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15話 秘密を聞いた経緯




攻防の結果、ジークスの粘り勝ちで

郁人が折れた。


「勝手に血を飲ませたり、

尻尾を食わせたりするなよな」

「あぁ。約束しよう」


ジークスは合鍵を守りきり、

安心したように微笑む。


微笑みをチイトは睨みつつ、

横にいる郁人に尋ねる。


「部屋への不法侵入はいいの?」

「合鍵を渡している以上、知らない内に

入られても仕方ないだろ。

ジークスが俺に危害を加えるとか

盗むとかしないし」

「いや、勝手に血を飲まされたり

してるよね」


チイトが思わず頭を抑える。


〔あんた……警戒心どこに捨ててきたのよ。

今すぐ回収しなさい。

またとんでもないことされても

知らないわよ〕


ライコも思わずため息を吐いた。


「俺が絶対に守らないと……」


チイトは頭を抱えた後、郁人に抱きつく。


「大丈夫だぞ、チイト。

もうジークスの尻尾や血を飲んだり

しないから」


気づいた以上、食べることはないだろうと

告げる郁人にジークスが声をかける。


「いや。

これからも定期的に摂らなければならない」

「え?」


ジークスの言葉に耳を疑った。


「本来なら君の体は俺ぐらい、

いや……俺以上に丈夫になっていても

おかしくはないんだ。

しかし、君の体は未だに平均以下。

殴った相手の拳が砕けてもおかしくない

くらいに飲んだり食べたりしているはず

なのにだ。

……もしかすると、君の体は定期的に

摂らなければ効果が消えてしまうかも

しれない」


ジークスは自身の考察を延べていく。


「だから、定期的に摂取する必要がある。

正確には、月に1度くらいだな」

「それって、血のほうだけだよな?

尻尾は食べなくても……」


郁人は顔を青ざめて問うが、

ジークスは首を横に振る。


そして、口を開いた。


「いや、尻尾のほうも食べてもらう。

不老長寿、つまり"生命力の向上"も

表しているんだ。

君が長生きできる可能性の低さは

体の弱さが示している。

下手すれば摂取をやめた反動で、

以前のような、歩くことすらままならない

体になる可能性がある」


今のように動けない可能性もある

とジークスは説明した。


〔……その可能性は否定できないわね。

英雄候補はとても竜の力が強い。

その血肉であんたがこうやって動けている

と言っても過言ではないわ。

摂取をやめれば……

最悪、寝たきりになる可能性大よ〕


ジークスが話す可能性を、

ライコが裏付けた。


「じゃあ……旅に出るためには

ジークスの尻尾や血を定期的に

食べないとダメってこと……?」


定期的に親友の血肉を摂取しなければ

ならない事実に郁人は肩を落とす。


(これなら、知らないままのほうが……

いや、知らないまま摂らされてるほうが

怖いか……

ん?そういえば……)

「イクト、安心してほしい。

我が血肉の提供は君に効果が見られるまで、

いや、見られてもずっと提供し続けよう。

腕によりをかけ、味も保証する。

だから、安心して摂取して欲しい」


胸を張るジークスに、

郁人は気になることを尋ねる。


「なあ、ジークス。

尻尾は再生すると言ってたが

自分で斬ってるのか?痛くないか?」

「心配してくれるのか?

君は優しいな」


心配そうな目付きの郁人に、

ジークスは微笑む。

そして、問いに答える。


「もちろん。自分で斬ってるぞ。

痛みだが、一瞬だから問題ない。

むしろ……君の力になるのだと思うと、

温かい思いで胸が満たされ、

痛みどころではないんだ」


ジークスは肌を赤くしながら、

郁人に柔らかく微笑む。


「我が親友、イクトの為になるなら

喜んで捧げ続けたい……!!

とすら感じてしまう程なんだ。

そうだ!

効果が見られないなら、

もっと食べる回数を増やせば……!」

「………自分を大切にしてほしいな、俺」


ジークスの考えに郁人は額に汗をかいた。


〔この英雄候補……

あんたに対して本っ当に色々重いわよね〕

(あれかな?

俺が初めての友と言っていたから

距離感がいまいち掴めていないのかも……)


ジークスを弁解しようとする郁人に、

ライコは思い出したように尋ねる。


〔そういえば、あんたはいつ……〕

「パパはいつ事情とか聞いたの?」


が、そんなライコを(さえぎ)り、

チイトは不思議そうに尋ねた。


「こいつ、身に覚えなさそうだし……」

「俺もいつ話したのか知りたい」


本当に身に覚えがないのだろう、

ジークスも尋ねてきた。


尋ねられた郁人は腕を組み、

少し考えた後、ジークスをじっと見る。


「……本当にいいのか、ジークス?

