第28話 後悔
カノンは俺が背負っている。先の戦いで負った傷はあらかたメニアが治したが、精神的ダメージや疲労は抜けきってはいない。しばらくはこのまま休ませて、今後についてはまた考えるとしよう。
「1回戦第3試合 到着順第3位・レイ対第4位・マリ」
「それなんじゃが、我はこの決闘辞退しようと思う。今はベルガのギルド、避寒地のマスターではあるが、我が部外者だということくらい我もわかっておるしの。ベルガのことにキトスの者が必要以上に関わるものではないじゃろう。十傑会議でも必要以上に口出ししたりはせんよ」
「そういうことならばマリの不戦勝とするが、皆はそれでよいか?」
「レイちん自身が決めたんだし、どうこう言うつもりはないよ」
対戦相手のマリがそう宣言すれば反対意見など出るはずもなく、3試合目が終わった。
「では、1回戦第4試合、到着順第7位・ユウキ対第8位・ザーク。あらかじめ言っておくが、その腰にさした刀は使うなよ。相手を殺せるようなアイテムの使用は禁ずる。あくまでも試合だからな」
この世界に来て初めての戦闘相手となったザークと再び勝負する機会が与えられた。カノンはアキネに預けて、位置につく。
「今度は正々堂々戦う。リクにあんなことされちゃ同じギルドのマスターとして無様な戦い方だけはできないからな」
「俺だってそうさ。マスターのカノンが根性見せたんだ。敵もとらないといけないしな」
「では、始め!」
「『電光石火』」
パワー対スピードの勝負だが、今回のルールにおいてはスピードタイプが最も有利となるだろう。多少弱くとも相手に1本入れればよいので、メニアのようなものすごいパワーでなければその理屈は通じるはずだ。『火掌』はパワー系のアビリティなので俺の有利となるはずだが、なぜかザークはそれを使わない。
「今までの俺ならお前には勝てなかっただろう。だが、俺は新たな力を手に入れた。見ろ!『火焔武』」
ザークの全身が赤い炎に包まれる。秋雨がエレクセリアを中心に戦闘訓練を施しているという話だったが、おそらく秋雨側にアビリティ進化に関するアイテムかアビリティが存在するのだろう。そのおかげでザークの『火掌』が進化し、脅威となって俺に立ちはだかっているのだ。つくづく厄介なことをしてくれるなメニアめ。借りは返したいところだが、このままでは本当にメニアとやる前にやられかねない。
「最初に言っとくぜ。『火焔武』は『火掌』と比べ、全身に攻撃力上昇とやけど効果があり、威力も上がっている。スピードもお前ほどではないが上昇する。本気で来ないと怪我するぞ?」
「そのようだな」
俺とザークは同時に駈け出す。確かに俺のほうが少し速いようで、中央より少しザーク側で攻防を開始した。ザークの攻撃を受け止めることは可能だ。ボクサーのように腕でガードすること自体はだ。それでも炎の熱を殺すことはできない。じわじわとだが、着実にダメージを蓄積させる。一方、こちらがどこに攻撃しても、熱によるダメージが返ってくる。早めに決着をつけなければ。
「その程度なわけないよな、ユウキ」
「当然だ」
どちらも決定打に欠けている。仕方なく、俺はあの戦法を解禁する羽目となった。最高速度の誤認。どんな窮地に陥っても最高速度を出さず、一定のスピードをキープすることで俺の出せる限界を相手に誤解させる。そうすることで、いざ最高速度を出したとき、相手は対応できず一瞬の隙を生む。普通ならば、多かれ少なかれ相手に不信感を与えてしまう。なぜなら、手加減をしているということだからだ。しかし、俺は全力で戦える。『電光石火』の出力を調整するだけで、速度を変えられる。常に全力で戦うので、演技と見破られる心配がない。アキネのようなアビリティ持ちには通じないだろうが。フラーと戦った時と同じ戦法だ。弱点として、2度目以降同じ戦法は通じなくなくなる。今の対戦相手であるザークだけでなく、メニアやそれ以外のこの場にいる全員に通じなくなるのだ。代償は大きいが、負けるよりはましだ。
速度を開放すると、やはりザークは驚きの声とともに一瞬硬直した。戦闘において一瞬は生死を分ける。俺の勢いに乗った右拳がザークの腹部に直撃する。グランジュの宣言とともに1本目の攻防は終わった。
「それは奥の手だろ?いきなり使ってよかったのかよ」
「お前がそれだけの相手だってことだよ。以前とは比べ物にならないほど強い。おそらく黒雷の幹部と同格レベルだろう」
「あー、そうだろうな。気づいたんだよ。俺たちもやればできるんだって。メニアたちに教えられてな。どうしてあの時そうしなかったのかわからないんだ。全員でかかれば三幹部もグリンや、ガズだって倒せたかもしれないのに」
ザークは自嘲気味に話す。それをただ黙って聞いていることはできず、
「それは仕方のないことだったんだろう」
「仕方ないだって?確かにあいつらは強く、怖かった。でも、立ち向かおうと思えばできたはずなんだ。他のやつらもそうだったはずだ。でも、しなかった。ほんの少しの勇気さえあればできたはずなのに。そうすればもっと早く、ベルガがこんな状況になる前にどうにかできたかもしれない。それは仕方のないことなんかじゃない」
「……それは間違っていないのかもしれない。でも、今それを嘆いたところでどうにもならない。ザーク、お前が覚えるべきことは折り合いのつけ方だ。お前は黒雷と結果的に戦うきっかけを作り、その戦いに協力してくれた。情報も流してくれた。その事実だけじゃいけないのか?俺はそうは思わないがな」
「それができれば苦労はしないんだがな。お前が何を言おうとこの後悔はなくならねぇよ。さて、休憩は終わりだ。行くぜ」
俺はまだ話したりなかったが、ザークは追及を避けるようにして強引に話題を切り、向かってくる。先程の手が使えない以上全力のスピードで撹乱し、隙を突くしかない。……と思っていたのだが、ザークが近づいてくるとなぜか体が勝手に動いているような感覚に囚われた。ザークが出してくる左拳を避け、その服の袖を掴み、胸倉を取り、投げる。完全に柔道の一本背負いだった。俺は剣道部であって柔道部ではない。当然一本背負いなどできないはずだった。グランジュの宣言の後でようやく思い当った。
『やっと気づいたようだな』
ああ。近藤勇、お前だな。
『そうだ。俺の天然理心流は剣術、柔術幅広くカバーする。一本背負いとは少し違うが、似たようなものだ。この戦いだけは力を貸してやる』
俺は正々堂々戦うと決めているんだが?
『気にするな。俺は形式上お前の所有物に憑く幽霊だ。自分のアイテムを使って何が悪い?』
違反ではないはずだが、なんとなくいい気はしない。ザークには後で何かプレゼントでもしておくとしよう。新たな力に目覚めた俺はザークを圧倒した。ザークたちにとって柔道など見たこともないだろう。幽霊のアシストはそう何度も使えないようだが、とりあえず今を凌げればそれでいい。俺は心の中でザークに謝りつつ3本目を取るのだった。
この結末でよかったのだろうか……?




