14 復讐成功
深夜。
山奥。
盗賊団《黒犬団》のアジト。
「ぎゃああああああ!!?」
「顔になんか書いてあるぞ!!」
「うわ臭っ!!」
「誰だ酒樽に変な草入れたやつ!!」
洞窟の中は地獄だった。
顔面に。
『うんこ』
『貧乏』
『犬』
『税金払え』
などと書かれた盗賊たちが阿鼻叫喚している。
しかも。
臭い。
異常に臭い。
レイ特製《くさくさ草煙玉》が炸裂した結果、洞窟内が最悪の匂いになっていた。
「のだぁあああああ!!!」
その犯人。
勇者レイ。
現在。
全力疾走中。
「捕まってたまるかなのだぁああああ!!」
後ろでは盗賊団がブチ切れていた。
「待てぇぇぇぇ!!」
「勇者ァァァ!!」
「殺すぞこの野郎!!」
「のだぁあああ!!」
レイは泣きながら山道を駆け下りる。
だが。
妙に速い。
腐っても勇者だった。
普段は情けないが、逃走能力だけは異様に高い。
「速っ!?」
「なんだあいつ!!」
盗賊たちが困惑する。
レイは木々を飛び越えながら叫んだ。
「復讐完了なのだぁああああ!!」
しかも。
かなり大成功だった。
まず。
頭領ガルド。
顔面いっぱいに。
『大うんこ』
と書かれた。
しかも額中央。
超目立つ。
「のだっ♡」
レイは思い出してニヤける。
「芸術なのだぁ♡」
「性格悪すぎるわねぇ……」
女神エリシアは半分呆れ、半分感心していた。
さらに。
リズ。
寝顔へ。
『性格悪い』
+ヒゲ。
+変な眉毛。
「のだっ♡」
レイは超満足げだった。
「やり返したのだぁ♡」
「子供の喧嘩みたいね」
しかも。
レイ。
途中から妙にノリノリだった。
煙玉投げる。
ロープで転ばせる。
酒樽へ臭い草投入。
盗賊たちの靴を隠す。
最後には。
「わんっ♡なのだぁ〜〜!!」
犬の鳴き真似までして挑発した。
最低である。
当然。
盗賊団はブチ切れた。
「ぶっ殺す!!」
「待てぇぇ!!」
「顔洗わせろォ!!」
レイは全力で逃げる。
「嫌なのだぁあああ!!」
だが。
そこで。
盗賊弓兵が矢を放った。
ヒュン!!
「のだっ!?」
ギリギリ回避。
木へ刺さる。
「危ないのだぁあああ!!」
「当たり前でしょう」
「本気で殺しに来てるのだぁ!!」
「あなたも大概よ」
しかし。
レイは止まらない。
なぜなら。
「捕まったらまた尻振りさせられるのだぁあああ!!」
トラウマだった。
その瞬間。
妙に身体能力が上がった。
飛ぶ。
滑る。
転がる。
超逃げる。
「なんであんな速ぇんだ!?」
「勇者だからか!?」
「逃げ特化型なのだぁあああ!!」
本人が叫んだ。
情けない。
だが。
実際速かった。
しかも。
途中でレイは木陰へ隠れる。
「のだぁ……」
「静かに」
エリシアが結界を張る。
盗賊たちが近くを通る。
「どこ行った!?」
「クソ勇者ァ!!」
「絶対許さねぇ!!」
レイはプルプル震えていた。
「……怖いのだぁ」
「なら最初からやらなければいいでしょう」
「でも復讐したかったのだぁ……」
そこだけは本音だった。
エリシアは呆れながらも、少し笑っていた。
「満足した?」
「のだっ♡」
レイはニヤァァと笑う。
「最高なのだぁ♡」
「本当に小悪党ね」
「勇者なのだっ♡」
「どこが」
すると。
遠くから。
「いたぞォォォ!!」
「のだっ!?」
発見された。
「逃げるのだぁああああ!!」
レイ、即ダッシュ。
しかも。
走りながら盗賊へ石を投げる。
「返礼品なのだぁ♡」
「うおっ!?」
「地味に痛ぇ!!」
さらに。
煙玉。
ボン!!
「ぐぇっ!?臭ぇ!!」
「うぷっ!!」
「最低だこの勇者!!」
そのまま山道を駆け抜ける。
月明かり。
崖。
木々。
完全に大逃走劇だった。
そして。
ついに。
谷を挟んだ吊り橋へ辿り着く。
「のだっ♡」
レイの顔が悪い笑顔になる。
「まさか」
「復讐第二弾なのだぁ♡」
レイは橋のロープへ剣を叩き込んだ。
ブチィッ!!
「待っ――」
「のだぁああああ!!」
橋が崩壊。
「ぎゃあああああ!!」
「落ちるぅぅぅ!!」
盗賊たちが谷底へ落下していく。
もちろん死ぬ高さではない。
ただめちゃくちゃ泥だらけになる。
「うむ!」
レイは橋の向こう側でドヤ顔した。
「完全勝利なのだっ♡」
「本当に無駄なところだけ頭回るわねぇ……」
エリシアが呆れる。
すると。
谷底から。
「覚えてろよ勇者ァァァ!!」
盗賊たちの怒号。
レイはニコニコしながら叫び返した。
「顔のうんこ、しばらく消えないのだぁあああ!!」
「やめろォォォ!!」
そして。
レイは腹を抱えて笑い始めた。
「あーはっはっはっは!!」
数日ぶりだった。
本気で楽しそうだった。
「復讐成功なのだぁ♡」
エリシアはそんなレイを見ながら小さくため息をつく。
「……本当にくだらないわね」
だが。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
以前よりマシな顔で笑っている気がした。




