27
深夜。
王都地下牢。
静まり返った廊下。
ランプの火だけが揺れていた。
カツン。
カツン。
一人の看守が歩いてくる。
帽子。
鎧。
鍵束。
普通の看守だった。
だが。
鉄格子の奥。
リズが顔を上げた瞬間。
「……」
「……」
「……レイ」
看守がニヤァァと笑った。
「のだっ♡」
変幻魔法だった。
看守へ化けたレイ。
なお。
微妙に目がキラキラしているので全然怪しい。
「静かなのだぁ♡」
「お前、本当に来たのか……」
ガルドですら少し驚いていた。
レイはドヤ顔。
「吾輩、義理堅いのだっ♡」
エリシアは遠くで腕を組んでいた。
「……その代わり妙なこと考えてる顔ね」
正解だった。
レイはゴソゴソと鍵束を取り出す。
チャリン。
「ほれ」
「……!」
リズが息を呑む。
本物。
牢の鍵。
「どうしたのよそれ」
「盗んだのだっ♡」
「最低」
「看守さん寝てたのだぁ♡」
しかも。
妙に手際が良かった。
孤児時代に積み上げた犯罪技術である。
ガチャ。
牢が開く。
盗賊団たちが静かに外へ出る。
だが。
ガルドはレイを見た。
「……お前は?」
「吾輩は別行動なのだっ♡」
「?」
レイはニヤァァと笑う。
嫌な予感しかしない。
「派手にやるのだぁ♡」
翌日。
朝。
王都。
鐘が鳴る。
「脱獄だァァァ!!」
「盗賊団が逃げた!!」
騎士団が大混乱していた。
地下牢。
空っぽ。
看守は気絶。
鍵紛失。
王都が騒然となる。
アレンが怒鳴っていた。
「西区封鎖!!」
「門を閉めろ!!」
「絶対逃がすな!!」
騎士団が動く。
当然。
国王にも報告が行く。
「……脱獄?」
玉座の間。
空気が凍る。
「はい陛下」
「……誰だ」
「恐らく勇者レイの協力かと」
国王のこめかみに青筋。
「またあいつか……」
だが。
その時だった。
――コンコン。
静かなノック音。
玉座の間が少しざわつく。
侍従が困惑した顔で振り返る。
「……誰だ?」
扉が開く。
そして。
全員が凍りついた。
「……」
「……」
「……」
赤いドレス。
長い黒髪。
白い肌。
氷みたいな美貌。
そこに立っていたのは。
クラウディアだった。
数十年前に処刑されたはずの。
あの。
公爵令嬢。
「陛下ぁ♡」
甘い声。
国王が立ち上がる。
「……っ」
顔色が変わった。
完全に。
血の気が引いていた。
「……クラウ、ディア……?」
玉座の間が静まり返る。
貴族たちが震えていた。
「ば、馬鹿な……」
「亡霊!?」
「そんな……!」
しかし。
クラウディアはゆっくり微笑む。
「酷いですわぁ♡」
優雅に歩く。
カツン。
カツン。
国王の呼吸が乱れる。
「……どうして」
「お忘れになりましたのぉ♡」
その声。
その仕草。
完全に本人だった。
アレンですら息を呑む。
「……まさか」
エリシアは遠くで頭を抱えていた。
「……最悪」
当然である。
クラウディアの正体。
レイだからだ。
変幻魔法。
しかも。
異様に完成度が高い。
なぜなら。
レイ。
昔から人を騙すことだけは本気だった。
しかも。
今回は。
わざわざクラウディア本人へ会って観察済み。
無駄に再現度が高い。
「陛下ぁ♡」
クラウディア姿のレイが微笑む。
国王が数歩後退る。
「……っ」
完全に狼狽えていた。
数十年前。
忘れようとして。
消そうとして。
封じ込めていた過去。
それが目の前へ現れた。
しかも。
あまりにも鮮明に。
「お久しぶりですわぁ♡」
「……」
「お元気でしたぁ♡」
国王の手が震えていた。
アレンが即動こうとする。
「陛下、下がって――」
「駄目ですわぁ♡」
レイクラウディアが扇子を振る。
ボフン!!
煙玉。
「!?」
「煙!?」
さらに。
「きゃあああ!?」
侍女たちが悲鳴。
兵士たちが混乱。
その間。
レイは全力で走っていた。
ドレス姿で。
「のだぁああああ!!!」
廊下を爆走。
裾を踏んで転びかける。
「歩きにくいのだぁ!!」
完全に台無しだった。
だが。
効果は絶大だった。
王城中が。
『クラウディアの亡霊が出た』
でパニックになっていた。
その頃。
ガルドたちは王都外周を突破していた。
「……」
「……」
リズが後ろを振り返る。
遠くの王城。
鐘。
騒ぎ。
煙。
「……あいつ、本当にやったのね」
ガルドも呆れていた。
「命懸けで国王煽ってやがる……」
リズは小さく笑った。
「馬鹿ねぇ……」
一方。
王城。
国王はまだ立ち尽くしていた。
「……」
震える手。
苦い記憶。
そして。
廊下の奥から響く。
「のだぁああああ!!!」
「転ぶのだぁあああ!!」
完全にレイの声。
沈黙。
「……」
「……」
「……レイかァァァァァァ!!!!」
国王の怒号が王城へ響き渡った。




