第14話 対黒雷戦線:終結(前編)
「遅いぞ、祐樹よ」
「しょうがないだろ。こっちは満身創痍なんだよ。レイこそやられてるんじゃないか?」
「そうじゃのう。もう一歩も動けぬわ」
「その割には余裕だな」
「俺を忘れてるんじゃねぇよガキ共」
立ち上がったガズがこちらを睨む。少し離れたところでグリンが観察している。グリンは見たところ何かしている様子ではないが、気を付けるに越したことはないか。
「忘れてないぞ。ガズだったな。俺は春風ギルドマスターの佐野祐樹だ。ここからは俺が相手をしよう」
「だれが来ようと変わりゃしねぇよ」
「そうかい。『電光石火』」
「『不良七ノ技壱:拳技』『黒雷』『インパクト』」
レイがパワータイプなのに対し俺はスピードタイプだ。多少ダメージを受けているとはいえ、『黒雷』で強化されたガズと対等に渡り合える。問題は『インパクト』の範囲拡張だ。『拳技』で強化された『インパクト』の攻撃力はバカにならない。これを避けるために大きく移動する必要があるが、このせいで無駄に体力を消費してしまう。他のメンバーの到着とレイの『ドラゴン・キャノン』発動までの時間稼ぎが俺の主な仕事か。ヒットアンドアウェイの一撃離脱作戦で少しずつダメージを与え続けて、カノンにトドメを任せる。ガズが大人間なだけあって耐久力も高い。フラーならば吹き飛ぶような攻撃もガズは耐えてくる。種族の違いとはそのまま戦闘力の違いにつながると実感する。
「意外とやるじゃねぇか。サラマンダ―のガキよりよっぽと骨があるぜ」
「そりゃどうも」
「だが、あくまでそのガキよりは、だ。所詮俺の敵じゃねぇよ」
『黒雷』の出力が上がる。これは本格的にきついな。
だが、もうインパクトを食らうこともないだろう。すべて見えるのだから。
『ソウル・キャスト』の範囲内に入ったようだ。カノンが傍にいるのが分かる。トミーも一緒のようだ。カノンが無事だと分かるだけで安心できる。決闘がまだ続いている時点で無事なのだが、こうして感じられると安心感が違う。『電光石火』もさらに加速する。
「ちっ、一段と速くなりやがったな」
「まぁこっちも負けられないんでね」
「面白れぇ。『インパクト』解除。『黒雷』最大出力」
『インパクト』はもう通用しないと見切りをつけて『黒雷』に全エネルギーを注ぐ作戦に出たようだ。行動が見える分躱すことは可能だが、攻撃に回ることはできなくなった。グランジュがなぜ来ないのかわからないが、彼が来なければジリ貧だろう。それにここまで動きのないグリンも気になる。いい加減加勢に来てもおかしくはないはずなのだが。
「レイ、トミーにグランジュを探すよう伝えられないか?」
いったん距離を取った俺はレイに小声で話しかける。
「不可能ではない。『ソウル・キャスト』は我にもかかっておるし場所もわかる。が、カノンの護衛がいなくなってしまうぞ。グリンは分身することができる。いつ襲われるかわからぬ」
「……仕方ない、カノンも連れて行くように伝えてくれ。少しくらいなら耐えてみせる」
「分かった。少し待っておれ。」
状況は悪い。今は『ソウル・サーチャー』で強化した感覚をフル稼働させて回避している状況だ。一時的にそれが途切れるとなると、『黒雷』についていくことは難しい。だが、やるしかない。ここで頼りになるのはグランジュだけだ。
しばらくするとカノンとトミーが離れていくのを感じ、同時に『ソウル・キャスト』の効果が途切れる。今レイは戦力にならない。『ドラゴン・チャージャー』に集中してもらうために。ここからは1人での戦いだ。
★黒雷ホーム 中庭~西側
「ユウキさんたち大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよカノンさん。そう信じましょう。今私たちに必要なのは一刻も早くグランジュさんを連れて行くことです」
「そうですよねっ」
3分ほど走るとグランジュを見つけることができた。倒れていたが、軽く麻痺させられているだけですぐに復帰させられそうだ。カノンには現在回復のアビリティはないが、ラダというカノンの種族は慈愛を与えることができる。その特性を使い、少量だが解毒や回復を掛けることができる。今回のようなものであれば5分もあれば全快させられる。軽度の麻痺や毒、幻術などでは戦闘不能として認識されることはないことが救いだろうか。
「すまない。智将タイプ相手に安易に攻撃を仕掛けた俺のミスだ」
回復したグランジュが申し訳なさそうに頭を下げる。
「そんなこと言ってる場合じゃありませんっ」
「そうですよ。すぐにレイさんたちのところへ戻らないと」
「……わかった。埋め合わせは必ずする」
★黒雷ホーム 中庭
「終わりだな」
結論を言えば、俺はガズには勝てなかった。5分ほどは根性でどうにか耐えることができたが、それまでだった。強化された大人間の攻撃を躱すことができずに直撃を受けてしまったのだ。そうなればもう後は一方的だった。ダメージが大きすぎて足が動かなくなる。体力も底を突き、『電光石火』を維持できない。レイは強がっていたが、すでに限界ギリギリだったようだ。『ドラゴン・アウト』はもちろん、『ドラゴン・キャノン』も満足に打てなくなってしまっていた。助太刀に来れるわけもなく、少し離れた場所でただこちらを見ていることしかできなかった。
「お前はもう戦えまい。それよりそっちの女だ」
「ほう。悪くない判断じゃの」
まずい。レイはとにかく強がりを絶やさないが、ガズの攻撃を躱せるわけがない。傷ついた体での『ドラゴン・キャノン』は威力の低下だけでなく体にも深刻なダメージを与えかねない。打たせるわけにはいかない。俺はすべての力を込める。『電光石火』―――――
発動は、しなかった。




