19
王都外れ。
廃倉庫街。
夜。
パチパチと焚き火が鳴っていた。
「のだっ♡」
勇者レイは焼いた魔物肉を頬張っていた。
「うむ!美味いのだぁ♡」
隣では。
昼間捕まえた孤児の少年が、恐る恐る肉を食べている。
名前はカイ。
十二歳。
痩せ気味。
警戒心強め。
そして現在。
妙な男に捕まって人生相談を受けていた。
「ほれ」
「は、はい」
「もっと食えなのだぁ」
レイは妙に世話焼きだった。
ただし。
方向性がおかしい。
「盗みは技術なのだぁ♡」
「……」
カイが微妙な顔をする。
エリシアは本気で頭を抱えていた。
「なんで教育がそっちへ行くのよ……」
しかし。
レイ本人はかなり真面目だった。
「のだぁ……」
肉を齧りながら腕組みする。
「吾輩が子供の頃はもっと過酷だったのだぁ」
「……」
カイが少し興味を持つ。
「ど、どんな?」
「うむ!」
レイはドヤ顔。
「まずパン屋なのだっ♡」
「パン屋?」
「朝一番が狙い目なのだぁ♡」
「……」
「焼きたての匂いで人間は油断するのだぁ♡」
「やめなさい」
エリシアが即ツッコむ。
だが。
レイは止まらない。
「そしてなのだぁ!」
肉串を振り回す。
「犬がいる店は避けるのだぁ♡」
「なんで」
「吾輩、三回噛まれたのだぁ」
「学習して」
「しかも大型犬だったのだぁ!!」
レイは怒っていた。
「お尻噛まれたのだぁ!!」
カイが吹き出す。
「……ぷっ」
「笑うななのだぁ!!」
レイは本気で不満そうだった。
「痛かったのだぁ!!」
しかし。
その話は妙にリアルだった。
孤児街。
飢え。
逃走。
寒さ。
カイも少しずつ真顔になる。
「……お前も腹減ってたの?」
「のだっ♡」
レイは肉を頬張りながら頷く。
「超減ってたのだぁ♡」
「……」
「でも吾輩は賢かったのだぁ♡」
「どこが」
「逃げ足なのだっ♡」
誇らしげだった。
エリシアは呆れていた。
「そこだけ一貫してるわね……」
すると。
レイは急に立ち上がった。
「のだっ♡」
嫌な予感。
「実践訓練なのだぁ♡」
「えっ」
「盗みの素振りするのだぁ♡」
「駄目ぇ!!」
エリシアが止める。
しかし。
レイはもうノリノリだった。
「まず姿勢なのだぁ!」
シュバッ!!
妙に低姿勢になる。
「壁沿いを歩くのだぁ♡」
「……」
「そして目線は下げるのだぁ♡」
「……」
「あと逃走経路確認なのだぁ♡」
「完全に犯罪者なのよ」
カイは困惑していた。
「ぼ、僕……そんな本格的にやるつもりじゃ」
「甘いのだぁ!!」
レイが指を突きつける。
「中途半端が一番死ぬのだぁ!!」
一瞬だけ。
妙に重かった。
カイが黙る。
レイは焚き火を見ながら言った。
「孤児は誰も守ってくれないのだぁ」
「……」
「だから逃げるのだぁ」
エリシアは少し黙っていた。
レイは続ける。
「強いやつには逆らわない」
「……」
「腹減ったらまず逃げ道考える」
「……」
「あと」
レイは真顔になった。
「絶対に借金するななのだぁ」
「そこ?」
「怖いのだぁ」
即答だった。
カイがちょっと笑う。
「……変なの」
「勇者なのだっ♡」
「勇者ってなんなの……」
その後。
レイによる《逃走訓練》が始まった。
「のだっ♡」
「まず吾輩を捕まえてみるのだぁ♡」
「えっ」
「ほれ!」
レイ、即ダッシュ。
「のだぁああ!!」
「は、速っ!?」
カイが追う。
だが。
捕まらない。
異常に速い。
「逃げる時だけ本当に凄い……」
エリシアが呆れていた。
レイは壁を蹴り。
樽を飛び越え。
屋根へ登る。
「これが孤児界最強の生存術なのだぁ♡」
「絶対違う」
しかし。
カイはちょっと楽しそうだった。
久々だった。
笑いながら走るのは。
「待てぇ!」
「甘いのだぁ♡」
レイはニヤニヤしていた。
そして。
数十分後。
二人とも焚き火前へ戻る。
「はぁっ……はぁっ……」
カイはヘトヘトだった。
レイはドヤ顔。
「うむ!」
「逃げ足が足りぬのだぁ♡」
「なんでそんな速いんだよ……」
「勇者だからなのだっ♡」
「絶対違う」
焚き火が揺れる。
夜風は少し寒い。
レイは毛布へくるまりながら言った。
「のだぁ……」
「?」
「生き残れなのだぁ」
「……」
「偉くならなくてもいいのだぁ」
「……」
「でも死ぬななのだぁ」
珍しく。
少しだけ真面目だった。
カイはしばらく黙っていた。
そして。
「……うん」
小さく頷いた。
だが。
次の瞬間。
「あと盗むならもっと高いもの狙うのだぁ♡」
「台無しよ!!」
エリシアのツッコミが夜空へ響いた。