2人だけの時のほうがいいと思うけど……」

「別に構わない。

どんな内容であれ受け止めるつもりだ」

「本当に?」

「あぁ」


ジークスに確認し、

了承得たからいいかと郁人は口を開く。


「ローダンが悪戯でジークスに

気づかれないようにこっそり

酒を飲ませたみたいでな。

その悪戯の張本人から回収に来てほしい

って頼まれて、来てみたらジークスが

仏頂面(ぶっちょうづら)で目も据わらせてたんだ。

だから、部屋まで送って帰ろうとしたら

捕まって急に泣き出したんだよ」


そのときを思い浮かべ話していく。


ジークスは大樹の木陰亭にある

2階の宿スペースの1室を貸しきっており、

飲んでいたのが1階であるため

2階までジークスの手を引き、

連れていった。


そして、郁人は去ろうとしたが、

腕を掴まれ、室内に入れられたかと思うと

泣きつかれたのだ。


「ジークスは酒を飲んだら泣き上戸に

なるみたいでさ。

俺に隠し事してすまないとか、

赤ん坊みたいに泣き出して

全て赤裸々に話してくれたんだよ」

「こいつが竜人だとか、そういうこと?」

「うん。

竜人の王族だとか、王様は自分を

疎ましく感じているとか全てを

話してくれたよ」


チイトの言葉に頷きながら

郁人は内容を話す。


「他にも、俺が衰弱していった母親と

重なって気になったとか、

どんどん俺個人を大切な存在と

認識したとか、俺に隠し事をしている

自分が後ろめた過ぎるとか……

もう全て泣きじゃくりながらな」


朝起きたら記憶になかったのには驚いたが

あの惨状を知ったら恥ずかしがるだろうし、

いずれ素面(しらふ)のときに話してくれる

だろうから、そのときまで黙っていよう

と思い、郁人は今まで言わなかったのだ。


(そういえば、 どんどん言葉が

支離滅裂になって吐きそうになったりして

大変だったっけ。

しがみついて全然離れないし、

脱水症状起こすんじゃないかと

心配になるほどの泣きっぷりで

1晩中介抱したなあ。

……この事は言わなくてもいいよな?)

〔言わないほうがいいわ。

英雄候補の名誉の為にもね〕


彼の名誉の為に言わないでおこうと

郁人は決めた。


「酒を飲んでかもしれないけど、

そこまで俺に気を許してくれてるのが

嬉しかった。

親友冥利につきるな」

「……………………」


郁人が声を少し弾ませるが、

ジークスからの返答がない。

俯いて微動だにしない。


「ジークス?」


郁人が覗きこむと、

ジークスの日焼けした肌でもわかるくらい

赤面していた。


頭にヤカンでも置いたら今にも

沸騰しそうだ。


「ジークス……なんで赤く……?」

「俺は……私は……君に……

そのような醜態(しゅうたい)を晒していたんだな……」


そう呟き、フラフラ遠くへ歩きだす、


「ジークスっ?!」


突然、大剣をショベルのように使い

ものすごい勢いで地面を掘り出した。


ジークスの突拍子のない行動に、

郁人は驚きで心臓が止まりそうになった。

が、すぐに止めに入る。


「何してるんだよ?!」

「君の前では、頼りになる俺で

いたかったんだ……!!!

それを……それを私は……

自身でイメージを壊し尽くしていた

と言う始末……!!

穴があったら入りたい……!!!!」

「それで穴掘ってるのかよ?!」

〔穴があったら入りたいの慣用句を

実際にしちゃ駄目よ!!〕


ジークスの奇行を止めようとするが、

力の差は歴然だ。


その奇行を眺めていたチイトは

提案する。


「よし。

俺が貴様に相応しい墓穴(はかあな)を掘ってやる。

感謝するんだな」

「今、墓穴(はかあな)って言ったよな?!」

「ありがたい。

ちゃんと入らせてもらおう」

「いや、墓穴に入ったらダメだろ!!

ジークス、ちゃんと頭が動いて

ないって……コラ!チイト!

嬉しそうに魔法で掘ろうとしない!!」


郁人がチイトも必死で止める。


「ところでパパ!

ジジイがしがみついて泣きじゃくり、

1晩中離さなかった挙げ句、

吐きそうになったりしたみたいだけど……

大丈夫だった!?

パパの体弱いのに……

そんなパパに1晩中介抱させるとか

酷いよね!!」

「チイト勝手に心を読んだな?!

しかも今言うかそれっ?!」

〔絶対わざとね!

このタイミングで言ったの……!!〕


チイトの言葉にジークスは一瞬固まる。

そして再び、すごい勢いで掘り出した。


「俺は……私は……そんなことを……?!」

「頭から湯気が出てる?!

しかも、穴を掘るスピードが

早くなってるし?!

ジークス、ストップー!!」




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