17 逃亡回
王都アルメリア。
昼下がり。
「待てぇぇぇぇぇ!!」
「嫌なのだぁあああああ!!!」
大通りを。
勇者レイが全力疾走していた。
なお。
腕には大量のクラウディア絵画を抱えている。
最後まで商品を離さない辺り、守銭奴として筋が通っていた。
「逃げるのだぁああ!!」
後方。
王城直属騎士団が猛追していた。
「囲め!!」
「路地へ追い込め!!」
「陛下命令だ!!」
大騒ぎである。
市場の人々も完全に野次馬化していた。
「またレイか!!」
「今度は何やったんだ!?」
「王家のタブー踏んだらしいぞ!」
「終わったなあいつ!!」
しかし。
レイ。
妙に速かった。
「なんであんな逃げ足速いんだよ!?」
「腐っても勇者だからだ!!」
しかも。
地形利用が異常に上手い。
屋台を蹴る。
洗濯物を利用する。
荷車の下を滑る。
犬を抱えて投げる。
「のだぁあああ!!」
「犬関係ないだろ!!」
最低だった。
一方。
王城。
「……まだ捕まらないのか」
国王は頭を抱えていた。
「申し訳ありません陛下……」
「何故だ」
「……逃走だけ異様に上手く」
「勇者がそんな技能ばかり伸ばすな!!」
王座の間が重苦しい。
だが。
その時。
騎士団長が静かに言った。
「……一人、適任がおります」
「?」
「アレンです」
空気が変わる。
数分後。
騎士団訓練場。
白銀の騎士服。
長身。
金髪。
超絶イケメン。
アレンが静かに話を聞いていた。
「……なるほど」
「頼めるか」
「はい」
アレンは小さくため息をついた。
「またレイさんですか……」
周囲の騎士たちが妙に同情的だった。
「副団長殿も苦労するな……」
「元仲間って大変だな……」
アレン本人も複雑だった。
だが。
「放置するともっと面倒になりますし」
正論である。
そして。
数十分後。
王都西区。
「のだぁぁぁぁ!!」
レイはパン屋の屋根を走っていた。
「もう終わりなのだぁ!!」
「自業自得でしょう」
エリシアは完全に呆れていた。
すると。
前方。
屋根の上。
人影。
「……レイさん」
「のだっ」
レイが止まる。
風が吹く。
白マントが揺れる。
アレンだった。
周囲がざわつく。
「副団長だ!!」
「アレン様!!」
「うわぁ絵になる……」
本当に絵になっていた。
対するレイ。
汗だく。
絵を抱えてる。
息切れ。
しかも若干臭い。
格差が酷かった。
「のだぁ……」
レイは露骨に嫌そうな顔をした。
「来たのだぁ……」
「陛下がお怒りです」
「怖いのだぁ!!」
「でしょうね」
アレンは静かに剣へ手を添える。
「大人しく来てください」
「嫌なのだっ♡」
即答。
「帰りたくないのだぁ♡」
「……」
「怒られるの嫌なのだぁ♡」
アレンは深くため息をついた。
「レイさん」
「のだぁ?」
「あなた、どうして毎回問題を起こすんですか」
「お金になるからなのだぁ♡」
「最低ですね」
即答だった。
しかし。
次の瞬間。
レイはニヤァァと笑った。
「のだっ♡」
嫌な予感。
「煙玉なのだぁ♡」
ボン!!
「っ!?」
白煙。
周囲が見えなくなる。
アレンは即座に気配を読む。
「そこですね」
ズバァッ!!
正確な斬撃。
だが。
空振り。
「……?」
煙が晴れる。
そこには。
木箱。
マント。
そして。
勇者石。
「のだぁっ♡」
遠くから声。
アレンが顔を上げる。
レイ。
もう隣の建物へ飛び移っていた。
「逃げるのだぁあああ!!」
「速っ!?」
周囲の騎士たちが驚愕する。
アレンも目を細めた。
「……本当に逃げる時だけ凄いですね」
レイは屋根を駆ける。
ピョン!!
飛ぶ。
転がる。
滑る。
異常に軽快。
「一銭にもならぬのに捕まるわけないのだぁあああ!!」
完全に本音だった。
アレンも追う。
速い。
普通の人間なら追いつかれる。
だが。
「のだぁああ!!」
レイ。
王都地形を無駄に熟知していた。
「こっちなのだぁ!!」
細い路地。
物干しロープ。
崩れた壁。
猫。
パン屋。
全部利用する。
「なんなんですかその機動力……」
アレンですら困惑していた。
さらに。
レイは叫ぶ。
「これぞ勇者スキル《全力逃走》なのだぁ♡」
「絶対違いますよね?」
しかも。
レイ。
途中で市場へ飛び込む。
「わぁぁぁ!?」
「魚が!!」
「キャベツ踏むな!!」
大混乱。
アレンは被害を避けながら追う。
その差が地味に効いていた。
「……!」
アレンが気づく。
レイ。
わざと人混みへ突っ込んでいる。
「本当に性格悪いですね……!」
「生き残るためなのだぁ♡」
そして。
最後。
王都外壁近く。
「止まりなさい!」
「嫌なのだぁ!!」
アレンがついに距離を詰める。
あと少し。
あと一歩。
だが。
「のだっ♡」
レイが笑った。
そして。
壁から飛び降りた。
「!?」
普通なら自殺。
だが。
下には。
干し草荷車。
ドサァァァ!!
「のだぁ〜〜♡」
レイ、着地成功。
即転がる。
即起きる。
即逃走。
「ではさらばなのだぁあああ!!」
アレンは壁上から見下ろしていた。
「……」
「……」
遠ざかるレイ。
めちゃくちゃ速い。
しかも楽しそう。
アレンは静かに額を押さえた。
「……なんであの人、逃亡だけ一流なんですか……」
エリシアは遠くで頷いていた。
「私もずっと思ってるわ」




