12
夜。
ベルン郊外。
安宿にも泊まらず、レイはまた廃屋にいた。
理由?
「宿代が高いのだぁ!!」
金貨七枚持ってるくせにである。
現在。
レイはボロい机に向かっていた。
ロウソク。
紙。
謎の設計図。
そして。
異様に真剣な顔。
「……」
女神エリシアは嫌な予感しかしなかった。
「……何してるの」
「復讐計画なのだぁ」
「やっぱり」
レイはギラギラした目で紙を広げた。
そこには。
『黒犬団壊滅計画』
と雑に書かれていた。
なお。
文字が微妙に汚い。
「のだぁ……」
レイは腕を組む。
「全員の顔にうんこと書くまでは死ねぬのだぁあああああ!!」
「スケールが最低」
エリシアが即答した。
しかし。
レイ本人は超真剣だった。
「許せぬのだぁ……」
机を叩く。
「吾輩を犬扱いしおってぇええ!!」
かなり根に持っていた。
「尻振りさせられたのだぁ!!」
「自分で振ったんでしょう」
「ご飯のためなのだぁ!!」
レイは涙目だった。
そして。
紙へ何かを書き足す。
『リズ → 顔にうんこ』
『頭領 → 顔に大うんこ』
『うるさかった盗賊 → いっぱい』
「語彙が終わってるわね」
「復讐なのだぁ!!」
レイは燃えていた。
しかも。
妙に細かい。
「のだぁ……まず夜中に潜入するのだぁ……」
「へぇ」
「そして寝てる間に顔へ落書きするのだぁ♡」
「うん」
「その後、食料を盗むのだぁ♡」
「小悪党すぎる」
「さらに!」
レイはニヤァァと笑った。
「酒樽に塩を入れるのだぁ♡」
「地味に嫌」
「復讐とは精神攻撃なのだぁ♡」
エリシアは頭を抱えた。
すると。
レイは急に机へ突っ伏した。
「……でもなのだぁ」
「何」
「ちょっと怖いのだぁ」
「当然でしょう」
「また捕まったら嫌なのだぁ……」
情けなかった。
だが。
次の瞬間。
「のだっ♡」
レイは金貨袋を取り出した。
チャリンチャリン。
「お金があるのだぁ♡」
「現金ねぇ」
「装備を買えば勝てるのだぁ♡」
完全に成金思考だった。
しかも。
今のレイ。
ちょっとだけ成功体験を得ていた。
魔物退治。
素材売却。
利益。
「働けばお金になるのだぁ♡」
今さら社会の基本を理解し始めていた。
女神は遠い目をした。
「成長が遅いわねぇ……」
しかし。
レイは急に立ち上がった。
「のだっ♡」
「今から武器屋行くのだぁ♡」
「こんな夜に?」
「復讐準備なのだっ♡」
一時間後。
ベルン夜市。
夜でも開いてる怪しい店が並んでいた。
「へへへ……何をお探しで?」
怪しい商人。
レイは真顔で言った。
「顔にうんこって書くための道具が欲しいのだぁ」
「……は?」
「あと臭い液体」
「何する気だお前」
エリシアは即止めた。
「やめなさい」
「復讐なのだぁ!!」
結局。
レイが買ったのは。
・煙玉
・安物ロープ
・顔料
・臭い草
・謎のマスク
完全に小悪党セットだった。
しかも。
マスクを装着してドヤ顔。
「のだっ♡」
変だった。
妙に変だった。
エリシアが聞く。
「そのマスク必要?」
「正体隠すのだぁ♡」
「普通に声でバレると思うけど」
「のだっ!?」
レイは固まった。
数秒後。
「……黙って潜入するのだぁ」
「できるの?」
「……」
沈黙。
できない顔だった。
そして。
深夜。
廃屋へ戻ったレイ。
机に復讐道具を並べ始める。
「のだっ♡」
妙に楽しそうだった。
「まず煙玉で混乱させるのだぁ♡」
「うん」
「その後、顔に『うんこ』と書くのだぁ♡」
「そこ絶対なのね」
「大事なのだぁ!!」
さらに。
「リズのやつには『性格悪い』って書くのだぁ!!」
「あなたが言う?」
「吾輩は勇者なのだぁ♡」
「意味不明ねぇ……」
すると。
レイは急に真顔になった。
「……」
「どうしたの」
「のだぁ……」
少し静かになる。
「吾輩……」
「?」
「ちょっと悔しかったのだぁ」
エリシアは黙った。
レイは毛布へ包まりながら言う。
「盗賊どもに笑われたのも……」
「……」
「アレンたちが出世してるのも……」
「……」
「なんか全部悔しいのだぁ……」
珍しかった。
本音っぽかった。
だが。
次の瞬間。
「だから絶対顔にうんこって書くのだぁあああ!!」
「台無し」
レイは拳を突き上げた。
「復讐なのだぁあああ!!」
エリシアは本気で疲れた顔をしていた。
「……なんでこの男、感情の着地点が全部そこなのよ……」




