第31話 憎しみ
祐樹が気絶しているので、カノンが代わりに語り部やってます。
口調が少し読みづらいかもしれませんが、ご了承ください。
「ユウキさんっ」
私は急いで駆け寄りましたっ。私の我儘を聞いてくれたユウキさんが、今倒れていますっ。今度は私の番ですっ。私は精霊系のラダという種族で、ほんのわずかとはいえ傷を癒し、体力を回復させることができますっ。
「どうだ、カノン。ユウキは大丈夫そうか?あと、メニアも診てやってくれ」
「メニアさんは私が見るよ。リク君、シグレ君、手伝ってくれるかな」
「ふぉ、ふぉ。わしも行こうかのぉ」
「ラクーンさん!ありがとうございます」
メニアさんの方はアキネさんたちがやってくれるみたいですねっ。応急手当ならアビリティや特性がなくてもできますし、ひょっとしたら私よりもいい手当をするかもしれないですけどっ。ユウキさんのけがは応急処置では何ともならないくらいひどいので、私がどうにかするしかないですよねっ。
「カノンちゃん、だったよね。これユウキに着けてあげて」
そう言ってマリさんが渡してきたのは温かみのあるハート形の木でできたネックレスでしたっ。
「それはカーヴィング特製のアイテムだよ。回復効果を高めてくれるんだ」
「ありがとうございますっ」
「いいって。それよりも、君たちの絆にアタシ感動しちゃったよ。これからよろしくねってユウキにも伝えておいて」
「こちらこそっ。必ずユウキさんにも伝えますねっ。それと、レガードさんっ。ユウキさんは私のために頑張ってくれましたっ。しばらくは動けないと思いますっ」
「わかった。それではユウキの棄権により、アキネが不戦勝。このまま決勝戦を行う。アキネ対レガードだ。両者、前へ」
「おっと、そうなるのか。ラクーンさん。あとはお願いするね」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。任せておけ。うちのシグレの敵も取っておいてほしいのぉ」
「アキネさん頑張ってくださいっ!」
「そんなに言われちゃやるしかないよね」
「俺は不人気だな。別に関係ないがな」
「不人気じゃなくてまだみんなあまり知らないだけだよ」
「どっちだっていいさ。とにかく、始めちまおうぜ」
「そうだな。十傑選定選最終試合、アキネ対レガード。始め!」
「『岩窟』」「『手札回収』」
2人が岩に包まれましたっ。レガードさんは元が筋肉質なので違和感がないというか似合っているのですが、細い体のアキネさんはなんかゴツゴツしてて似合ってないですっ。いつものアキネさんならその辺りのことを笑いにしてしまうのですが、何も言いませんね。それだけ本気なんですねっ。
突然、2人が示し合わせたように動き出しましたっ。まずレガードさんが右パンチを打ちますっ。それをアキネさんが左手を曲げて受け止めますっ。岩と岩がぶつかる音があたりに響きますっ。レガードさんはそんなこと気にもせず、どんどん攻撃していきますっ。アキネさんも的確に受けていますっ。パワーはレガードさん、スピードはアキネさんが勝っていますねっ。2人ともお強いですっ。
進展が見られないようなのでレガードさんは一度距離を取りましたっ。
「元黒雷のくせして意外とやりやがる」
「レガードさんこそさすがだ。黒雷を跳ね除けただけはあるね」
「お前知ってたのか? 」
「ちょっと調べさせてもらったよ。とある探検ギルドのサブマスさんから詳しい話を聞いちゃったんだよね」
「ピカールだな。余計なことしやがって」
「そう言わずにさ。そっちも私の事情知ってるんでしょ? 」
「だからどうした? 」
「どうってわけじゃないけどさ。もしレガードさんも黒雷に入ってたら多分ユウキ君達は勝てなかっただろうなって思って」
「だろうな。聞くところによるとギリギリの勝利だったらしいじゃねぇか」
「だからさ。不思議じゃない? あとほんの少し何かが違っていたらこの選定選は無かったかもしれない。例えばレガードさんが黒雷側で戦ってたとか」
「何が言いたい? 」
「レガードさん。あなたは黒雷の誘いを断ったこと、今でも正しかったのかどうか悩んでいるそうだね。でも、きっと受けていたら受けていたでまた、後悔したんじゃないかな? 私も苦しんでたよ。もっと別の方法があったんじゃないかって」
「ピカールが何言ったか知らねぇがな、そんな説教で俺がお前たちを許すと思ってんのか? ここには憎き黒雷が3人も居やがる。少なくともそいつらだけは十傑から追い出すつもりだ。どんなことをしてもな」
「そうしたいなら構わない。でも、それが本当にベルガのためになるの? また無用な争いを生むだけじゃ無いの? いい加減その憎しみから抜け出したらどうなのさ。私が言うのも変だけどさ、もう支配は終わったんだ。そんなに憎んで何があるって言うのさ」
