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王都アルメリア中央広場。
晴天。
噴水はきらきら輝き、子供たちは走り回り、旅芸人は笛を吹いていた。
その平和な風景のど真ん中に――。
「のだっ♡ 勇者グッズ屋さんなのだっ♡」
胡散臭い屋台が建っていた。
布切れに雑に書かれた看板。
『本物の勇者レイ様公式公認超限定ありがたいグッズ』
怪しさ満点である。
そして店主。
「へっへっへなのだぁ♡」
勇者レイ。
顔普通。
性格最悪。
超守銭奴。
そしてつい先日、有能メンバー全員に見捨てられた元・勇者パーティのリーダーである。
なお本人は全く反省していなかった。
「うむ! 結局、人間はお金なのだぁ♡」
レイはドヤ顔で木箱を叩く。
その中には大量のガラクタが入っていた。
『勇者レイ様のありがたい使用済み手袋』
『勇者レイ様監修・幸運の干し肉』
『勇者レイ様の涙入り水筒』
『勇者レイ様の超限定勇者石』
ちなみに勇者石はその辺で拾った石だった。
レイはニコニコしていた。
「金貨二枚なのだぁ♡」
「高っ!?」
通行人が即叫んだ。
「石ですよねそれ!?」
「のだぁ? 違うのだぁ。勇者石なのだぁ♡」
「名前変えただけじゃないですか!」
「ブランド力なのだっ♡」
最低である。
しかも。
「のだっ♡ こちらの干し肉は吾輩が三回見つめた特級品なのだぁ♡」
「ただの干し肉ですよね?」
「勇者が見たのだぁ!」
「だから何なんですか!?」
「縁起物なのだっ♡」
しかし。
意外にも客はいた。
特に子供。
「わー! 勇者様だー!」
「ほんもの!?」
「サインください!」
レイは一瞬で態度を変えた。
「うむうむ♡ 良い子たちなのだっ♡ 未来ある幼子にサービスするのだっ♡」
サラサラとサインを書く。
ただし。
「サイン代、銀貨五枚なのだぁ♡」
「金取るの!?」
「当然なのだぁ♡」
母親たちがドン引きしていた。
だがレイは気にしない。
なぜなら。
「のだっ♡ これが資本主義なのだっ♡」
「勇者が言うことじゃないですよね?」
しかもレイ。
最近めちゃくちゃ暇だった。
パーティを追放された後。
ミーナたちもついに愛想を尽かし。
「もう無理です」
「あなたとは組めません」
「さようなら」
と、本当に全員消えたのである。
その結果。
レイは気づいた。
「……のだぁ?」
宿代が払えない。
依頼も来ない。
誰も戦ってくれない。
つまり。
「困ったのだぁあああああ!!!」
当然である。
なので今。
勇者ブランドを利用して小銭を稼いでいた。
なお本人は「天才的経営戦略」と思っていた。
その時。
「……何してるんですか」
背後から呆れた声。
振り向くと。
ミーナだった。
「のだぁっ♡」
レイはパァァァッと顔を輝かせた。
「ミーナぁ♡」
「その気持ち悪い呼び方やめてください」
「冷たいのだぁ……」
レイはしょんぼりした。
だが次の瞬間。
「のだっ♡ 再加入なのだぁ!? うむ! なら給料は以前より二割減なのだっ♡」
「違います」
即答だった。
「ただ通りかかっただけです」
「のだぁ……」
レイは露骨に不貞腐れた。
ミーナは屋台を見回す。
「……なんですかこれ」
「勇者グッズなのだっ♡」
「ただの石ありますけど」
「勇者石なのだぁ♡」
「名前変えただけですよね?」
「ブランド戦略なのだっ♡」
「終わってますね」
ミーナは深くため息をついた。
「そもそも、アレンさん追放した時点でこうなるのわかってたでしょう」
「のだぁ? わからなかったのだっ♡」
「本気で?」
「本気なのだっ♡」
ミーナは頭を抱えた。
この男。
本当に理解していない。
「……今アレンさん、王国騎士団で副団長待遇らしいですよ」
「のだぁ?」
「女性人気も凄いです。今度肖像画集出るそうです」
「肖像画集ぅ!?」
レイが絶叫した。
「なんでなのだぁあああ!!」
「顔が良いからですよ」
「ズルいのだぁあああ!!」
レイは机を叩いた。
「吾輩も出したいのだぁああ!!」
「誰が買うんですか」
「……」
一瞬黙った。
「……お主」
「嫌です」
即答。
「金貨十枚なのだっ♡」
「もっと嫌です」
レイはガックリ肩を落とした。
だが。
次の瞬間。
「のだぁっ♡ 閃いたのだっ♡」
嫌な予感しかしなかった。
「アレンの人気に便乗するのだぁ♡」
「最低ですね」
「『元同僚が語る!イケメン剣士アレンの真実!』なのだぁ♡」
「怒られますよ」
「へっへっへなのだぁ♡ 吾輩しか知らない秘密を暴露して本を売るのだぁ♡」
「クズすぎる……」
その時。
広場が急にざわついた。
「きゃあああ!!」
「アレン様!?」
「素敵……!」
人波が割れる。
そこにいたのは。
騎士団の白マントを羽織ったアレンだった。
超イケメンである。
しかも今日は公式騎士服。
キラキラしていた。
周囲の女性たちが完全に目をハートにしている。
「のだぁ……」
レイは固まった。
アレンもレイに気づいた。
「……」
「……」
沈黙。
そしてアレンは屋台を見る。
『勇者レイ様の涙入り水筒』
『超限定勇者石』
『勇者レイ様と間接キスしたかもしれないコップ』
アレンは静かに言った。
「……何してるんですか」
「商売なのだっ♡」
「最低ですね」
「うむ!」
レイは胸を張った。
アレンは疲れた顔で額を押さえた。
「……ちなみにいくら稼いだんですか」
「銀貨十二枚なのだっ♡」
「少なっ」
「のだぁああああ!!」
レイは逆ギレした。
「世間が吾輩の偉大さを理解してないのだぁあああ!!」
すると。
近くの子供が言った。
「でもおじちゃん弱いよね?」
「のだっ」
「前、ゴブリンから逃げてた!」
「のだぁ……」
「アレン様が倒してた!」
「のだぁあああああ!!!!」
レイは泣きながら机に突っ伏した。
ミーナが呆れた顔で呟く。
「……ある意味、平和ですね」
その横で。
レイはまだ諦めていなかった。
「のだぁ……次は『勇者レイと握手券』を売るのだぁ……」
「誰が買うんですか」
「……子供?」
「泣きますよ」
王都の空は今日も平和だった。




