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王都アルメリア。
その冒険者ギルドの二階は、昼間から酒臭かった。
なぜなら――。
「のだぁあああああ!!祝えなのだぁああ!!吾輩の新装備購入記念なのだぁああ!!」
勇者レイが、パーティ資金で勝手に純金の肩当てを買ったからである。
「レイ様、それ戦闘に必要なんですか?」
魔法使いミーナが死んだ目で聞く。
「必要なのだっ♡ 勇者とは見栄なのだっ♡」
「最低ですね」
「うむ!褒めるななのだっ♡」
レイはドヤ顔で椅子にふんぞり返った。
年齢二十四。
顔は普通。
特別イケメンでもない。
特別強くもない。
だが性格は終わっていた。
超性悪。
超守銭奴。
超絶責任転嫁人間。
にもかかわらず、なぜか勇者パーティのリーダーをやっている。
理由は単純。
媚びである。
王城の偉い司祭に泣きつき、なんかそれっぽい剣を授かり、「勇者っぽいマント」を着ていたら、いつの間にか勇者扱いになっていた。
なお、実績の八割は他メンバーによるものだった。
特に。
「……で、今日の依頼報酬は?」
静かに席へ座った青年を見た瞬間、ギルドの受付嬢たちがザワついた。
「アレン様よ……」
「今日も顔が良すぎる……」
「しかも強いし礼儀正しいし……」
剣士アレン。
金髪碧眼。
長身。
超絶イケメン。
しかも有能。
ドラゴン討伐、盗賊団壊滅、魔族撃退。
だいたい彼がやっていた。
レイは鼻をほじりながら言った。
「うむ!報酬の九割は吾輩のものなのだっ♡」
「この前も九割でしたよね?」
「勇者税なのだっ♡」
「そんな税聞いたことありませんが」
「今作ったのだぁ!」
ギルド中が静まり返った。
ミーナが小声で呟く。
「そろそろ刺されると思いますよ、この人」
「のだぁ? 嫉妬はやめるのだぁ♡」
レイは机の上の肉をむしゃむしゃ食べ始めた。
「そもそもなのだぁ! 吾輩は勇者なのだぁ! つまり偉いのだぁ! 偉い人はお金をいっぱい貰うものなのだぁ!」
「でも戦ってるのほぼアレンですよね」
「のだぁ? だから何なのだぁ?」
レイは真顔だった。
「部下が働くのは当然なのだぁ」
「クズすぎません?」
「うむ!」
レイは胸を張った。
「クズ界の勇者なのだぁ!」
その時だった。
受付嬢が慌てて駆け込んでくる。
「た、大変です! 北部山脈に災厄級魔物“黒牙竜”が現れました!」
ギルドが騒然となる。
黒牙竜。
A級冒険者数十人が壊滅した怪物である。
普通なら国家討伐案件。
だが。
「……行きますか」
アレンは静かに立ち上がった。
「うむ! 行くのだぁ!」
レイも立ち上がる。
ただし。
「吾輩は後方支援担当なのだっ♡」
「またですか」
「勇者は指揮官なのだぁ! 前線はお主ら下僕の仕事なのだぁ!」
数時間後。
北部山脈。
「グォオオオオオオオオオ!!!!」
巨大な黒竜が咆哮した。
木々が吹き飛ぶ。
地面が揺れる。
ミーナが青ざめる。
「む、無理です……!」
「のだぁあああ!!怖いのだぁあああ!!」
レイは真っ先に岩陰へ隠れていた。
「お主ら頑張れなのだぁああ!!吾輩は精神的支援をしてるのだぁああ!!」
「ただ震えてるだけですよね?」
「応援なのだっ♡」
だが。
アレンは一歩前へ出た。
「下がってください」
剣を抜く。
空気が変わる。
そして――。
一閃。
凄まじい剣圧が黒牙竜の片翼を吹き飛ばした。
「グガァアアアアア!!?」
ギルドでもトップ級と言われる実力。
さらに。
「ミーナさん、左から援護を」
「は、はい!」
「神官ルナ、結界を」
「了解!」
的確な指示。
完璧な連携。
レイは岩陰から叫ぶ。
「よぉおおし!!そのままなのだぁ!!死ぬ気で働けなのだぁあああ!!」
「お前も働け!!」
珍しく全員の声が揃った。
十分後。
黒牙竜は倒れた。
山ほどの素材。
莫大な討伐報酬。
王国からの特別褒賞。
普通なら祝勝会である。
しかし。
帰還後。
レイはギルド中央で椅子に座り、ニヤニヤしていた。
「……さてなのだぁ」
嫌な予感しかしなかった。
「アレン」
「はい?」
「追放なのだぁあああああ!!」
ギルドが凍りつく。
「え?」
レイは指を突きつけた。
「お主、最近調子に乗りすぎなのだぁ! 顔も良い! 強い! 女にモテる! つまり気に入らないのだぁああ!!」
「理不尽すぎません?」
「あと報酬もいっぱい持っていくのだぁ!」
「八割以上レイさんが取ってますよね?」
「もっと欲しいのだぁ!」
レイは机を叩いた。
「だから追放なのだぁ!!出ていけなのだぁああ!!お主の取り分も全部吾輩が貰うのだぁあああ!!」
ギルド中がドン引きしていた。
受付嬢たちですら顔を引きつらせている。
「勇者様……最低すぎませんか……?」
「のだぁ? 勇者とは強欲なものなのだぁ♡」
アレンはしばらく沈黙した後、小さく息を吐いた。
「……わかりました」
「のだっ♡」
「抜けます」
ミーナが慌てる。
「ちょ、ちょっと待ってくださいアレンさん!」
「こんなの納得できません!」
だがアレンは微笑んだ。
「大丈夫ですよ」
そしてレイを見る。
「後悔しないでくださいね」
「のだっ♡? しないのだっ♡」
三日後。
勇者パーティは壊滅しかけていた。
「のだぁあああああ!!!」
レイは泣きながら逃げていた。
「なんでなのだぁあああ!!C級ゴブリンに勝てないのだぁあああ!!」
「前衛がいないからですよ!!」
ミーナが絶叫する。
「誰が敵を止めるんですか!?」
「吾輩は嫌なのだぁ!!痛いの怖いのだぁ!!」
「勇者やめろ!!!」
しかも。
アレンを追放したという噂が王都中に広まり。
「えっ、あのイケメン剣士追放されたの?」
「無能勇者またやったの?」
「最低すぎる……」
世論は最悪。
さらに。
他パーティがアレン争奪戦を始めた。
「うちに来てください!」
「いや我々騎士団へ!」
「報酬は年三百万ゴルドです!」
「専属契約を!」
超売れっ子である。
一方レイ。
「のだぁ……」
宿代未払いで宿を追い出されていた。
「のだぁあああ!!なんでなのだぁああ!!」
なお。
その翌週。
アレン加入後の新パーティが魔王軍幹部を撃破したニュースが王国中を駆け巡り。
レイだけが誰にも誘われず、酒場で一人豆スープをすすっていた。
「のだぁ……」
隣の酔っ払いが呟く。
「お前、あの追放勇者だろ?」
「のだっ♡有名人なのだっ♡」
「悪い意味でな」
「のだぁあああああ!!!!」




