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性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


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 深夜。


 王都地下牢。


 いつもなら。


 怒鳴り声。


 笑い声。


 「うんこ」だの「犬」だの、幼稚極まりない喧嘩が飛び交う場所だった。


 だが今夜は違った。


 静かだった。


「……」


「……」


 ランプの火だけが揺れている。


 子犬姿のレイは牢の隅で丸まっていた。


 さっきまで暴れていたせいで疲れたらしい。


「ぐぅ……」


 リズは鉄格子へ背中を預けながら、その姿をぼんやり見ていた。


 いつもなら。


 ここでまた煽る。


 「犬」だの「間抜け」だの言う。


 だが。


 今はそんな気分ではなかった。


「……」


 ガルドも珍しく黙っていた。


 盗賊団の連中も静かだ。


 理由は簡単。


 判決が出たからである。


 重罪。


 長期投獄。


 数人は鉱山送り。


 ガルドは終身刑。


 リズもほぼ人生終了。


 つまり。


 もう。


 笑っていられる状況ではなかった。


「……」


 リズは膝を抱える。


 初めてだった。


 未来が見えない。


 盗賊団として生きてきた。


 奪って。


 逃げて。


 騙して。


 それが普通だった。


 なのに。


 終わった。


 本当に。


「……」


 すると。


 ガルドが低く呟いた。


「……おい」


「?」


 レイ犬が耳をピクッと動かす。


「起きてるか」


「……のだぁ?」


 眠そうに顔を上げる。


 子犬姿。


 ふわふわ。


 間抜け。


 だが。


 ガルドの顔は真剣だった。


「……頼みがある」


 レイが少し瞬きをする。


「のだぁ?」


 ガルドはしばらく黙った。


 そして。


「……俺たちを脱獄させろ」


 地下牢が静まる。


 リズも目を伏せた。


 盗賊団の連中も笑っていない。


 皆、本気だった。


 レイは固まる。


「……」


「……」


「……のだぁ?」


 ガルドが続ける。


「お前、逃げるのだけは異常に上手い」


「のだっ♡」


 レイがちょっと嬉しそうになる。


「褒められたのだぁ♡」


「褒めてねぇ」


 だが。


 ガルドは真面目だった。


「変幻魔法もある」


「のだぁ」


「俺たちだけじゃ無理だ」


「……」


「頼む」


 その一言は重かった。


 レイはしばらく黙っていた。


 いつもの軽い空気じゃない。


 リズも静かに口を開く。


「……このまま終わるの嫌なのよ」


「……」


「鉱山送りなんて御免だわ」


 彼女の声は少し震えていた。


 初めてだった。


 リズが本気で弱音を吐くのは。


 レイはそれを見ていた。


 そして。


 ゆっくり人間姿へ戻る。


 ボフン。


 いつもの普通顔。


 少し眠そうな目。


「……」


 レイは鉄格子へ近づく。


「のだぁ……」


 少し考える。


 ガルドたちは黙って待っていた。


 エリシアも静かだった。


 すると。


 レイが小さく聞いた。


「……もう虐めないのだぁ?」


 その一言で。


 リズが固まった。


 ガルドも黙る。


 レイは真顔だった。


「犬耳嫌なのだぁ……」


「……」


「尻尾も嫌なのだぁ……」


「……」


「尻振りもぉ……」


 最後だけちょっと涙目だった。


 空気が妙に重くなる。


 リズは数秒黙った後。


「……しない」


「本当なのだぁ?」


「たぶん」


「のだっ」


 レイが警戒する。


「たぶんって何なのだぁ」


 ガルドが頭を抱えた。


「……お前、本当にそこ根に持ってんのか」


「超嫌だったのだぁ!!」


 即答だった。


 リズは小さく息を吐いた。


「……悪かったわよ」


 レイが止まる。


「のだぁ?」


「やりすぎた」


「……」


「ごめん」


 静かだった。


 レイはしばらく黙る。


 たぶん。


 本当に予想していなかった。


 リズが謝るなんて。


「……」


 そして。


「……のだぁ」


 少しだけ。


 レイの警戒が緩む。


 エリシアは遠くでそれを見ていた。


「……」


 レイは馬鹿だ。


 性悪。


 守銭奴。


 小悪党。


 でも。


 妙なところで情が甘い。


 だから危なっかしい。


 ガルドが低く言う。


「助けてくれたら借りは返す」


「……」


「お前が困った時は助ける」


「のだぁ?」


 レイは腕を組む。


「お金貸してくれるのだぁ?」


「……」


 ガルドが真顔になる。


「それは無理だ」


「ケチなのだぁ!!」


 即ブチ切れた。


 空気が少し崩れる。


 リズが思わず吹き出した。


「……ふふっ」


 久しぶりに笑った。


 小さく。


 本当に小さく。


 レイはそれを見ながら、少し考えていた。


 脱獄。


 当然危険。


 騎士団。


 アレン。


 国王。


 全部敵。


 失敗すれば終わる。


 でも。


「……」


 レイはボリボリ頭を掻いた。


「のだぁ……」


「……?」


「ちょっと考えるのだぁ」


 リズが顔を上げる。


「……本当に?」


「条件次第なのだぁ」


「条件?」


 レイは真顔だった。


「もう『わんっ♡』は禁止なのだぁ」


 地下牢が静まり返る。


 数秒後。


 リズが腹を抱えて笑い始めた。


「……っ、あははっ……!」


 ガルドも吹き出す。


「お前、本当にそれなんだな……」


 レイは本気だった。


「勇者の尊厳なのだぁ!!」

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