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性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


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 深夜。


 王都地下牢。


 薄暗い石壁。


 ランプの火。


 湿っぽい空気。


 そして。


「うんこなのだぁああああ!!!」


 勇者レイの絶叫が響いていた。


 衛兵が頭を抱えた。


「また始まった……」


 原因。


 数分前。


 レイが目を覚ましたからである。


「ぐごぉ……のだぁ?」


 寝起きのレイはボーッとしていた。


 そして。


 隣牢のリズと目が合った。


「……」


「……」


「……犬勇者」


「のだっ」


 そこで戦争が始まった。


「誰が犬なのだぁあああ!!」


「わんっ♡って言ってたじゃない」


「脅されたのだぁ!!」


「尻振ってたわよね?」


「ご飯のためなのだぁ!!」


 レイは真っ赤になって鉄格子へしがみつく。


 リズも負けていなかった。


「顔に『大うんこ』って書いたくせに!」


「うんこったらうんこなのだぁ!!」


「最低!!」


「黙れなのだぁああ!うんこったらうんこなのだぁああ!」


 完全に幼児の喧嘩だった。


 しかも。


 本当に同レベル。


「犬!!」


「うんこ!!」


「犬!!」


「大うんこ!!」


「性格悪い!!」


「お主もなのだぁ!!」


 衛兵たちは遠い目をしていた。


「……あれ本当に勇者か?」


「片方盗賊だぞ?」


「同レベルじゃねぇか……」


 エリシアは牢の天井近くで浮きながら、本気で疲れた顔をしていた。


「……どうしてこうなるのよ」


 しかし。


 レイとリズは止まらない。


「お主の変な眉毛面白かったのだぁ!」


「そっちは犬耳似合ってたわよ!」


「似合ってないのだぁ!!」


「今度本当に着せてあげる♡」


「のだぁっ!?」


 レイの顔から血の気が引いた。


「やめるのだぁ!!」


「尻尾も付ける?」


「嫌なのだぁあああ!!」


 リズはケラケラ笑っていた。


 完全に煽りを覚えた悪ガキである。


 レイは鉄格子をガンガン叩いた。


「許さぬのだぁ!!」


「こっちの台詞よ!」


「お主ら、吾輩のお金盗んだのだぁ!!」


「盗賊だから!」


「泥棒なのだぁ!!」


「だから盗賊だって言ってるでしょ!」


 会話が永久ループしていた。


 しかも。


 途中から盗賊団まで参加し始める。


「おい勇者!」


「わんって言え!」


「嫌なのだぁ!!」


「言わないと眠れないぞ!」


「ぐぬぬぬぬ……!!」


 レイは悔しそうに震える。


 その様子を見てリズがニヤァァと笑った。


「ほら♡」


「……」


「言ってみなさいよ♡」


「……」


「……」


「……わんっ♡なのだぁ」


 数秒静寂。


 そして。


「ぎゃはははははは!!!」


 地下牢大爆笑。


 盗賊たちが腹を抱えて転げ回る。


「また言ったぞ!!」


「勇者犬!!」


「尻振れ尻!!」


「のだぁああああ!!!」


 レイは顔真っ赤だった。


「笑うななのだぁ!!」


 しかし。


 次の瞬間。


 レイは急にニヤァァと笑った。


「のだっ♡」


 嫌な予感。


「……何その顔」


「リズ」


「?」


「お主、今髪ボサボサなのだぁ♡」


「……」


 リズが固まる。


 レイは指差した。


「寝癖なのだぁああああ!!!」


「は?」


「変なのだぁ!!」


「……」


「角みたいなのだぁ!!」


 盗賊団が静かになる。


 リズのこめかみに青筋。


「……」


「……」


「……レイ」


「のだっ♡」


「殺す」


「のだぁっ!?」


 リズが鉄格子へ突進。


 レイも突進。


 ガン!!


「痛いのだぁ!!」


「痛っ!!」


 頭同士ぶつかった。


 数秒沈黙。


「……」


「……」


「……馬鹿なの?」


「お主こそなのだぁ!!」


 また喧嘩再開。


「犬!!」


「うんこ!!」


「犬!!」


「寝癖!!」


「うんこ!!」


「わんわん!!」


「のだぁああああ!!!」


 完全に小学生以下だった。


 すると。


 奥の牢から低い声。


「……うるせぇ」


 ガルドだった。


 頭領。


 現在、睡眠妨害で機嫌最悪。


「静かにしろ……」


「のだぁ?」


「何よ」


「寝れねぇだろうが……」


 一瞬静かになる。


 だが。


 次の瞬間。


「お主の額まだ『大うんこ』跡残ってるのだぁ♡」


「ぶっ殺す!!」


 ガルド参戦。


 地下牢カオス化。


「静かにしろって言ってんだろ!!」


「うんこ頭領なのだぁ♡」


「言うなァ!!」


 衛兵がついにブチ切れた。


「黙れお前らァァァ!!!」


 ゴォン!!


 警棒が鉄格子へ叩きつけられる。


 地下牢が静まり返った。


「……」


「……」


「……」


 数秒後。


 レイが小声で呟く。


「……うんこ」


「聞こえてるわよ」


 リズの蹴りが鉄格子越しに飛んだ。


 その晩。


 地下牢は最後まで騒がしかった。

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