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全てが集まる異世界で  作者: トーマス
第2章 ベルガで生きること
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第30話 信念

「2回戦第2試合、ユウキ対メニア」

予想通りの名前が読み上げられると、俺とメニアは位置に着いた。既に日はかなり傾き、空がうっすらと赤く染まっている。そんな空を見ることはなく、代わりにメニアを睨む。


「そんなに睨まなくてもいいじゃありませんカ」

「理由はどうあれお前はカノンを苦しめた」

「ロリコンですカ?」

「仲間だからだ」

「まぁいいですヨ。そういうことにしておきますヨ」

「用意はいいな。始め!」


「『色眼鏡・紫』」

「『電光石火』」

俺はいきなり全力で駆け出す。手加減して勝てるような相手ではないし、もうあの作戦は使えない。メニアの恐ろしい攻撃力はカノンが身を以て教えてくれた。なので受けではなく避けを主軸において戦う。メニアは開始時点から動かず、俺の攻撃をただ受けていた。どこに打ち込んでも的確に対応してくる。今は刀の魂を感じられないので、勇の助けも期待できない。頼る気は毛頭ないが、つい「もしあったら」とは思ってしまう。


攻撃が全くの無意味にしか感じられないので、俺は一旦距離を取り、流れを切ることにした。だが、俺が後ろに飛ぶと同時にメニアが距離を詰めてきた。おそらくはこの瞬間を狙っていたのだろう。戦闘訓練をやっているだけあって経験が俺とは比べ物にならない。その差がもろに出たのだ。強く大地を蹴り、離脱したつもりなのだが、いとも簡単に追いつかれてしまう。空中では拳を躱せないので、やむなく受け止める。幸い、空中にいたことで幾らか威力を殺せはしたが、骨が悲鳴を上げる音と共にガズ戦以来の激痛が走る。体勢は崩され、背中から着地する。が、吹き飛ばされた勢いをうまく使い、すぐに立て直す。グランジュは動かなかった。メニアもこれ以上の追撃はしてこない。


メニアへの注意を怠らないようにしつつ、腕の状態を確認する。動く。とてつもない痛みを伴うが、折れてはいないようだ。ただ、長時間の戦闘には耐えられそうにない。さっさとケリをつけなければ。


「その程度でカノンちゃんを守ると言うのですカ?笑わせないで下さイ」

「俺は本気だ」

「その決意は認めますがネ。カノンちゃんにも言いましたが、決意だけでは何もできないのですヨ。そう遠くない内に3年前の惨劇が繰り返されまス。かの戦いで無事だったのはカノンちゃんだけなのですヨ?それもジュンさんやカノルノさんが必死で助けたからでス。今度は彼らがいないのですヨ?」

「3年前に何があったのかは知らない。その話は後でゆっくりと聞かせてもらおう。今はお前をカノンに謝らせる、それだけだ」

「そうですカ。なら1つ別で決闘ゲームしましょうヨ。この試合に貴方が勝てばカノンちゃんに謝りまス。これ以上勝手に強硬策にも出ませン。私が勝てば、カノンちゃんの前から消えてくださイ。貴方の実力ではカノンちゃんを守れないネ」

「いいだろう。その決闘ゲーム、受けて立つ」

 

 『決闘ゲーム;信念の衝突を開始します』


「あーあ。始まっちゃったよ」「大丈夫でござろうか」「こんなことでギルド脱退とかしないよな?」

皆が騒めく。心配してくれているようだ。ありがたいが、これは俺が決めたことだ。後悔はない。負けもしない。まだ眠っているカノンに再び誓う。勝って必ず戻る、と。


今までのやり取りで腕の痛みは多少和らいだ。慣れただけかもしれないが、この際どちらでも構いはしない。メニアを睨み直すと、いつも通りの怪しげな表情を浮かべてこちらを窺がっている。怖気づいてはいられない。俺は気持ちを奮い立たせ、『電光石火』で駆ける。射程に入る。それでも速度は緩めない。メニアが対応しようと体勢を変える。その一瞬を突き、限界までスピードを維持したまま、メニアの背後に回り込む。バスケットボールなどで相手ディフェンスを抜く時のターンのように高速で回転することで無駄なく背後を取れる。そして回転の勢いを殺さず、遠心力に身を任せつつ渾身の右ストレートをメニアの後頭部めがけて放つ。


「……っ、『色眼鏡・茶』」

メニアは回避が間に合わないと判断したのだろう、聞いたことがないくらいの早口でこう唱えると、俺の拳を受け、地面に転がった。


「1本!」

グランジュが叫ぶ。周りにいた十傑たちは後頭部に直撃を受けたメニアを不安そうに見つめていた。ただ1人、レガードだけは無関心そうにしていたが。当のメニアは、周囲の心配をよそに何事もなかったかのように起き上がった。

「なるほど。茶色は防御力か」

「そうですヨ。さすがにあれをまともに食らえば今後に影響が出ますからネ。間に合ってよかったですヨ」

元の位置に戻りながらメニアは解説した。俺にやられたことに何も感じていないような口調だったが、再び俺の方に視線を戻すと、

「もう1本も取らせませんヨ。全身全霊を以て祐樹さん、貴方をカノンちゃんから引き離し、カノンちゃんを守りますからネ。『色眼鏡・黒』」

怒気のこもったようなその声はその場にいた全員をぞっとさせた。そして、今までも黒かったその目の周りは、より一層黒味を増し、吸い込まれそうなほどだった。


そして、今度は初めてメニアから動く。――――次の瞬間、俺は森の中を吹き飛んでいた。先程カノンが叩きつけられた木を倒し、次の木も倒し、さらに次の木を倒したところでようやく止まった。感覚は殆どない。いつやられたのかも分からなかった。体に力が入らない。全身の骨が折れているのかもしれない。血管や内臓が破裂しているのかもしれない。口からは血があふれ出る。遠くでグランジュの声が聞こえる。1本取られたのだろう。黒が遠距離攻撃系なのか身体強化系なのかもわからない。それほどまでに圧倒的だった。


