54話 扉を開き、進み行く
洞窟を抜けた先には広々とした、
人工的に作られたのだろう
空間があった。
人の手が加わった証拠に、
丁寧に削られた岩壁に、
整えられた地面。
そして、邪竜が存在する場に
入るための、重苦しさを感じる
3mは遥かに越える大きな扉が
存在している。
扉には禍々しいドラゴンの絵が彫られ、
見ているだけで圧倒されそうだ。
あまりの重苦しさに息を呑む郁人は
呟く。
「あの扉の先に、邪竜が……」
「あぁ。間違いない」
郁人の言葉にジークスは頷く。
「ジークス殿は邪竜と対峙した
そうですが、どのような姿
だったのでしょう?」
ポンドの問いにジークスは答える。
「邪竜は名の通り
“竜“と呼ばれているように
人の姿をしており、
剣と炎の魔術を駆使する」
外見についても説明する。
「しかも、油断を誘う為か
女性や子供の姿にもなれる。
が、瞳を見れば誰しもが
魔物の類いだとわかるだろう。
あの瞳はまさしく邪悪の1言に
尽きるからだ」
はっきりわかるとジークスは
断言した。
「今は前王の体を使っている為、
わざわざ人の姿をとりはしないだろうが……
万が一もある。
だから……」
次に続く言葉をポンドが告げる。
「“どんな姿をしていても、
決して油断をしてはいけない“
ですかな?」
「そうだ。
邪竜に負けた者の敗因には
女性だからと油断したというのも
伝えられているからだ」
外見だけで相手を判断してはならない
という教訓になっていると伝えた。
「君達は……
油断しなそうだ」
ジークスはチイトとヴィーメランスを
見て告げた。
「どんな姿をしていようが敵は敵だ」
「女だろうと、何だろうと
立ち塞がるなら容赦はしない。
燃やすだけだ」
鼻で笑うチイトと、
確実に殺ると断言するヴィーメランス。
女子供の外見をしていても
油断しないのは明らかだ。
〔こいつら……
女子供相手でも敵なら
容赦なく仕留めそうだもの〕
ライコは油断する訳ないと呟いた。
ポンドは2人の姿にハハハと
笑う。
「お2人らしいですな。
私も女性の姿をしておりましても
敵なら斬り伏せてみせましょう」
「すごい美女だったら?」
「……斬り伏せますよ」
「……少し悩んだな、ポンド」
質問に間を置いて答えたポンド。
郁人は思わずうろんげに見てしまう。
〔こいつ……
美女だったら口説きそうで
怖いのだけど〕
(たしかに堂々と口説きそうだ)
ポンドの過去を思い出す。
(そういえば、ポンドは実際に
敵の美女を口説いて仲間に
してたみたいだけど……)
〔それで修羅場になって戦いに
なったんじゃなかった?
しかも、かなりの激戦に……〕
聞いていてゾッとしたわと
ライコは声を震わせた。
(口説こうとしたら全力で
止めないといけないな)
郁人は決意を固める。
修羅場などごめん被りたい。
ポンドの修羅場体験を聞いて、
絶対に嫌だと心底思ったからだ。
「ポンド。
もし女に見とれて
パパを守れないようなら……
俺が殺すからな」
チイトは背筋が凍えてしまう目で
ポンドを見据えた。
「その点はご心配なく。
私の最優先はマスターを
お守りすることですからな」
視線に狼狽えることなく、
ポンドははっきり告げた。
「では、行きましょうか。
先制はどうします?」
扉の前まで歩き、
そして、手をかける。
ー瞬間、空気が張り詰めたものへ
変貌していくのを郁人は肌で感じた。
「これは……?!」
ポンドは扉から距離をとり、
腰に提げた剣に手をかける。
ヴィーメランスとジークスも剣を取り、
チイトは周囲を見渡す。
(なんだ……?!
ゾクリとする……?!)
背筋に悪寒が走る郁人。
ユーも胸ポケットから
飛び出し、周囲を警戒する。
「一体何が……?!」
「どうやら、俺達は入れないみたいだ。
ほら」
チイトが指さした先を、後ろを見る。
見た瞬間、郁人は筋肉を強ばらせた。
「何……あれ?」
地面が盛り上がると、土塊は
不快な音をたてながら
角の生えたトカゲの魔物へと
形が整っていく。
あまりの気味悪さにライコは叫ぶ。
〔いやあああああ?!
なにあれ?!
