きていた。


 本当に。


 それだけで。


 リズは砦の階段を降りる。


 そして。


 レイ犬をひょいっと持ち上げた。


「のだっ!?」


「……本当に馬鹿ねあんた」


「のだぁ♡」


 リズは少し笑っていた。


 完全に呆れ顔だったが。


 前みたいな刺々しさは薄い。


「王様に喧嘩売るとか」


「怖かったのだぁ♡」


「ならやるな」


 正論だった。


 レイは抱えられながら尻尾を振る。


「でも面白かったのだぁ♡」


「最低」


 ガルドが腕を組む。


「今、王都ヤバいぞ」


「のだぁ?」


「お前の捜索で騎士団動きまくってる」


「うむ!」


 レイは誇らしげだった。


「吾輩、大物なのだっ♡」


「頭痛ぇ……」


 しかし。


 ガルドは少し真顔になる。


「……お前」


「のだぁ?」


「本当に大丈夫なのか」


 静かだった。


 盗賊たちも少し黙る。


 レイ。


 今。


 本気で国王から狙われている。


 しかも。


 理由が理由だ。


 政治の地雷を踏み抜いた。


 普通の賞金首とは違う。


「……」


 だが。


 レイは数秒考えた後。


「のだっ♡」


「逃げるのだぁ♡」


 いつもの答えだった。


 盗賊団たちが吹き出す。


「ぎゃははは!!」


「お前ほんとそれだな!」


「逃亡特化勇者!!」


 リズも笑っていた。


 そして。


 ふと。


 レイ犬の頭を撫でる。


「……でも」


「のだぁ?」


「生きてて良かったわよ」


 少しだけ静かだった。


 レイが止まる。


「……のだぁ?」


 リズは目を逸らす。


「借りあるし」


「のだっ♡」


 レイ犬。


 急にニヤァァと笑う。


「ツンデレなのだぁ♡」


「殺すわよ」


「のだぁっ!?」


 即首を締められる。


 盗賊団大爆笑。


「ぎゃはははは!!」


「いつものだ!!」


 砦の空気は久しぶりに明るかった。


 夜。


 焚き火。


 酒。


 肉。


 盗賊たちが騒ぐ中。


 レイは普通に混ざっていた。


「のだっ♡」


 肉を頬張る。


「美味いのだぁ♡」


 完全に遊びに来てる。


 リズは呆れながらその姿を見ていた。


「……」


 変な男。


 最低。


 守銭奴。


 馬鹿。


 でも。


 何故か。


 いると少し空気が軽くなる。


 ガルドも酒を飲みながら笑っていた。


「おい勇者」


「のだぁ?」


「次は何やらかす気だ」


 レイは肉を食べながら少し考える。


「……のだぁ」


「?」


「とりあえず逃げるのだっ♡」


 盗賊団たちがまた笑った。


 その笑い声は、山奥の夜へ長く響いていた。

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