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53話 邪竜へと続く道




「……ここが邪竜のいた場所に

続いているのか」


郁人の呟きは、でこぼこしたり、

節くれだった岩の壁に反響した。


しんと沈んだ洞窟の中を

郁人達は進んでいる。


洞窟は安置所のすぐ下に存在し、

まるで郁人達を誘うように

突如出現したのだ。


その洞窟はジークスの記憶にある

邪竜へと続く道に酷似していた。


なので、怪我人はリナリア達に任せ、

郁人達は邪竜を倒すため、

ジークスを先頭に、後ろを

2列になって下へ下へ歩いている。


郁人の言葉にジークスは頷く。


「あぁ。

この先にあいつの気配を感じるからな。

それに道順も変わっていないようだ」

「……ジークスは不安じゃなかったのか?

1人で行くように言われたんだろ?」


洞窟のぼんやりとした明るさと、

生き物の気配が無い静寂さは

不安を駆り立てる要素しかない。


過剰に唾を飲み込んでしまう郁人は

問いかけた。


「不安などは無かった。

あのときは心臓を動かし、命令を

聞いていたに過ぎなかったからな」

「……そうか」


淡々とした物言いから

以前のジークスの生活を感じられ

郁人は顔を(うつむ)かせる。


〔たしかに……。

英雄候補はあたしから見ても、

あの子が言うように人形だったわね〕


ライコは以前のジークスの姿を

思い浮かべた。


〔でも、今は以前の雰囲気を

感じさせないほど元気なんだから。

あんたが落ち込んだって仕方ないわ。

それに……〕


ライコの言葉を続けるように、

ジークスは口を開く。


「君に気にかけてもらうのは嬉しいが、

過去の事であり、今の俺は君という

親友を得て、生きる事を楽しんでいる。

だから俯かなくていいんだ」


ジークスが郁人の様子に

気づいて振り向き、

優しく微笑み、頭を撫でる。


〔こいつがこう言ってるんだから

気にしなくていいんじゃないかしら〕


光景にチイトは眉をしかめて、

ジークスの手を払いのける。


「パパに触れるな。

もう、パパがこいつなんて

心配する必要ないのに」


隣に居るチイトが頬を膨らませ、

前のジークスを睨みつける。


「父上は御心が広いのだ、

仕方ないだろう。

道端の雑草にさえ心を

配られてしまうのだからな」

「ヴィーメランス殿。

ジークス殿と雑草を同格に

しておりませんか?」

「父上は俺の側から離れませんように」


ポンドの発言を意図的に無視しながら、

郁人に注意を促す。


「ここは暗いですし、石などが

転がってますので足を取られないよう

お気をつけください」

「わかった……うわっ!?」


郁人は足に感覚があった瞬間、

後ろにバランスを崩した。


「父上!」


後ろに居たヴィーメランスが

郁人を支えたので転けずに済んだ。


「ありがとう、ヴィーメランス。

注意を受けた途端に転びかけるとか

……情けないな」


頬をかく郁人にヴィーメランスは

口を開く。


「礼には及びません。

それに、今のは転んでも仕方ないかと」

「?」


首を傾げる郁人だったが、

すぐに原因がわかる。


「これが原因だからね。

パパの足を汚い手で掴むとか最悪」


チイトの足下を見ると、蹴ったのか

なにかの破片が散らばっていた。


「なんだ……それ……」

〔不気味過ぎるわ……!〕


それは人の手のようで、

背中がぞわぞわしてしまう。


「……どうやら、イクトを狙ったようだ。

前はこのような仕掛けは無かったのだが」


ジークスは破片を見て、

眉間に深い(しわ)を寄せた。


「もしかしたら……

マスターの血が目当てかもしれませんな」


ポンドは推測を述べる。


「マスターの血は最高級の代物です。

迷宮内でマスターの血が魔物に

どれだけ御馳走(ごちそう)なのかは

証明されておりますし」

「血を狙ってか……」


ジークスは顎に手をあて、

口を開く。


「だとすれば、邪竜は最盛期の状態まで

回復してない可能性があるかもしれないな」

「それはあり得ますな。

魔物は魔力で回復も出来ますから」


ジークスの言葉にポンドは頷いた。


〔あんたの血は、邪竜とかの

魔物からしたら魔力とか諸々(もろもろ)回復するには

最適な食料と言えるわね〕


同意しながら、ライコは注意を促す。


〔尚更、あんたは用心しないといけないわ。

それに邪竜を叩くなら、今しか無いわね。

これ以上放っておいたら最盛期どころか

それ以上になる可能性もあるのだから〕

(そうだな。

俺は自分の身を守りつつ、

邪魔にならないようにしないと)


郁人は自身の身の置き方を認識する。


(……俺が自衛出来るのが1番なんだけど。

魔道具を使おうとすれば四肢が爆散。

自分で傷をつけてもあれぐらいの

慌てようだったしな……)


安置所に行く道中の事を振り返る。


(戦って怪我したら、特にチイトが

とんでもない事をしそうだもんな)


