18 孤児の少年
王都アルメリア。
夕方。
「のだぁ〜〜♪」
勇者レイは上機嫌で歩いていた。
理由。
逃げ切ったからである。
「うむ!」
ドヤ顔。
「吾輩の完全勝利なのだっ♡」
なお。
王家から追われている。
全然勝利ではない。
だがレイは気にしない。
「アレンでも捕まえられなかったのだぁ♡」
エリシアは呆れていた。
「逃げる技術だけ異常なのよねあなた……」
「生存能力なのだっ♡」
しかも。
今日も素材袋はパンパンだった。
昼間倒した。
・カサカサ亡霊ネズミ
・すね毛スライム
・泣き虫オーク
などの素材である。
相変わらず妙な魔物ばかりだった。
「お金なのだぁ♡」
レイは袋を抱きしめる。
完全に金袋扱いだった。
その時。
ドンッ!!
「のだっ!?」
誰かがぶつかってきた。
小さい影。
ボロ布。
痩せた腕。
孤児の少年だった。
「ご、ごめ――」
次の瞬間。
ダッ!!
少年が全力で逃げ出す。
「のだぁ?」
レイが首を傾げる。
数秒後。
「……」
「……」
「……軽いのだぁ?」
素材袋を確認。
中身が減っていた。
「のだぁあああああ!!!」
絶叫。
「盗んだのだぁあああ!!」
レイ。
ブチ切れた。
「許さぬのだぁああああ!!」
そして。
猛ダッシュ。
「待つのだぁあああ!!」
エリシアが呆れる。
「すごい勢いね……」
「お金なのだぁあああ!!」
完全に守銭奴の顔だった。
王都裏路地。
少年は必死に走る。
「はぁっ……はぁっ……!」
だが。
後ろから。
「のだぁああああ!!」
異常に速い勇者。
「ひぃっ!?」
少年が泣きそうになる。
「返せなのだぁああ!!」
「ご、ごめんなさい!!」
「嫌なのだぁ!!」
レイは壁を蹴り。
樽を飛び越え。
洗濯物を突破。
追跡能力まで妙に高かった。
「なんでこんな時だけ本気なのよ……」
エリシアは本気で呆れていた。
そして。
数分後。
「のだぁっ!!」
ガシィ!!
「うわぁぁぁ!!」
ついに少年を捕まえた。
路地裏。
逃げ場なし。
レイは少年の首根っこを掴みながら激怒していた。
「許さぬのだぁああああ!!」
「ご、ごめんなさい!!」
少年はガタガタ震える。
十歳くらい。
ガリガリ。
顔色も悪い。
いかにも貧民街の孤児だった。
だが。
レイは容赦しない。
「盗みはいけないのだぁああ!!」
「うぇぇ……」
「孤児の先輩として教育してやるのだぁあああ!!」
少年が固まる。
「……え?」
エリシアも目を瞬かせた。
「孤児?」
「のだっ♡」
レイはドヤ顔。
「吾輩も昔は孤児だったのだぁ♡」
少年はポカンとしていた。
あまりにも胡散臭いからである。
「……本当に?」
「本当なのだぁ♡」
レイは腕を組む。
「だから教育するのだぁ!!」
「どんな教育よ」
エリシアが即ツッコむ。
しかし。
レイは真顔だった。
「盗むならもっと上手くやるのだぁ」
「最低」
即答。
少年も固まる。
「の、のだぁ……」
「ぶつかり方が下手なのだぁ!」
レイは指導を始めた。
「まず視線誘導なのだぁ!」
「はい……」
「あと軽い袋を狙うななのだぁ!」
「えっ」
「重い袋の方がお金あるのだぁ!」
「教育内容が犯罪者なのよ」
しかし。
レイ本人は妙に真剣だった。
「吾輩レベルになるとぉ〜〜♡」
「ならなくていい」
「逃走経路まで考えるのだぁ♡」
少年が困惑している。
「……なんでそんな詳しいの」
「勇者だからなのだっ♡」
「絶対違う」
その時。
少年のお腹が鳴った。
ぐぅぅぅ……
「……」
「……」
レイが止まる。
「腹減ってるのだぁ?」
「……」
少年は目を逸らした。
エリシアが静かに言う。
「数日まともに食べてないわね」
「のだぁ……」
レイはしばらく黙る。
そして。
「……しょうがないのだぁ」
ゴソゴソ。
袋から干し肉を出す。
「ほれ」
「……え?」
「食えなのだぁ」
少年が固まった。
「い、いいの?」
「盗みは駄目なのだぁ」
「……」
「でも腹減るのはわかるのだぁ」
レイは妙に複雑な顔だった。
「吾輩も昔、お腹減って死にそうだったのだぁ……」
珍しく。
少しだけ静かな声だった。
少年は恐る恐る干し肉を受け取る。
「……ありがとう」
「のだっ♡」
レイはドヤ顔。
「感謝するのだぁ♡」
しかし。
次の瞬間。
「代金銀貨二枚なのだっ♡」
「うわぁぁぁん!!」
少年、泣いた。
「冗談なのだぁ!!」
「最低すぎるわよ!!」
エリシアが本気で怒った。
だが。
レイはケラケラ笑っていた。
「あーはっはっは!!」
そして。
少年の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。
「次からはもっとマシな盗み方するのだぁ♡」
「だから教育内容!!」
少年は泣きながら肉を食べていた。
だが。
少しだけ笑っていた。
レイはそんな様子を見ながら腕を組む。
「のだぁ……」
「何」
「孤児って大変なのだぁ」
「……そうね」
「でも」
レイはニヤリと笑った。
「逃げ足だけは鍛えとくのだぁ♡」
「あなた基準で人生語らないで」