動けずにいる俺の手を誰かが掴み、それによって立つことができた。というより、立たされた。

「どうです?これでわかったですよネ。私には絶対に勝てないことをネ。降参しなさいヨ。今なら緑で治してあげられますヨ。これ以上続けたら命の保証はできないヨ」

支えていたのはメニアだった。話しながら開始地点まで引きずられていく。もはや痛みもほとんど感じない。メニアの言う通りこれ以上続けたら死ぬかもしれない。たかが、十傑の議長決め。たかが、延長戦。人はそう言うかもしれない。決闘ゲームは俺が勝手に受けただけで、俺が悪いと言うかもしれない。その通りだ。それは何も間違ってはいない。だが、俺にはそれだけではない。大切な仲間を傷つけられ、詳しくはわからないが何か大変なことに巻き込まれていると知った今、引き下がれるはずがない。引き下がっていいはずがない。俺は骨が折れようが、内臓が破裂しようが、死のうが、そんなことはどうだっていい。ここで諦めたら死ぬよりも苦しい後悔という地獄に堕ちるだろう。だから俺は必死に叫ぶ。

「ふざけんな!俺は死んでもカノンを守るって決めてんだよ!この程度で負けられるかよ!!」

「いい覚悟ですネ。でも、それで死んだら馬鹿ですヨ」


俺は動かない手を強引に動かし、メニアから逃れる。今頃になって激痛が走り、意識を手放しそうになるのをぐっとこらえる。息が乱れているのがわかる。精一杯の気力を込め、メニアを睨み、殴りかかろうとするが、突然の声に寸前のところでとどまる。


「ユウキさんっ!ダメですっ!」

カノンの声だ。まだ弱々しいが、多少離れているここからでもはっきりと聞こえた。

「事情はアキネさんから聞きましたっ。決闘ゲームしてるそうですねっ。そんなボロボロになってまで私を守ることはないんですっ。私のことはいいですから降参してくださいっ。本当に死んでしまいますっ。1人には慣れてますからっ。サラマンダーに行けば入れてくれると思いますっ。だからっ」

カノンの声を聞き、張りつめていた緊張の糸が切れる音がした。強がりなのはわかっている。しかし、体が動かない。地に膝を着き、うなだれる。降参してしまおうか。口が動きかけた時、

「……っていつもなら言うはずなんですけどねっ」

「え?」

つい俺は素っ頓狂な音を出し、カノンを見る。甘えなれていない子供のように顔を赤らめながら微笑んだカノンは、こう言った。

「勝ってくださいっ。守ってくださいっ。ずっと一緒にいてくださいっー!!」


「『覚醒の日(エヴェイユ)』。『疾風迅雷』」

音が消える。決死の拳がメニアに向かう。もう動けまいと高を括っていたメニアは反応できずに吹き飛んだ。俺と同じように森を飛び、3本目の木にクレーターを作ったところで止まる。


「に、2本目!」

このアビリティを知っているグランジュでさえも一瞬声を失った。立っていられるのも不思議な状態。それは自分も、見ている人もわかっている。だが、それでも、戦わなければならない。

「クククク」

倒れた木の向こうで、不気味な笑みを浮かべるメニア。あれだけ吹き飛ばされておいて、何のダメージも感じられない。倒木を片手で投げ飛ばしながら戻ってくる。

「さすがに予想外でしたヨ。認めましょう、祐樹さん。貴方は強いですヨ。でもまだ不十分ですヨ」


黒は身体強化系のようだ。今度は見える。とてつもない速度で迫ってくるメニアを横に躱す。すかさず反撃を試みるも、片手で防がれる。それで終わらず、左フックのカウンターが襲う。とっさにボクシング漫画で読んだスリッピング・アウェーというパンチの力を顔を回すことで受け流す高等技術を使う。運よくかなりの威力を受け流したが、所詮は素人。完全ではなく吹き飛ばされる。グランジュはこれを有効打とみなす。


陽はほぼ真横にある。あたり一面橙色に染まり、幻想的な風景を作り出す。俺はもう満身創痍だ。次の攻防で決まらなければもう立てないだろう。メニアも、黒はかなり体力を使うようで、肩で息をしている。次で決めに来るはずだ。もう、誰も声を上げることはしなかった。この壮絶な戦いを見届けようと、全神経を集中させているようだった。

俺とメニアが同時に動く。あっという間に距離を詰め、攻防を開始する。体力はまだメニアに分がある。それでも俺はなんとか躱す。不用意な攻撃はカウンターの餌食だ。確実な隙を狙う。

どれくらい経っただろうか。もう殆ど意識はない。さすがのメニアも攻撃に力がなくなってきた。ここしかない。俺は一気に勝負をかける。メニアの大振りになった拳を躱し、顔面に一撃をお見舞いする。が、届かない。俺が最初にしたようにメニアは回転し、躱す。その勢いで裏拳を繰り出す。もう俺は考えていなかった。本能でしか動いていなかった。横方向の攻撃は縦方向に合わせられると弱い。なんとなくそんな気がして、アッパーを放つ。体重は乗らなかったが、軌道をそらすことには成功した。もうガードはない。俺は大きく踏み込むと全ての雷を右手に集め、最後の一撃を放った。


「1本!勝者、ユウキ!」

俺とメニアはその場で死んだように倒れこんだ。


決闘ゲーム終了 勝者佐野祐樹』

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