15
数日後。
王都アルメリア。
「のだっ♡」
勇者レイは超上機嫌だった。
理由?
復讐が成功したからである。
広場中央。
昼。
人通りの多い場所で、レイはベンチへふんぞり返っていた。
「うむ!」
腕組み。
ドヤ顔。
完全に調子へ乗っている。
「吾輩、完全勝利したのだぁ♡」
女神エリシアは横で呆れていた。
「顔に落書きしただけでしょう」
「精神的勝利なのだぁ♡」
「小さいわねぇ……」
しかし。
レイ本人は本気で満足していた。
「のだっ♡」
屋台の肉串を頬張りながらニヤニヤする。
「盗賊どもの顔ぉ〜〜♡」
思い出し笑い。
「大うんこ♡」
「やめなさい」
「リズの変な眉毛ぇ♡」
「本当に最低」
周囲の通行人たちが微妙な顔をしていた。
「あれ勇者だよな……?」
「なんかすごい機嫌良くない?」
「怖いんだけど」
だがレイは気にしない。
なぜなら。
今の彼の脳内は勝利の余韻でいっぱいだからである。
「のだっ♡」
しかも。
今回。
レイは妙に自信をつけていた。
魔物退治。
素材売却。
盗賊への報復成功。
「吾輩、結構やれるのだぁ♡」
今さらである。
エリシアは冷静に言った。
「逃げ回りながらだけどね」
「勝てばよいのだっ♡」
「精神が小悪党なのよ」
その時。
広場の子供たちがレイを見つけた。
「勇者だー!」
「うんこ勇者だ!」
「のだっ!?」
レイが固まる。
「誰が言いふらしたのだぁ!?」
どうやら。
盗賊団の一件が一部冒険者経由で妙に広まっていた。
『盗賊団の顔に落書きして逃げた勇者』
『臭い煙玉を使う』
『橋を落として高笑い』
完全にチンピラだった。
だが。
子供人気だけは妙に高かった。
「すげー!」
「悪ガキみたい!」
「のだっ♡」
レイはちょっと嬉しそうだった。
「英雄譚なのだっ♡」
「違うわよ」
しかも。
レイはその場で商売を始めた。
「のだっ♡ 限定販売なのだっ♡」
机を出す。
紙を広げる。
そこには。
『盗賊団壊滅記念グッズ』
最低だった。
「こちら《大うんこ頭領》記念絵なのだぁ♡」
「うわ最低!」
「銀貨五枚なのだっ♡」
「高っ!」
なお。
妙に売れた。
特に悪ガキ男子に。
「買う!!」
「俺も!!」
「のだっ♡」
レイはホクホクだった。
一方その頃。
山奥。
盗賊団《黒犬団》アジト。
「……」
「……」
空気が死んでいた。
なぜなら。
まだ少し臭いからである。
「クソ勇者ァァァ……」
頭領ガルドは顔を真っ赤にしていた。
額にはまだうっすら。
『大うんこ』
跡が残っている。
「殺す……」
超怒っていた。
しかも。
リズもブチ切れていた。
「……」
鏡を見る。
変な眉毛。
ヒゲ。
大量の落書き。
「……」
バキィ!!
鏡が割れた。
「絶対殺す」
怖かった。
しかも。
盗賊たちは最近ずっと笑われていた。
「おいおい黒犬団!」
「顔洗ったかぁ?」
「ギャハハハ!!」
周辺盗賊たちにまでネタ扱いされ始めたのである。
最悪だった。
リズは机を叩く。
「……あのクズ勇者」
ガルドも頷く。
「ああ」
「報復する」
「当然だ」
そして。
盗賊団は会議を始めた。
「まず顔に落書きだ」
「いや吊るす」
「犬小屋に閉じ込める」
「また尻振りさせようぜ」
その瞬間。
リズがニヤァァと笑った。
「……それ、いいわね」
全員が悪い顔になる。
「今度は三日三晩踊らせるか」
「うわ最低」
「勇者ショー開催しようぜ」
「『わんっ♡』を延々やらせる」
「ぎゃははは!!」
完全に復讐モードだった。
しかも。
レイの性格を理解してきている。
「あと金袋狙え」
「あいつ絶対パニックになる」
「食料没収も効くぞ」
「毛布取り上げようぜ」
「やめなさいよあんたたち」
リズが若干引いていた。
だが。
少し考えてから。
「……でもやる」
やる気満々だった。
一方。
その頃のレイ。
「のだぁ〜〜♡」
超高級パンを食べていた。
「豪遊なのだっ♡」
「パン一個で?」
「高いのだぁ♡」
基準が庶民的だった。
しかし。
レイは完全に油断していた。
「盗賊ども、もう心折れたのだぁ♡」
「……そうかしら」
「吾輩の完全勝利なのだっ♡」
エリシアは何も言わなかった。
なぜなら。
あの盗賊団。
確実に根へ持つタイプだからである。
その頃。
山奥では。
「……王都へ行く準備しろ」
ガルドが静かに言った。
「勇者狩りだ」
「おぉ……」
リズはナイフを回しながら笑う。
「今度は逃がさない」
しかも。
彼女の机の上には。
レイの似顔絵。
そこへ。
『犬』
と大きく書かれていた。
一方。
王都。
「のだっ♡」
レイはパンを食べながらドヤ顔していた。
「復讐とは素晴らしいのだぁ♡」
なお。
数日後。
もっと酷い報復戦が始まることを、まだ知らない。