チイトの郁人以外皆殺し発言が

頭をよぎった。


〔自傷行為だったから、

説教で済んだのかもしれないもの。

相手が原因だとしたら、暴れて

被害が甚大になる可能性があるわ。

下手したら国1つ消えそうよ〕


ライコは一呼吸置き、

郁人に忠告する。


〔だから、あんたは戦闘とかしたり、

危ない場所にいては駄目よ。

……本当は上で待機してるほうが

いいかもしれないけど、

そいつらの側にいるほうが

安全なのよね〕


猫被りのストッパーにもなるし

と、ライコは息を吐く。


〔あと、カラドリオスの羽根の能力を

再現できるからといって

また自傷行為とかしてみなさい。

こいつらあんたを……〕

「マスター!!!」


ライコの言葉はポンドの慌てた声で

掻き消された。


別の気配を感じて見てみると、

壁から多数の手が生えて

郁人を掴もうと腕を伸ばしていた。


「気持ち悪いっ?!」


顔を青ざめながら、

郁人は急いで壁から離れる。


ーしかし


「あっ!!」


手の1つが右手の裾を掴んだ。


「離せ!!」


逃げようともがこうとした

そのとき、ユーは胸ポケットから

肩へ移動し大きく口を開く。


眩い光りが口にどんどん収束していき、

一気に光線となり放たれた。


耳をつんざく音と共に、

大砲のような音が響き渡る。


おそるおそる見ると、

そこだけに綺麗な空洞が存在しており、

多数の手は存在しない。


「………ユー!!さっきの何?!」


衝撃的な場面を目撃し、

時間が止まったように

固まっていた郁人だが、

ユーに覗き込まれ動き出す。


「チイト!!

あれは本当になんなんだ?!

さっきの光線も説明しろ!!」

「さあな?

前にも言ったが、俺も色々混ぜすぎて

全てを把握してない。

先程の光線も混ぜた奴の技だろう」


ヴィーメランスが詰め寄るが、

チイトは興味がないようだ。


聞かれたユーも郁人がなぜ慌てているのか

困惑気味である。


なにか悪いことをしてしまったのかと、

ユーは尻尾を力なく垂らした。


「びっくりしただけだから

落ち込まなくていい。

助けてくれてありがとう」


ユーの落ち込みを見て、郁人は慌てて

撫でながら感謝を告げた。


(ユーは助けようと動いただけだ。

チイトが把握してないのだから

ユーに聞いてもわからないだろう)


撫でられて尻尾を揺らすユーを

見ながら郁人は思う。


〔あんた、そいつの雰囲気に

流されたら駄目よ!

あの光線だってえげつない

威力をしてるのだから!

悪さしないように監視しなさい!!〕

(……ユーに対して厳しくないか?)


当たりが厳しい気がして尋ねた。


〔そいつに混ざってるものが

原因なのでしょうけど……

苦手なのよね、そいつ〕


ライコは理由を話す。


〔近くにいたら背筋が総毛立つのよ。

調べようとしたら頭をシャッフルされて

吐き気がするし……〕


何が混ざってるのと声を震わせた。


〔ともかく、あたしの態度については

諦めなさい〕

(……そうか。

こんなに可愛いのに総毛立ったり、

頭をシャッフルって……

どんな魔物が混ざってるんだろ?)


じっと見てみてもわからない。


が、甘えるユーの姿に考えることを

放棄する。


(……ユーは可愛いし、

守ろうとしてくれたからいいか)


嬉しそうに喉を鳴らすユーを見て、

郁人は心を和ませた。


固まっていたジークスだったが、

気を取り直して口を開く。


「ユーについて何かわからないが、

君を守ろうとしたことは事実だ。

ユーも君を守る戦力として考えよう」

「それに今考えても仕方がないかと。

とにかく先へ進みましょう」


ポンドに促され、郁人達は

更に先へ進む。


後方を警戒しながら、

ヴィーメランスは前を歩く

チイトを呼び止める。


「チイト」


眼光を鋭くし、注意する。


「貴様はきちんと把握しておけ。

父上に何かあってはどうするつもりだ!」

「あれがパパに危害を加えることはない。

まず、俺がパパに害を加えるものを

渡す訳がないだろ」


チイトは郁人とユーの様子を見ながら、

はっきり告げた。


言葉を聞き、ヴィーメランスは

納得して眼光を和らがせる。


「……一理ある。

父上に関しては信を置けるからな」

「どうかしたのか?」


郁人は視線を感じ、振り返った。


「何でもないよ」


チイトは無邪気に笑いかけ

郁人のもとに駆け寄る


「ねえ、パパ。

そいつのこと可愛がり過ぎじゃない?

もっと俺に構ってくれとも

いいと思うけどなあ」

「そうか?」

「そうだよ!

俺もっと構ってほしいし、

頭撫でて欲しいもん!」


疑問符を浮かべる郁人に

チイトは腕に抱きつく。


「貴様は嫉妬し過ぎだ。

あいつのように無差別に嫉妬する気か?」


不満を伝えるチイトに、

ヴィーメランスは髪をかき上げる。


「あいつと一緒にするな。

あいつみたいに見境なしではない」


心外だとチイトは眉をしかめた。


「あいつ?」

「着いたぞ」


郁人は誰なのか尋ねる前に、

ジークスの声が響く。




ー「この奥に邪竜がいる」




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