気持ち悪いいいいいい!!〕
見た郁人は顔を青ざめる。
(ライコの言う通り
本当に気持ち悪いな……
音も気味悪いし……)
口元に手をあて、
思わず吐きそうになる程だ。
「……扉を調べたが、
ジジイ以外が触れると魔物が
現れるように施されているようだ」
扉を横目で見たチイトは
口を開ける。
「しかも、1度触れたら
際限なく現れるようにしてある。
ここは邪竜の気が長年に渡って
染み込んでるから、邪竜の
影響力は凄まじい。
邪竜が消えるまでずっと
このまま増え続けるだろうよ」
半永久的に湧き続けると説明し、
人差し指を上に向ける。
「しかも、魔物は上を目指していく。
ー邪竜の糧を得るためにな」
鑑定した結果を基にチイトは
推測を話していく。
内容に皆は目を丸くし、
郁人は顔を青ざめる。
「じゃあ、俺達が全員中に入ると、
城の人達や街の人達に被害が……?!」
チイトは頷く。
「うん。
俺達が中に入れば狩る人が
いなくなるからね。
あいつらは真っ直ぐ上に向かうよ。
しかも、中にジジイ以外が入ると
更に増えるように仕組まれてる」
扉を更に鑑定したチイトは述べた。
「城には戦える奴は少ないし、
どんどん涌いてくるから
このままだと、国の滅亡待った無しだね」
「そんな……?!」
事実に息を呑んでしまう郁人。
「……申し訳ございません。
私が安易に触れてしまったばかりに」
ポンドは自身の行動の浅はかさに、
頭を下げた。
「反省なら誰でも出来る。
今すべきことは、あれらの始末だ。
貴様の行動が引き金なら尚更だろう」
「……そうですな。
きっちり挽回させていただきましょう」
ヴィーメランスの言葉にポンドは頷く。
魔物達は地響きに似た唸り声をあげ、
目先の餌、郁人達へ遅いかかる。
2人は迫り来る魔物へと走り出す。
「全て灰とかせ!!」
揺らめく炎を纏う、
ヴィーメランスの剣は容赦なく
魔物を斬り、焼き付くす。
文字通り、魔物は灰となっていく。
「これ以上被害を拡大させる訳には
参りませんからな!」
風を斬り、横に一閃。
剣の光が走った。
ポンドは魔物の攻撃をくらうことなく、
大根のようにバッサバッサと
斬っていく。
斬られた魔物は自分が斬られたのか
分からぬまま、元の土塊に戻る。
〔スゴいわ!
あいつら2人だけで何とかなりそうよ!〕
圧倒的な強さに、ライコは声を上げた。
「俺が出なくても問題ないね。
パパはあそこに近付いたらダメだよ」
「大丈夫。
絶対に近づかない」
2人の活躍に、チイトは大丈夫そうだと
周囲の警戒に徹する。
ユーも郁人の肩で尻尾を立てながら
警戒している。
郁人は2人の邪魔にならないように
離れていた。
ジークスもしばらく2人の活躍を
見ていたが、郁人達に声をかける。
「では……
俺は行くとしよう。
君達はここで魔物が出るのを
引き続き、防いでほしい」
「1人で行くのか?!」
ジークスが扉を開けようとするのを、
郁人が慌てて止めた。
「俺以外が入れば更に増える。
それに、これはあの時に俺が止めを
刺していれば起きなかった事態だ。
俺には、倒す責任がある」
「けど……」
不安で瞳を揺らす郁人に
ジークスは話す。
「以前は言われたからだが、
今は違う。
俺の意思で決めたことだ。
だから心配しないでくれ」
「いや!心配するだろ!
前にジークスが相討ちだった相手だ。
もし……ジークスが…………!!」
後に続く言葉は怖くて言えず、
郁人はうつむく。
「自分で言うのもあれなんだが、
以前と実力が違う。
それに、君を守る為に強くなろうと
鍛練し、迷宮も潜ってきたんだ。
だから……」
うつむく姿を見て、ジークスは
安心させようと郁人の頭を撫でた。
撫でられたことに驚いた郁人は
顔を上げる。
「俺を……
私を信じてほしい」
ジークスは真っ直ぐ郁人の瞳を
見つめた。
「ジークス……」
その瞳にはジークスの覚悟が伺えた。
「………わかった!」
覚悟がわかると、郁人は両頬を叩き、
ジークスをじっと見つめ返す。
「……絶対に生きて帰ってこいよ!
俺のためとか言って命を棄ててみろ。
そんなの絶対に許さないからな!!」
「以前なら、君の為なら構わないと
思っていたが……
今は違う」
郁人の言葉に
ジークスは断言した。
「“守るなら、格好悪くとも生き抜いて、
そばにいるべきだ“
との意見を彼からもらったからな」
「チイトが……?!」
ジークスは郁人の後方に居る
チイトを横目で見た。
視線にチイトは鋭い舌打ちをする。
チイトの態度から本当に言ったこと
だとわかる。
〔こいつがそんなこと言うなんて
意外だわ。
パパの為に喜んで捨てろとか
言いそうなのに〕
ライコも思わず声を上げた。
「だから、絶対に生きて帰ってくる。
勿論、止めも刺す。
君はここで彼らと待っていてくれ」
「……わかった。
じゃあ、これを持っていって」
郁人はジャケットから翼を出すと、
羽ばたいて落ちた羽を渡す。
「怪我が早く治るとはいえ、
痛いのに変わりないからさ」
「ありがとう……。
君の気持ちが1番嬉しく思う」
素早く瞬きしたジークスは、
口元を緩めて羽を受けとる。
郁人の後ろで額に縦ジワを寄せて
不愉快そうに見ているチイトに
ジークスは声をかける。
「俺が戻るまでの間、
郁人を守ってほしい」
「言われなくてもそのつもりだ」
ジークスを睨みながら
郁人の後ろから抱きつくチイト。
とっとと行けと視線で訴えている。
ジークスは扉に振り向き、
手を当てる。
「では、行ってくる」
「気を付けろよ!!」
郁人の声援を背にジークスは
扉を開けた。




