22
王都アルメリア。
地下牢。
カツン、カツン、と衛兵の足音が響いていた。
重い鉄格子。
薄暗い石壁。
じめじめした空気。
犯罪者たちのうめき声。
普通の人間なら絶望する場所である。
だが。
「のだっ♡」
勇者レイは超ご機嫌だった。
「無料の宿ゲットなのだっ♡」
衛兵が真顔になった。
「……は?」
レイは牢の中でゴロゴロ転がっていた。
「しかもご飯付きなのだぁ♡」
「お前投獄されてるんだぞ」
「宿代ゼロなのだっ♡」
発想が終わっていた。
隣の牢では。
盗賊団《黒犬団》の連中が死んだ顔をしていた。
「……」
「……」
「……」
頭領ガルドなんか完全に魂が抜けている。
リズもイライラしていた。
「……なんであんたそんな元気なの」
「無料だからなのだっ♡」
「腹立つ……」
ちなみに。
盗賊団側は本当に重罪だった。
強盗。
誘拐。
密輸。
襲撃。
その他いろいろ。
普通に長期投獄コースである。
一方。
レイ。
罪状。
『王命無視』
『市場混乱』
『王族タブー刺激』
『騒乱』
あと。
『盗賊団への異常な落書き』
最後だけ妙に小物だった。
しかし。
国王がキレているので割と危険だった。
だが。
「のだぁ〜〜♡」
本人。
全く危機感なし。
「ベッドあるのだぁ♡」
藁束へダイブ。
「柔らかいのだぁ♡」
「硬いだろそれ」
「屋外よりマシなのだっ♡」
エリシアは本気で呆れていた。
「……この男、本当にどこでも生きていけるわね」
一方。
保護されたカイは、別室で事情聴取を受けていた。
「怖くなかったか?」
「……うん」
「勇者に変なことされなかったか?」
カイは少し考える。
「……盗みの姿勢を教えられた」
「駄目だろそれ!!」
騎士たちが頭を抱えた。
「あと逃げ方」
「最低だなあいつ……」
「でも肉くれた」
「……」
「あと死ぬなって言ってた」
騎士たちが微妙な顔になる。
「なんなんだあいつ……」
その頃。
地下牢。
「のだっ♡」
レイはパンを食べていた。
「美味いのだぁ♡」
衛兵が呆れる。
「お前、本当に投獄されてる自覚あるか?」
「宿なのだっ♡」
「牢屋だよ」
「無料なのだぁ♡」
会話にならなかった。
しかも。
レイ。
盗賊団へ話しかけ始める。
「のだっ♡」
「……」
「お主らも宿代浮いて良かったのだぁ♡」
「殺すぞ」
ガルドが真顔で言った。
レイは即鉄格子の奥へ逃げた。
「のだぁっ」
「まだ根に持ってるのだぁ?」
「当たり前だろ!!」
リズも怒鳴る。
「誰のせいで捕まったと思ってるのよ!!」
「騎士団なのだぁ?」
「お前だ!!」
レイは数秒考える。
「……でも顔にうんこって書いたのは楽しかったのだぁ♡」
「ぶっ殺す!!」
盗賊団が鉄格子をガンガン叩く。
衛兵が怒鳴った。
「静かにしろ!!」
「のだぁああ!!」
カオスだった。
すると。
足音。
静かに近づいてくる。
アレンだった。
白銀騎士服。
疲れた顔。
「……」
「のだっ♡」
レイが即ニコニコする。
「アレンなのだぁ♡」
「元気そうですね」
「無料宿最高なのだっ♡」
アレンは額を押さえた。
「……あなた、本当に状況わかってます?」
「のだぁ?」
「国王陛下がかなり怒ってます」
「……」
「……」
「……のだっ♡」
レイ、目を逸らした。
「逃げるのだぁ?」
「牢屋からどうやって」
「穴掘るのだっ♡」
「やめてください」
アレンは本気で疲れていた。
だが。
レイは急に真顔になった。
「……アレン」
「?」
「カイは無事なのだぁ?」
少しだけ静かだった。
アレンは目を瞬かせる。
「ええ」
「ちゃんと保護されました」
「……のだぁ」
レイは少し安心した顔をした。
ほんの一瞬だけ。
エリシアはそれを見て小さく目を細める。
だが。
次の瞬間。
「なら安心して寝るのだっ♡」
レイ、藁へダイブ。
「ぐごぉおおお……」
「早っ」
アレンが呆れる。
「普通、もっと不安になりません?」
「この男に常識を求めるだけ無駄よ」
エリシアが遠い目で言った。
その時。
隣牢。
リズがジト目でレイを見ていた。
「……」
「……?」
「……なんであんた、孤児助けてたのよ」
「のだぁ?」
レイは半分寝ながら答える。
「なんとなくなのだぁ」
「……」
「腹減るの嫌なのだぁ」
それだけだった。
リズは少し黙る。
だが。
次の瞬間。
「でも顔にうんこって書いたのは許さぬのだぁ♡」
「やっぱり殺す」
地下牢に怒号が響いた。
一方。
レイはもう寝ていた。
「ぐごぉおおお……無料ぉ……」
エリシアは静かに天を仰ぐ。
「……本当に図太いわねこの勇者……」




