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55話 英雄"候補"の意味




重苦しい音と共に、扉は閉まる。


ジークスは周囲を見渡し、

警戒を怠らない。


「……懐かしい景色だ」


変化の無さに、つい言葉を溢した。


頭上には氷柱(つらら)のように尖った岩が

密集しており、邪竜へと続く階段は

まるで地獄へと続いているようだ。


「この階段を降りれば……」


ジークスは記憶を辿りつつ、

階段を降りていく。


しばらく降りていくと、

記憶通りのものがあった。


「本当に変わってないようだ」


視線の先には、不自然な程に人1人が余裕で

くぐれそうな穴が綺麗に空いていた。


穴は窓のように存在し、地下だというのに

目が(くら)みそうな光が漏れている。


「この光はたしか……

財宝の輝きだったか」


邪竜の存在は、

"財宝に(こだわ)った者の成れの果て"

とドラケネスでは伝えられている。


邪竜は以前、1国を治める長であり、

金銀輝く財宝が大好きであった。


各地の財宝を集めに集め、

いつしか、誰かにこの財宝を

盗られはしないかと疑心暗鬼に(おちい)った。


そして、挙げ句の果てに

周囲に手をかけた者の成れの果てであると。


邪竜を倒しに来た者の中には

財宝の輝きに目を眩ませて、

倒すどころではなくなった。


たくさんの命が消えた為に

数多(あまた)の財宝とともに封印されたという。


以前のジークスは、

意思などない人形だった為、

財宝などに惑わされることなく

戦いに勤しめた。


今の自分ではどうかと

少し不安に感じていたのだが、

どうやら問題無いようだ。


ジークスにとって宝とは、

欲にまみれた黄金の輝きではない。


脳裏に浮かぶは、柔らかい瞳で

話しかけてくる親友の姿。


『ジークス!』


ジークスの宝は心を優しく照らし、

暖かくする、日だまりの輝きなのだ。


その宝は現在、不服だが

1番身の安全が保証される場にいる。


精神面は不安だが……。


ジークスは貰ったカラドリオスの羽根を

取り出し、しばらく見つめた後、懐に

仕舞う。


「では、行くか」


穴に身を乗り出し、

足をかけると一気に下へと飛び降りた。



ーーーーーーーーーー



「ジークス……大丈夫かな?」


その宝はチイト達に守られながら、

邪魔にならないように三角座りで

待機していた。


心配な郁人は自身の膝に顎を乗せて

息を吐いてしまう。


弱々しい姿の郁人をライコは励ます。


〔大丈夫よ。

あんたが念のためカラドリオスの

羽根を渡しているのだし、

何より実力も以前と違うのだから〕

(そうかもしれないけど……

不安ではなく、心配なんだよ)


大丈夫かなと声を漏らす郁人。

ユーは大丈夫だと頬にすり寄る。


「パパは心配し過ぎだよ」


隣で座るチイトが頬を膨らませた。


「こう言うのも(しゃく)なんだけど、

手加減した俺と渡り合えたのは

あのジジイが初めてだよ。

だから実力はあるし、なにより……

パパがそこまで心配する必要ない!!」


眉を吊り上げたチイトは見つめる。


「あのジジイばかり心配してもらって

ズルい!

俺だってしてもらえてないのに……

ズルいズルい!!」


気持ちを表現するように

マントで地面を叩きながら

駄々をこねる。


「心配って……

そんな状況になってないからで、

もしそうなったら俺は心配するぞ」

「……そうなの?」


郁人の言葉を聞き、チイトは

ピタリと静止する。


「ジークスだけじゃなくて、

チイトやヴィーメランス、

ポンド、皆が怪我しないか

俺は心配なんだ」


戦いに怪我は付き物だと言われた事が

あるけどなと頬をかく。


「今はこうやって話せる距離にいて、

怪我してないとか見てわかるから、

そこまでじゃないけどさ」

「……ジジイだけじゃない?

俺の事も心配してくれる?」


首を傾げて尋ねたチイトの頭を撫でる。


「そりゃ心配するさ。

ジークスだけじゃないよ」

「……そっか!

ならいいや!」


チイトは満足気な笑みを浮かべると、

郁人に抱きつき撫でられるのを

甘受する。


ユーも郁人を見つめて、

心配してくれるかと目で訴える、


「ユーの事も心配する。

当たり前だろ」


聞いたユーは嬉しそうに

肩の上で尻尾を振った。


「チイト!

貴様も戦え!!父上に甘えるな!!」


甘えるチイトにヴィーメランスが

声を荒げた。


チイトを見る目は怒りで燃えている。


誰もが怯えて泣き出しそうになる

視線をぶつけられたチイトは

平然と言い返す。


「五月蝿い。

戦馬鹿の本領発揮の機会を

与えてやっているんだ。

さあ、遠慮せずにやれ。

集団戦は得意だろ?」

「機会なら迷宮でもあった!

貴様はただ甘えたいだけだろう!!

言い訳を並べるな!!」


ヴィーメランスは火の粉を

舞わせながら、容赦なく敵を

殲滅(せんめつ)していく。


敵を倒す(ごと)に威力は更に増している。


ライコはその様子を見て尋ねる。


〔こっちは問題無いわね。

猫被りと鎧もいるし、

何より軍人が斬る度に威力増してるもの。

あれって、あんたの設定が

関係してるのかしら?〕

(うん。

ヴィーメランスには

"一騎当千"っていうスキルがあるんだ)


質問に郁人は答える。


(敵が多ければ多いほど

攻撃力が上がり、倒せば更に

パワーアップする。

ヴィーメランスを攻略するには

必ず1対1を基本にしてたな。

じゃないと、攻略は不可能だ)

〔……猫被りが戦馬鹿とか言ってた

意味がわかったわ。

そのスキルは戦で本領発揮するもの〕


納得したわとライコは呟く。


〔……あいつが世界を滅ぼそうと考えて

全てを敵と認識したら終わりね。

素でも威力は高いのに……

それが上乗せされると考えたら……

もう悪夢だわ〕


声からライコが頭を抱えている

光景が目に浮かぶ。


「飽きたなら、貴様の咆哮(ほうこう)

邪竜の気を魔物から落とせばいいだろ?

そうすれば数は減るぞ」

「あれは元から邪竜の魔物では

無かったから出来たことだ!

したところで、意味などない!

わかって言っているだろ!」


鼻で笑うチイトにヴィーメランスは

反論しつつ、魔物を斬る手は止まらない。


突然、扉の奥から地を震わせる音が

響きわたった。


あまりの大きな音に郁人は思わず

立ち上がる。


「なんだ?!

……もしかしてジークスがっ!?」


自身の考えに、郁人の心臓は凍りつく。


が、チイトとライコが否定する。


「それは無いよパパ」

〔こいつの意見に同意するのは

あれだけど言う通りだわ。

さっきも言ったけど、

以前とは違うのだから〕


ライコは郁人に語りかける。


〔あたしのあいつに対する呼び方は

"英雄候補"よ。

生半可な実力なら呼ばないわ。

それに、あいつに欠けてたものが

あったから候補がついてるだけで、

実力はもう十分……

今じゃそれ以上かも〕

「欠けてたもの……?」


郁人はなにかわからず、

口に出してしまった。


〔あいつに欠けてたもの……

それは"心"よ〕


ライコはハッキリとした口調で

告げる。


〔守りたいと思う真っ直ぐな気持ち、

心が無ければ、英雄とは判断しない

ようにしてるの。

以前のあいつは誰かの指示で

戦っていただけで、心は空っぽだった。

自分の気持ちが無ければ、

たとえ実力はあっても"候補"のまま。

でも……今のあいつなら

"候補"はとれそうね。

邪竜相手に比毛をとらない、

それ以上になったのだから〕


ライコの声色が優しくなった。


後半、見えているような素振りで

話すので郁人は尋ねる。


(もしかして、見えるのか?)

〔見えるわよ。

あたし女神様だし。

見ようと思えば、ばっちりね。

猫被りと英雄候補が戦ってたのも

見えたからあの時は焦ったのよ〕


ため息を吐くライコを他所に

チイトは空中になにかを描き出す。


「そういえば、見えないからパパは

ジジイへの心配が増してるんだよね?

なら、見えるようにしたらいいよね?」

「へ?」


チイトが描き終わると、

空中にモニターが現れ、

そこにはある光景が映し出されていた。



ーそれはジークスと邪竜が

戦っている光景だった。



邪竜はドラゴンの姿で、

宝の壁に叩きつけられていた為、

先程の音の正体だとわかった。


対峙するジークスは怪我はなく、

大剣を構えて突き進む。


優勢なのは誰の目から見ても

明らかにジークスだ。


「ほら!

あのジジイは心配しなくても大丈夫!

全然問題ないよ!」


突然のことにキョトンとする郁人に

チイトは無邪気に笑う。


〔あんたは本当なんでもありね……?!

これ、スキル見たときの

モニターかしら?!〕


考えるライコにチイトは答えを告げる。


<それに透視して見たものを映像として

映し出している。

いわゆる、生中継みたいなものだな。

駄女神でも出来る簡単なものだ。

ほら、やってみろ>


チイトが鼻で笑い、

ライコはそれに抗議する。


〔出来るか―――――!!

透視だけでも高度だってのに、

空中に浮かびあがらせる上、

全員に見えるようにハイビジョンで

映すとか面倒かつ超難しいわよ!!

あたし優秀だけど、まだ新米なの!!

そこまで高度なもの出来るか!!〕

(新米だったのか……)


郁人は神様にも新米とかあるのかと

ポカンとした。


〔そうよ。

神様としてはまだひよっこ。

でも、実力は他の神に比べたら

まだあるほうなの。

だから、この世界の担当に

任命されたのだけど……〕


優秀なのも楽じゃないわ

と、ライコは愚痴をこぼした。


<こんな簡単なのも出来ないとは……

本当に優秀なのか?>


(あざけ)るチイトにライコは抗議する。


〔あんたの基準で考えるな!!

哀れみの目で見るのやめなさい!

もう!こいつ腹立つわね!!〕

(ライコ、落ち着いて)


ムカつく!!と声を荒げるライコを

郁人は宥める。


チイトは抗議を無視する。


そして、モニターを眺めて顎に手を当てた。


「……あの邪竜。

なにかに(はば)まれているな」




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