「俺たちを絶望に陥れた奴らを憎むなってか? お前の言うことは正しいだろう。だがな、世の中正しいだけじゃ何ともならねぇんだよ。お前みたいな若造には分からんだろうがな」
「分からないし、分かりたくもないかな。憎みたいって気持ちは理解できるけどね。でもね、レガードさん。あなたのその憎しみは本当に黒雷に向けられたものなの? 」
「当り前だろうが」
「違うね。それはあなた自身への憎しみだ。迫害され、痛めつけられ、陥れられていく仲間を守れないあなた自身に対する憎しみだ。私には見えているんだよ。私を許すっていう手札が」
「小娘がっ、知ったような口をっ、利くな!」
レガードさんがものすごい怒りと共にアキネさんに突っ込みますっ。けどその動きは直線的でそこまで速くはありませんっ。なのに何でアキネさんは躱そうとしないのでしょう。それどころか『岩窟』を解いてしまいましたっ。アキネさんは吹き飛ばされ、口からは血を吐いていますっ。グランジュさんは当然それを有効打と認めましたっ。それでもアキネさんは話し続けますっ。
「ピカールさん言ってたよ。もう十分だって。ワールド・ハンターにあなたを憎む人はいないよ。あなたを除いて」
「黙れ黙れ黙れぇぇっ!」
怒りに身を任せた、でもどこか悲しそうなレガードさんが開始位置にアキネさんを投げるとすかさずもう一撃アキネさんのお腹へと放ちましたっ。今度もレガードさんが有効を取り、アキネさんはさっき以上に血を吐きますっ。息も絶え絶えで、うまく言葉を紡げないようですっ。そんなになってもアキネさんは止めませんっ。
「私だって!」
限界に達しているはずのアキネさんは聞いたことのないくらい大きな声で叫びますっ。
「私だって後悔しているんだよ。あの時も少しうまくやれば黒雷を壊滅させられたんじゃないか、って。決闘の規定で私が勝ったらカーニバルのみんなには手を出さないって約束はしたよ。でも! 間接的に苦しめる方法はいくつでもあるんだよ。私が勝ったことでみんなが苦しんだんだよ。もしおとなしく黒雷に吸収されていたら。そう思うと胸が苦しんだ」
アキネさんは、泣いていました。辺りはもう薄暗くなっていますっ。みんなも静かに2人を見守りますっ。
「ずぅーーーっと、苦しんだ。解放されてから、ギルドに復帰してからも苦しんだ。こんな私を何も言わずまた迎え入れてくれたみんながいた。それもまた苦しかった。殴ってくれたらどれだけ楽だっただろうか」
そこでアキネさんは1つ、深呼吸をして、
「私は一度、ギルドを出た。誰にも、何も言わず一人であてのない旅でもするつもりだった。けれど、みんなは私を探してくれた。見つけてくれた。そうしてエルブルが、コードが、みんなが言ってくれたんだ。『ありがとう』って」
アキネさんはもうまともに立つことはできません。それでも、フラフラになりながらなんとかレガードさんの許にたどり着きますっ。
「その一言で私は救われた。次はあなたの番だ」
そういうとどこにいたのか、10人ほどの人だかりが突然現れましたっ。多分、ピカールさんやワールド・ハンターのみなさんなのでしょうっ。
「お前らどうしてここが……? 」
「アキネさんが教えてくれたんだよ。前君からは言われたけど、僕たちからは言ってなかったよね」
「お前たちから言ってもらうことなんてない」
「君がいつもそんなだから僕たちも言えなかったんだよ。もう1人で抱え込む必要なんてないんだ」
「黙れ」
レガードは強い言葉を使ってはいるのですが、いつもの気迫を完全に失っていましたっ。
「どうしてそう頑なに言わせたがらないのか僕には理解しかねるよ。君は黒雷からのプレッシャーから耐え、一人で僕たちを守ってくれた。誰が何と言おうともその事実は変わらない。だから、言わせて欲しい。受け取って欲しい」
そう言い終わると一呼吸おいて全員が口をそろえましたっ。
『ありがとう』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……俺の負けだよ。アキネ」
目に涙を浮かべたレガードさんはこう言いましたっ。
「試合はまだ終わってないよ? 」
「いや、俺の負けだ。こんな小娘に気づかされるとは思ってなかったよ。その礼だと言えば納得するか? 」
レガードさんは右手を差し出しましたっ。
「納得はしないね。けど戦意がない人と戦ってもね。分かったよ。私の勝ちだ」
アキネさんもわざとらしくため息をつきながらその手を取り、満面の笑みで応えますっ。
「ありがとう、アキネ」
「レガードの降参により決着、十傑選定選優勝は、カーニバル・アキネ!」
すっかり暗くなってしまった山の中に、新たな歴史が誕生しましたっ。
『決闘終了 勝者アキネ』
十傑選定選編、本編終了です。
この後、後日談を投稿する予定です




