23
深夜。
王都地下牢。
薄暗い石壁。
ランプの火。
湿っぽい空気。
そして。
「うんこなのだぁああああ!!!」
勇者レイの絶叫が響いていた。
衛兵が頭を抱えた。
「また始まった……」
原因。
数分前。
レイが目を覚ましたからである。
「ぐごぉ……のだぁ?」
寝起きのレイはボーッとしていた。
そして。
隣牢のリズと目が合った。
「……」
「……」
「……犬勇者」
「のだっ」
そこで戦争が始まった。
「誰が犬なのだぁあああ!!」
「わんっ♡って言ってたじゃない」
「脅されたのだぁ!!」
「尻振ってたわよね?」
「ご飯のためなのだぁ!!」
レイは真っ赤になって鉄格子へしがみつく。
リズも負けていなかった。
「顔に『大うんこ』って書いたくせに!」
「うんこったらうんこなのだぁ!!」
「最低!!」
「黙れなのだぁああ!うんこったらうんこなのだぁああ!」
完全に幼児の喧嘩だった。
しかも。
本当に同レベル。
「犬!!」
「うんこ!!」
「犬!!」
「大うんこ!!」
「性格悪い!!」
「お主もなのだぁ!!」
衛兵たちは遠い目をしていた。
「……あれ本当に勇者か?」
「片方盗賊だぞ?」
「同レベルじゃねぇか……」
エリシアは牢の天井近くで浮きながら、本気で疲れた顔をしていた。
「……どうしてこうなるのよ」
しかし。
レイとリズは止まらない。
「お主の変な眉毛面白かったのだぁ!」
「そっちは犬耳似合ってたわよ!」
「似合ってないのだぁ!!」
「今度本当に着せてあげる♡」
「のだぁっ!?」
レイの顔から血の気が引いた。
「やめるのだぁ!!」
「尻尾も付ける?」
「嫌なのだぁあああ!!」
リズはケラケラ笑っていた。
完全に煽りを覚えた悪ガキである。
レイは鉄格子をガンガン叩いた。
「許さぬのだぁ!!」
「こっちの台詞よ!」
「お主ら、吾輩のお金盗んだのだぁ!!」
「盗賊だから!」
「泥棒なのだぁ!!」
「だから盗賊だって言ってるでしょ!」
会話が永久ループしていた。
しかも。
途中から盗賊団まで参加し始める。
「おい勇者!」
「わんって言え!」
「嫌なのだぁ!!」
「言わないと眠れないぞ!」
「ぐぬぬぬぬ……!!」
レイは悔しそうに震える。
その様子を見てリズがニヤァァと笑った。
「ほら♡」
「……」
「言ってみなさいよ♡」
「……」
「……」
「……わんっ♡なのだぁ」
数秒静寂。
そして。
「ぎゃはははははは!!!」
地下牢大爆笑。
盗賊たちが腹を抱えて転げ回る。
「また言ったぞ!!」
「勇者犬!!」
「尻振れ尻!!」
「のだぁああああ!!!」
レイは顔真っ赤だった。
「笑うななのだぁ!!」
しかし。
次の瞬間。
レイは急にニヤァァと笑った。
「のだっ♡」
嫌な予感。
「……何その顔」
「リズ」
「?」
「お主、今髪ボサボサなのだぁ♡」
「……」
リズが固まる。
レイは指差した。
「寝癖なのだぁああああ!!!」
「は?」
「変なのだぁ!!」
「……」
「角みたいなのだぁ!!」
盗賊団が静かになる。
リズのこめかみに青筋。
「……」
「……」
「……レイ」
「のだっ♡」
「殺す」
「のだぁっ!?」
リズが鉄格子へ突進。
レイも突進。
ガン!!
「痛いのだぁ!!」
「痛っ!!」
頭同士ぶつかった。
数秒沈黙。
「……」
「……」
「……馬鹿なの?」
「お主こそなのだぁ!!」
また喧嘩再開。
「犬!!」
「うんこ!!」
「犬!!」
「寝癖!!」
「うんこ!!」
「わんわん!!」
「のだぁああああ!!!」
完全に小学生以下だった。
すると。
奥の牢から低い声。
「……うるせぇ」
ガルドだった。
頭領。
現在、睡眠妨害で機嫌最悪。
「静かにしろ……」
「のだぁ?」
「何よ」
「寝れねぇだろうが……」
一瞬静かになる。
だが。
次の瞬間。
「お主の額まだ『大うんこ』跡残ってるのだぁ♡」
「ぶっ殺す!!」
ガルド参戦。
地下牢カオス化。
「静かにしろって言ってんだろ!!」
「うんこ頭領なのだぁ♡」
「言うなァ!!」
衛兵がついにブチ切れた。
「黙れお前らァァァ!!!」
ゴォン!!
警棒が鉄格子へ叩きつけられる。
地下牢が静まり返った。
「……」
「……」
「……」
数秒後。
レイが小声で呟く。
「……うんこ」
「聞こえてるわよ」
リズの蹴りが鉄格子越しに飛んだ。
その晩。
地下牢は最後まで騒がしかった。




