表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/46

19

 王都外れ。


 廃倉庫街。


 夜。


 パチパチと焚き火が鳴っていた。


「のだっ♡」


 勇者レイは焼いた魔物肉を頬張っていた。


「うむ!美味いのだぁ♡」


 隣では。


 昼間捕まえた孤児の少年が、恐る恐る肉を食べている。


 名前はカイ。


 十二歳。


 痩せ気味。


 警戒心強め。


 そして現在。


 妙な男に捕まって人生相談を受けていた。


「ほれ」


「は、はい」


「もっと食えなのだぁ」


 レイは妙に世話焼きだった。


 ただし。


 方向性がおかしい。


「盗みは技術なのだぁ♡」


「……」


 カイが微妙な顔をする。


 エリシアは本気で頭を抱えていた。


「なんで教育がそっちへ行くのよ……」


 しかし。


 レイ本人はかなり真面目だった。


「のだぁ……」


 肉を齧りながら腕組みする。


「吾輩が子供の頃はもっと過酷だったのだぁ」


「……」


 カイが少し興味を持つ。


「ど、どんな?」


「うむ!」


 レイはドヤ顔。


「まずパン屋なのだっ♡」


「パン屋?」


「朝一番が狙い目なのだぁ♡」


「……」


「焼きたての匂いで人間は油断するのだぁ♡」


「やめなさい」


 エリシアが即ツッコむ。


 だが。


 レイは止まらない。


「そしてなのだぁ!」


 肉串を振り回す。


「犬がいる店は避けるのだぁ♡」


「なんで」


「吾輩、三回噛まれたのだぁ」


「学習して」


「しかも大型犬だったのだぁ!!」


 レイは怒っていた。


「お尻噛まれたのだぁ!!」


 カイが吹き出す。


「……ぷっ」


「笑うななのだぁ!!」


 レイは本気で不満そうだった。


「痛かったのだぁ!!」


 しかし。


 その話は妙にリアルだった。


 孤児街。


 飢え。


 逃走。


 寒さ。


 カイも少しずつ真顔になる。


「……お前も腹減ってたの?」


「のだっ♡」


 レイは肉を頬張りながら頷く。


「超減ってたのだぁ♡」


「……」


「でも吾輩は賢かったのだぁ♡」


「どこが」


「逃げ足なのだっ♡」


 誇らしげだった。


 エリシアは呆れていた。


「そこだけ一貫してるわね……」


 すると。


 レイは急に立ち上がった。


「のだっ♡」


 嫌な予感。


「実践訓練なのだぁ♡」


「えっ」


「盗みの素振りするのだぁ♡」


「駄目ぇ!!」


 エリシアが止める。


 しかし。


 レイはもうノリノリだった。


「まず姿勢なのだぁ!」


 シュバッ!!


 妙に低姿勢になる。


「壁沿いを歩くのだぁ♡」


「……」


「そして目線は下げるのだぁ♡」


「……」


「あと逃走経路確認なのだぁ♡」


「完全に犯罪者なのよ」


 カイは困惑していた。


「ぼ、僕……そんな本格的にやるつもりじゃ」


「甘いのだぁ!!」


 レイが指を突きつける。


「中途半端が一番死ぬのだぁ!!」


 一瞬だけ。


 妙に重かった。


 カイが黙る。


 レイは焚き火を見ながら言った。


「孤児は誰も守ってくれないのだぁ」


「……」


「だから逃げるのだぁ」


 エリシアは少し黙っていた。


 レイは続ける。


「強いやつには逆らわない」


「……」


「腹減ったらまず逃げ道考える」


「……」


「あと」


 レイは真顔になった。


「絶対に借金するななのだぁ」


「そこ?」


「怖いのだぁ」


 即答だった。


 カイがちょっと笑う。


「……変なの」


「勇者なのだっ♡」


「勇者ってなんなの……」


 その後。


 レイによる《逃走訓練》が始まった。


「のだっ♡」


「まず吾輩を捕まえてみるのだぁ♡」


「えっ」


「ほれ!」


 レイ、即ダッシュ。


「のだぁああ!!」


「は、速っ!?」


 カイが追う。


 だが。


 捕まらない。


 異常に速い。


「逃げる時だけ本当に凄い……」


 エリシアが呆れていた。


 レイは壁を蹴り。


 樽を飛び越え。


 屋根へ登る。


「これが孤児界最強の生存術なのだぁ♡」


「絶対違う」


 しかし。


 カイはちょっと楽しそうだった。


 久々だった。


 笑いながら走るのは。


「待てぇ!」


「甘いのだぁ♡」


 レイはニヤニヤしていた。


 そして。


 数十分後。


 二人とも焚き火前へ戻る。


「はぁっ……はぁっ……」


 カイはヘトヘトだった。


 レイはドヤ顔。


「うむ!」


「逃げ足が足りぬのだぁ♡」


「なんでそんな速いんだよ……」


「勇者だからなのだっ♡」


「絶対違う」


 焚き火が揺れる。


 夜風は少し寒い。


 レイは毛布へくるまりながら言った。


「のだぁ……」


「?」


「生き残れなのだぁ」


「……」


「偉くならなくてもいいのだぁ」


「……」


「でも死ぬななのだぁ」


 珍しく。


 少しだけ真面目だった。


 カイはしばらく黙っていた。


 そして。


「……うん」


 小さく頷いた。


 だが。


 次の瞬間。


「あと盗むならもっと高いもの狙うのだぁ♡」


「台無しよ!!」


 エリシアのツッコミが夜空へ響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