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性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


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3

 北方旧街道。


 かつて交易都市として栄えた町、ルグナード。


 今では滅びていた。


 石畳は割れ。


 家々は崩れ。


 風が吹くたび、朽ちた看板がギィギィと鳴る。


 夜になると魔物が徘徊し、旅人どころか盗賊すら近づかない。


 そんな土地の中央。


 半壊した古い教会だけが、奇跡のように残っていた。


 ステンドグラスは割れ。


 天井には穴。


 祭壇は崩壊。


 普通なら誰も住まない。


 だが。


「ぐごぉおおお……のだぁ……むにゃぁ……」


 いた。


 勇者レイである。


 ボロボロの長椅子を三つ並べ。


 勝手に毛布を敷き。


 靴を脱ぎ散らかし。


 腹を出して寝ていた。


 しかも。


「……宿代ぁ……払いたくないのだぁ……」


 寝言でまでケチだった。


 数日前。


 王都で宿代滞納を繰り返した結果。


「もう来るな!!」


 と、本当に全部の宿から出禁になったのである。


 当然だった。


 だがレイは全く反省していなかった。


「のだぁ……宿屋は怖いのだぁ……お金取られるのだぁ……」


 宿屋だからである。


 しかもこの男。


 普通なら野宿を嫌がるくせに。


「廃墟ならタダなのだっ♡」


 という理由だけで、危険地帯に来た。


 頭がおかしかった。


 そして。


 そんな教会の外では。


 グルルルル……


 魔物たちが徘徊していた。


 巨大な狼型魔物。


 腐肉を引きずる亡者。


 壁を這う黒い怪物。


 普通の冒険者なら即死する区域である。


 だが。


 魔物たちは教会へ近づけなかった。


 理由は単純。


「……はぁ」


 教会の祭壇の上。


 そこに女が座っていた。


 白銀の髪。


 青白い肌。


 人間離れした美貌。


 神々しい衣。


 そして――。


 めちゃくちゃ嫌そうな顔。


「なんで私がこんな馬鹿を守ってるのよ……」


 女神エリシアである。


 この世界で信仰される守護女神。


 本来なら神殿の奥で祈りを受ける存在。


 だが今。


 半壊教会で寝てるクズ勇者の見張りをしていた。


 意味がわからない。


「ぐぅ……のだぁ……肉……もっと寄越せなのだぁ……」


 レイは鼻をほじりながら寝返りを打った。


 その瞬間。


 ゴッ!!


 椅子から転落した。


「のだっ」


 床に落ちたまま寝続ける。


 女神はジト目になった。


「……こいつ本当に勇者?」


 疑問しかない。


 しかも。


 レイは勇者としての才能も微妙だった。


 剣術もそこそこ。


 魔法も微妙。


 精神性に至っては終わっている。


 強欲。


 怠惰。


 性格最悪。


 なのになぜか死なない。


 なぜか生き残る。


 そしてなぜか妙に運が良い。


 それがレイだった。


 外で魔物が吠えた。


「グルルルル……」


 女神はため息をつく。


 指を軽く動かす。


 瞬間。


 教会周辺に淡い光が広がった。


 魔物たちが悲鳴を上げる。


「ギャアアアア!!」


 逃げていく。


 女神は冷たい目でレイを見た。


「……感謝くらいしなさいよ」


「むにゃぁ……」


 全然聞いてなかった。


 しかも。


「のだぁ……女神ぃ……もっと働けなのだぁ……」


 寝言である。


 女神の額に青筋が浮いた。


「……殺す?」


 だが。


 殺そうとすると妙に気が引ける。


 それが腹立たしかった。


 そもそも。


 レイと女神の関係はかなり奇妙だった。


 数年前。


 まだレイが本当にただのクズ冒険者だった頃。


 遺跡荒らし中に偶然、女神像を破壊しかけたのである。


 普通なら天罰案件。


 しかしレイは。


「のだぁ!? 違うのだぁ!!わざとなのだぁ!!……あ、違ったのだぁ!わざとじゃないのだぁ!!」


 パニックで意味不明な言い訳を連発。


 しかも最後には。


「弁償代は払いたくないのだぁあああ!!」


 と泣き始めた。


 結果。


 なぜか女神に気に入られてしまった。


 エリシアは今でも意味がわかっていない。


「……本当に何なのこいつ」


 すると。


 レイが急に目を開けた。


「のだぁ?」


 女神と目が合う。


「……起きたの?」


「のだっ♡」


 レイはボーッと女神を見る。


 数秒沈黙。


 そして。


「腹減ったのだぁ」


「知らないわよ」


「ご飯作れなのだぁ」


「死になさい」


「酷いのだぁ!」


 レイは毛布にくるまって転がった。


「女神のくせに優しさが足りないのだぁ……」


「お前にだけは言われたくないわ」


 女神は冷たく言った。


「そもそもなんでこんな場所にいるのよ」


「宿代払いたくないのだぁ♡」


「最低」


「タダ最高なのだっ♡」


 レイはニコニコしていた。


 だが。


 次の瞬間。


 ぐぅうううう……


 腹が鳴る。


「……」


「……」


 女神は無言だった。


 レイは目を逸らした。


「……のだぁ」


「お金あるんでしょ?」


「……使いたくないのだぁ」


「クズ」


「守銭奴なのだっ♡」


 誇らしげだった。


 女神は深くため息をついた。


 そして指を鳴らす。


 祭壇の上にパンとスープが現れる。


「食べなさい」


「のだぁああああ!!」


 レイは一瞬で飛びついた。


「女神ぃいいい!!愛してるのだぁああ!!」


「うるさい」


 レイはパンを頬張りながら泣いていた。


「うめぇのだぁ……無料なのだぁ……」


「そこ?」


「無料は美味しいのだっ♡」


 女神は頭を抱えた。


 その時。


 教会の外で再び魔物の咆哮。


 巨大な影が窓を横切る。


 普通の人間なら恐怖で震える。


 だがレイは。


「のだぁ? 静かにしろなのだぁ」


 パンを食べながら言った。


「吾輩、眠いのだぁ」


 女神は呆れた顔で外を見る。


 魔物たちは結界を恐れ、近づけずに唸っていた。


 壊れた教会。


 終わった勇者。


 それを守るジト目の女神。


 世界観が滅茶苦茶だった。


 だが今夜も。


 滅びた町の教会だけは、不思議と静かだった。

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