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性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


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 王城。


 玉座の間。


 空気は完全に凍っていた。


「……探せ」


 国王の声は低かった。


 重い。


 殺気すら滲んでいる。


「絶対に逃がすな」


 騎士たちが一斉に跪く。


「はっ!!」


 アレンも表情を引き締めていた。


 だが。


 内心ではかなり頭が痛かった。


 理由?


 レイだからである。


 あの男。


 逃走と変装だけは異様に上手い。


 しかも今回は最悪だった。


 クラウディアへ変身した。


 国王最大の禁忌。


 若い頃の最悪の過去を。


 真正面から抉った。


「……」


 国王は静かに拳を握る。


 怒り。


 屈辱。


 そして。


 消えない苦味。


 若い頃。


 まだ王子だった頃。


 彼は愚かだった。


 酒池肉林。


 浪費。


 快楽。


 派閥争い。


 そして。


 クラウディア。


 あの女。


 美しく。


 賢く。


 残酷だった。


 彼女は王子を愛してなどいなかった。


 ただ。


 権力が好きだった。


 美しいもの。


 豪華なもの。


 贅沢。


 血。


 絶望。


 全部好きだった。


 王子を操り。


 気に入らない貴族を潰し。


 側室を毒殺し。


 侍女を拷問し。


 貴族家を破滅させ。


 笑っていた。


 しかも。


 悪びれもせず。


『美しくないものが嫌いですの♡』


 と笑っていた。


 その結果。


 王都は血まみれになった。


 処刑された時ですら。


 彼女は最後まで泣かなかった。


 むしろ。


 笑っていた。


『陛下ぁ♡ わたくし、最後まで美しかったでしょう?』


 国王は今でも夢に見る。


 だから。


 許せなかった。


 レイが。


 あの女を。


 軽々しく演じたことが。


「……あの男を生かしておけん」


 国王は低く呟く。


「クラウディアへ変身できる者など……存在してはならん」


 アレンは静かに頭を下げた。


「……承知しました」


 だが。


 少しだけ複雑そうだった。


 レイは馬鹿だ。


 最低だ。


 だが。


 悪意だけでやったわけでもない。


 たぶん。


 半分くらいは「面白そう」だった。


 それが余計に質が悪い。


 一方。


 王都外れ。


 崩れた旧貴族街。


 月明かり。


 蔦だらけの廃屋。


「のだぁ〜〜♡」


 レイはニコニコしていた。


 クラウディアの隠れ家跡。


 亡霊が出る場所。


 つまり。


 あの女がいる場所である。


「感謝するのだぁ♡」


 レイはゴソゴソと袋を取り出した。


 中には。


 盗んできた高級菓子。


 果物。


 香水瓶。


 あと。


 妙に高そうな鏡。


「お土産なのだっ♡」


 完全に他人の家へ遊びに来た感覚だった。


 その時。


 冷たい風。


 ――ヒュゥゥゥ……


 空気が変わる。


 レイが振り向く。


「のだっ♡」


 そこにいた。


 クラウディア。


 赤いドレス。


 長い黒髪。


 青白い肌。


 人形みたいな美貌。


 そして。


 相変わらず首には処刑痕。


 だが。


 恐ろしいほど綺麗だった。


「……」


 クラウディアはレイを見た。


 数秒。


 沈黙。


 そして。


 スッ……


 完全に視線を逸らした。


「のだぁ?」


 レイが固まる。


 クラウディアはレイではなく。


 持ってきた鏡を見ていた。


「……綺麗」


 うっとり。


 レイ、完全無視。


「のだぁ!?」


 クラウディアは鏡へ触れる。


「良い細工ねぇ……」


「吾輩なのだぁ!!」


「この香水瓶も素敵」


「聞けなのだぁ!!」


 しかし。


 クラウディア。


 本当に興味がなかった。


 彼女が好きなのは。


 美しいものだけ。


 美貌。


 宝石。


 芸術。


 血すら、美しければ好きだった。


 逆に。


 醜いもの。


 凡庸なもの。


 価値のないもの。


 全部どうでもよかった。


 つまり。


 普通顔のレイ。


 かなり優先順位が低い。


「……」


「……」


「……のだぁ」


 レイがちょっとしょんぼりする。


「吾輩、完全スルーなのだぁ……」


 クラウディアは鏡を見ながら微笑んでいた。


「この時代の工芸も悪くないわね」


「吾輩なのだぁ!!」


「その菓子、美味しそう」


「のだぁ!!」


 レイはぷんすか怒る。


「感謝するのだぁ♡」


 クラウディアがやっと視線を向ける。


「……何を?」


「変身させてくれたのだぁ♡」


「……」


 クラウディアが少し目を細めた。


「……ああ」


 王城騒動。


 あれのことか。


 彼女はクスクス笑った。


「面白かったわぁ♡」


「のだっ♡」


 レイが嬉しそうになる。


「陛下、超狼狽えてたのだぁ♡」


「でしょうねぇ♡」


 クラウディアは本当に楽しそうだった。


 悪女だった。


 徹底的に。


「昔からあの人、わたくしを見ると顔が面白かったもの♡」


「のだぁ♡」


 レイはケラケラ笑う。


 しかし。


 次の瞬間。


 クラウディアの目が少し冷える。


「……でも」


「のだぁ?」


「あなた、気をつけなさい」


「?」


「今の陛下、本気で怒ってるわよ」


「のだぁ……」


「若い頃は馬鹿だったけど」


 クラウディアは静かに笑う。


「今は賢王だもの」


「……」


「だから余計に厄介」


 レイは少し黙った。


 国王。


 本気。


 つまり。


 騎士団総動員。


 処刑確定。


 王国全域指名手配。


「……」


 数秒後。


「逃げるのだぁ♡」


「ふふっ」


 クラウディアが笑った。


「そういうところ、少し好きよ」


「のだっ♡」


 レイが嬉しそうになる。


 だが。


 次の瞬間。


 クラウディアはまた鏡へ夢中になっていた。


「……本当に綺麗」


「吾輩なのだぁ!!」


 やはり。


 最後まで扱いは雑だった。

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