表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/377

56話 邪竜vs英雄



ひたすら広い空間には半分以上を

占める財宝、手にすれば一生の富を

約束される黄金の山で埋め尽くされており、

狭苦しい印象を与える。


しかし、それ以上に目を引くのは

財宝を覆い隠すように存在する

"邪竜"だ。


前王の身体を獲た邪竜は、

異常なまでの重圧を与え、

普通なら見ただけで

心が砕かれてもおかしくない。


特に、そのおぞましい光を宿した

瞳に見られれば、心臓が凍りついたと

思い込んでしまう程の恐怖。


息をしているのがおかしい程の

邪竜を前に、ジークスは臆することなく

大剣を構え、まっすぐ邪竜を見据えた。


邪竜とジークスの視線はぶつかり合い、

火花が散る。


張りつめられた空気のなか、

黄金の山から宝が1つ転がり落ちた。


カツーンと甲高い、

金属に似た音が響き渡る。


音と同時にジークスは

突風の如く邪竜に迫る。



ージークスと邪竜の戦いの火蓋(ひぶた)

切って落とされた。



邪竜の鉤爪(かぎづめ)

鋼鉄を容易く引き裂く鉤爪が

ジークスの命を刈り取るために

振るわれた。


空気が震えて地面が抉れる音、

砂煙が周囲を飛び交う。


「当たればひとたまりも無いな」


先程まで居た場、

鉤爪が深々突き刺さっている場を

かわし様、ジークスは見て呟いた。


同時にジークスは鉤爪を

振るった腕を狙う。


「はああっ!!」


その一太刀は硬い鱗を切り裂き、

肉にまで迫った。


邪竜はあまりの痛さに(うめ)き声を上げ

腕の血を見て怯む。


その隙をジークスが見逃す筈がない。


「うおおおおっ!!」


隙を突き、ジークスは邪竜の腹を

大きく斬り裂く。


邪竜の悲鳴が空間をびりびりと

揺らす。


鉄臭く、生暖かい、ねっとりとした

不快な臭いが一面に満ち溢れた。


邪竜の体から噴水のように溢れだす

赤。赤。赤。


その赤はまるで雨のように財宝や

ジークスにも降り注ぐ。


邪竜は例えようの無い痛みに苦悶(くもん)

叫びながら、財宝で出来た黄金の壁に

倒れこんだ。


これがチイトがモニターで見せた光景だ。


ジークスは大剣を構え、

邪竜を睨みつけ、突き進む。


その瞳には"確実に仕留める"という

意志が灯っている。


鋼鉄のような意志の堅さに

邪竜は全身の血が冷えわたり、

動悸が激しくなる。


ジークスは雄叫びをあげながら、

今度こそ仕留めるべく、剣戟(けんげき)を振るう。


その意志に身を震わせそうになる

邪竜はプライドでなんとか耐え、

嵐のような猛攻を迎えうつ。


邪竜の考えは甘かったのだ。


復活の機会を(うかが)い続けた邪竜は

10年の間、戦争を利用して獲た

魂を魔力に変換しながら力を蓄え続けた。


そして、怨敵(おんてき)であるジークスが

この国に戻り、自身と相性が

抜群の依り代が手に入る

今が好機と復活したのだ。


怨敵が消えれば障害がなくなると……。


簡単に国を潰せて、宝を狙う者が

いなくなり安心できると……。


10年前の復讐をするべく再び

同じ場に呼び寄せた。


ーしかし、邪竜の思い通りには

いかなかった。


ジークス以外にチイトやポンドという

予想外の強者が同時にドラケネスに

居たこと。


ヴィーメランスが現れたことにより、

戦争が即終結し、戦争で亡くなった者の

魂で回復していた邪竜にとって思いの外、

力が蓄えれなかったこと。


この体がどういう訳か自身の思い通りに

動かないこと。


そして、何よりの想定外は


ージークスの強さだ。


以前とは桁違いの、

荒削りながらも洗練された剣技。


幾多の修羅場を乗り越えた事が

見てわかる、その身のこなし。


邪竜の危機感をどんどん(あお)り、

最終的には直々に潰さねばと考えさせた

恵まれた肉体、戦闘の勘は更に

磨かれていた。


そして、以前のように指示で動く

人形ではなく、

"自分の意志"で邪竜を

倒そうとしているのだ。


10年の月日は邪竜だけではなく、

ジークスにも同等に流れ、

その月日がジークスの強さや生き方を

変えている事を計算に入れていなかった。


10年という月日が人を変えることを、

魔に身を堕とした邪竜の頭には

無かったのだ。


以前と全く違う。


純粋な強さと意志の強さも兼ね備えた、

まさに"英雄"となったジークスに

邪竜は虫が背中を這うような悪寒、

恐怖を覚えた。


溢れんばかりの黄金に全く目もくれず、

自身の命を刈り取ろうと迫る者。


早く回復しようと、迷宮で見つけた

御馳走を得ようとしても、

予想外の強者達と戦争を終結させた者に

(はば)まれて回復するどころではない。


自身が邪竜になる前の記憶は()うになく、

いつからこの身に成り果てたのか

わからない邪竜は、初めて恐怖を味わう。


眼前に迫る死神に息を呑んだ。


今まで自分がしてきたことを

邪竜は身をもって味わっている。


これが怯え……


これが恐怖……


これが……



ー命を奪われるということなのだと。



今は早く、この場から逃げ出したい。

逃げて態勢を整えるのだ。

今は早くこの場からと、

邪竜は大きな翼を広げて、

上を目指す。


「逃がしはしない!」


しかし、ジークスがそれを阻む。


高く積もった黄金を足場に、

野山を駆ける牡鹿のように近づき

天高く跳躍する。


雷鳴のような邪竜の声とともに、

重いものが落ちる音が響き渡った。


翼を一太刀で斬り取ったのだ。


辺りにねっとりした鉄の臭いが

更に充満する。


「お前を逃がすつもりは毛頭無い」


大剣についた血を振り払い、

邪竜を見据える。


「1度首を彼に斬られているからな。

そこを狙ったほうが早いか」


ジークスは大剣を構え、

邪竜に向かう。


満身創痍に近い邪竜は

近づかせはしないと、

ドラゴンが持つ特有の技。


以前、ジークスの翼と左半身を焼いた

灼熱の息"ドラゴンブレス"を

見舞おうとする。


「ドラゴンブレスか!?」


ジークスは距離をとり、

自身と同じ大きさの大剣を盾にしたが

一向に吐かれる気配が見られない。


邪竜自体も困惑しているのが見てとれた。


(……なにかがおかしい)


ジークスは以前と今の違いに

眉をひそめ、観察する。


(以前は人の姿、今はドラゴンの形態だ。

攻撃力はドラゴンのほうが高い為、

俺を仕留めるつもりなら納得がいく。

が……)


疑問の花が脳裏に咲く。


(執心している宝を傷つけたくないから

躊躇(ちゅうちょ)しているのか?

ならば、人の姿のほうが損害が少ない筈。

依り代を人に変えれば良いだけの話だ。

それとも……ドラゴンの形態に

慣れていないだけか?)


考えを巡らせていると、頭上が暗くなった。


いつのまにか、邪竜の尾が

上から振り落とされていたのだ。


(……試しに受けてみるか)


ジークスは確認する為、

かわすのではなく、

受け止めることにした。


邪竜の尾が大剣とぶつかり合う。


尾はジークスの頭寸前で

押し留められる。


(……やはりな)


以前と違い、少し力が無いのだ。


ジークスが強くなったからだけではない。


邪竜自体の行動が何かに

阻まれているのだと直感する。


受け止めた尾ごと大剣で弾き、

後方に下がって一旦距離をとる。


(邪竜の身になにかが起きていることに

違いない。

が、それが好機だ)


ジークスは判断し再び迫るが、

邪竜は再びドラゴンブレスを吐こうと

口を開く。


今度は問題なかったようで、

邪竜の口に魔力が収束していくのが

わかる。


灼熱の息は周囲を赤く照らしながら、

熱はジークスの肌にも伝わる。


邪竜は狙い澄まし、一気に放つ。


狙いは勿論、ジークスだ。


叩きつけられた熱は

濁流のようにジークスを飲み込む。


が、ジークスは大剣を盾にし、

溶岩を連想させる熱から身を守る。


大剣はジークスが迷宮で見つけた1級品。


斬れ味もさながら、盾にできる程の

防御力が備わっている。


普通の剣ならば熱に耐えきれずに溶けて、

使用者もそのまま熱に溶かされるだろう。


しかし、ジークスの大剣は

灼熱のドラゴンブレスに耐えれるのだ。


邪竜はその事実に目を丸くした後、

瞳を尖らせ、更に熱を上げていく。


(熱を上げたか……。

このままでは剣が溶けるのも

時間の問題かもしれないな)


剣に熱が伝わっていくのを感じ、

ジークスは不利だと判断した。


(剣を盾にし、ドラゴンブレスの

範囲から離れて、狙いを

定まらせぬように動くか)


行動に出ようとした瞬間、

熱が突如消えた。


邪竜がジークスがいない場所へ

首を動かしたのだ。


必死に首をジークスがいる場所へ

向こうとしているが、全く動かない。


なにが起きたかは理解できないが、

ジークスは首を狩ろうと

疾風のごとく駆ける。


ジークスの動きに気づいた

邪竜は首を守ろうと手をなんとか

動かし、一太刀を受けた。


再び鉄の臭いが充満し、

赤い飛沫が飛び散る。


邪竜は痛みに悶絶しながら、

尻尾で攻撃するもあらぬ方向だ。


そして、よろめきながら黄金に倒れこむ。


ジークスを見据え、口を動かす。


「……や……く」


話していることだけはわかるが、

単語が聞き取れない。


聞かねばならない気がしたジークスは

耳を澄ませる。


「……た……の……む……」


澄まして聞こえた声にジークスは

目を見開く。


「……まさか?!」


声が先程の邪竜のものとは違う、

よく聞いていた声だ。


小さい頃から聞き馴染んでいた。

力強く洗練された……

自身を戦場へと動かしていた声。


「と……ど……め……を……

ジー……クス」


声の持ち主はドラケネス王国前王、

"ローズイヴァン・フォン・ドラケネス"。


ジークスの"父親"だった。


「なぜ……?!」


瞬間、ジークスの頭にある映像が流れこむ。



ーそれは、とある男の半生である。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