10 素材売却
翌日。
街道沿いの小都市、ベルン。
城壁は低いが、人通りは多い。
商人。
冒険者。
旅人。
荷馬車。
市場の匂い。
焼き肉の煙。
活気だけはある町だった。
「のだぁ〜〜♡」
そんな中。
勇者レイは上機嫌で歩いていた。
理由は単純。
素材袋がパンパンだからである。
「お金なのだっ♡」
背中でガチャガチャ鳴る素材袋。
おどるたけのこの繊維。
よだれコウモリの牙。
ぬめぬめ隊長の核。
半額ミイラの呪布。
くたびれ悪魔の角。
のろまゴーレムの破片。
全部臭かった。
特にぬめぬめ隊長。
「のだぁ……ちょっと臭いのだぁ……」
レイは袋を遠ざけた。
だが。
「でもお金なのだっ♡」
一瞬で笑顔になる。
現金だった。
女神エリシアは横で呆れていた。
「あなた、本当にお金好きね」
「好きなのだっ♡」
即答だった。
「お金は裏切らないのだぁ♡」
「……」
エリシアは何も言わなかった。
なぜなら。
元仲間たちに捨てられた直後なので、妙に説得力があったからである。
町へ入ると。
人々がざわつき始めた。
「あれ勇者じゃない?」
「えっ、本物?」
「……なんか臭くない?」
最後だけ正しかった。
レイは気にせず胸を張る。
「のだっ♡」
「勇者様だ!」
「サインください!」
子供が駆け寄ってくる。
レイは即営業モードになった。
「うむうむ♡」
サラサラサラ。
サインを書く。
「銀貨三枚なのだっ♡」
「また金取るの!?」
「勇者ブランドなのだぁ♡」
最低だった。
しかし。
意外と払う子供がいた。
親が頭を抱えている。
「すみません勇者様、この子がどうしても……」
「のだっ♡ 上客なのだっ♡」
エリシアはジト目だった。
「子供から搾取しないの」
「経済活動なのだぁ♡」
市場中央。
素材買取所。
そこは冒険者たちで賑わっていた。
「次!」
「魔狼の牙五本!」
「査定銀貨十八枚!」
活気ある声。
そこへ。
「のだぁっ♡」
レイがドカッと袋を置いた。
受付のおじさんが顔を上げる。
「ん?」
そして。
「……勇者?」
「本物なのだっ♡」
「……」
微妙な空気になった。
なぜなら。
レイの評判がだいぶ広まっていたからである。
『有能メンバー追放』
『宿代未払い』
『勇者グッズ詐欺』
『盗賊に捕まった』
最後はまだ噂段階だったが。
だいぶ終わっていた。
しかし。
査定士のおじさんは素材袋を開けた瞬間、目を丸くした。
「おっ」
「のだっ♡」
「これ全部お前が倒したのか?」
「うむ!」
レイはドヤ顔。
「働いたのだぁ♡」
エリシアは遠い目をしていた。
おじさんは素材を確認する。
「おどるたけのこ……」
「うむ!」
「よだれコウモリ……」
「臭かったのだぁ!」
「ぬめぬめ隊長!?」
周囲の冒険者たちがざわついた。
「ぬめぬめ隊長倒したのか!?」
「あれ初心者には地味に厄介だぞ」
「火使わないと面倒だし……」
レイは調子に乗った。
「うむ!」
「吾輩、最強なのだっ♡」
「女神の助言込みだけどね」
「聞こえないのだぁ♡」
さらに。
「半額ミイラまであるじゃねぇか」
「半額なのだっ♡」
「そこ気に入ったのか……」
査定は続く。
「くたびれ悪魔……」
「はぁ……って言ってたのだぁ」
「なんだそれ」
「のろまゴーレム……」
「遅かったのだぁ」
「それはそう」
周囲の冒険者たちが少し感心し始めていた。
「……なんだかんだ倒してるんだな」
「勇者って伊達じゃないのか」
「いや性格は終わってるって聞くけど」
「それは否定できない」
レイは耳ざとく反応した。
「のだぁ!? 性格は関係ないのだぁ!!」
「関係あるだろ」
「勇者は強ければいいのだぁ!」
「その理論で仲間消えたんじゃないのか?」
「のだぁっ」
致命傷だった。
レイは黙る。
数秒後。
「……査定まだなのだぁ?」
露骨に話題を逸らした。
おじさんは苦笑しながら計算する。
そして。
「全部で――金貨七枚と銀貨八枚だな」
「のだっ♡」
レイの目が光った。
「お金なのだぁああああ!!!」
超元気になった。
さっきまで疲れていた男とは思えない。
しかも。
「のだっ♡ 追加で勇者石も売るのだっ♡」
ゴロゴロ石を並べ始めた。
「その辺で拾った石だろ」
「勇者石なのだぁ♡」
「違いは?」
「吾輩が触ったのだぁ♡」
「いらねぇよ」
「のだぁあああ!!」
だが。
なぜか子供が一人買った。
「わーい!勇者石!」
「銀貨二枚なのだっ♡」
「高っ!」
母親が絶叫していた。
レイはホクホク顔で金貨を数える。
「のだっ♡ 増えたのだっ♡」
そして。
次の瞬間。
「……復讐資金なのだぁ♡」
不穏だった。
エリシアが即聞く。
「何する気?」
「盗賊どもの顔に落書きするのだぁ♡」
「スケール小さいわねぇ……」
レイは真顔だった。
「額に『貧乏』って書くのだぁ」
「地味に嫌ね……」
その時。
市場の奥がざわついた。
「騎士団だ!」
「アレン様!?」
レイがピタッと止まる。
「……のだぁ?」
遠く。
白銀の騎士服。
長身。
超イケメン。
アレンが騎士団員たちと歩いていた。
周囲の女性たちがキャーキャー言っている。
しかも今日は公式任務帰りらしく、妙に格好良かった。
レイは数秒固まる。
「……」
「……」
「……」
そして。
「のだぁぁぁぁぁ!!」
物陰へ隠れた。
「なんで隠れるの」
「なんか気まずいのだぁ!!」
レイは素材袋を抱えながら震えていた。
「向こうめちゃくちゃキラキラしてるのだぁ!!」
「まあ出世してるもの」
「吾輩、今よだれコウモリの素材売ってたのだぁ!!」
「事実ね」
レイは本気で落ち込んだ。
「……人生って不公平なのだぁ……」
「あなたの場合かなり自業自得よ」




