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無職の俺が魔法少女を増やしたら、全員俺の彼女になった件  作者: ジャクロの精霊


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2/4

ツンデレ魔法少女との初デート!? そこに現れた変態お姉さん

人生というものは、何が起こるか分からない。


 三か月前、俺は会社を失った。


 昨日、四十七社目の就職活動にも失敗した。


 そして同じ日の夕方、空飛ぶウサギに魔法少女の採用担当を任され、知り合いの喫茶店員が炎を操る魔法少女になった。


 ……うん。


 冷静に考えると、昨日一日だけで人生が三回くらい変わっている。


 だが、今日の俺には、それ以上に重大な問題があった。


「……これ、デートだよな?」


 午前十時五十分。


 駅前の時計台の下で、俺――佐藤悠真はスマートフォンを握りしめていた。


 画面には、昨夜届いたメッセージが表示されている。


『明日、十一時に駅前集合ね』


『別にデートとかじゃないから!』


『昨日のお礼と、魔法少女の相談があるだけ!』


『遅刻したら怒るから!』


 ……四通も送ってくる必要、あったのだろうか。


 しかも最後のメッセージだけ、可愛いウサギが怒っているスタンプ付きだった。


「デートじゃない、か……」


 俺は小さくため息をついた。


 二十五歳。


 彼女いない歴、年齢と同じ。


 そんな俺にとって、女の子と二人きりで食事をするというのは、かなりの大事件である。


 昨日、魔法少女が誕生したことより緊張しているかもしれない。


「……いや、さすがにそれはないか」


 そのときだった。


「佐藤さん!」


 聞き慣れた声に振り返る。


 そして、俺は言葉を失った。


 そこに立っていたのは、橘茜だった。


 普段はポニーテールにしている赤茶色の髪を下ろし、毛先を緩く内側に巻いている。


 白いリブニットの上には淡いベージュのカーディガン。膝上までの赤いプリーツスカートに、黒いショートブーツを合わせていた。


 肩には小さなショルダーバッグ。


 耳元では、金色の小さなピアスが揺れている。


 喫茶店の制服姿とは、まるで雰囲気が違った。


「……何よ」


 茜が眉を寄せる。


「そんなにじろじろ見て」


「いや……」


「な、何?」


「すごく似合ってるなと思って」


「っ!?」


 茜の顔が一瞬で赤くなった。


「な、ななな何言ってんのよ!?」


「いや、本当に」


「べ、別に! あんたに見せるために選んだ服じゃないんだから!」


「うん」


「昨日たまたま買っただけで!」


「そうなんだ」


「……三日前から考えてたわけじゃないんだからね!」


「……三日前?」


「…………」


 茜が固まった。


 そして。


「わ、忘れなさいっ!!」


 俺の肩をぽかぽか叩き始めた。


「痛い痛い! 分かったから!」


「もうっ!」


 ……どうやら今日も元気らしい。


 俺は少しだけ笑った。


 そんな俺を見て、茜は一瞬、目を丸くした。


「……何?」


「いや。橘さんとこうして出かけるの、初めてだなって」


「……そうね」


 彼女は少しだけ視線を落とした。


「……私も、楽しみにしてたし」


「え?」


「な、何でもない!」


 茜は勢いよく歩き出した。


「ほら! 行くわよ!」


「ちょっと待って!」


 俺は慌てて後を追った。


 ちなみに、今日のデート代――いや、食事代については、昨夜かなり真剣に考えた。


 魔法少女の採用報酬として、五万円が支給された。


 だが、それは毎月もらえる給料ではない。


 家賃も生活費もある以上、浮かれて使い切るわけにはいかなかった。


 それでも、今日は少しくらい贅沢してもいいだろう。


 昨日、茜がいなければ俺は怪物に殺されていたかもしれないのだから。


     ◇


「……ここ?」


「うん!」


 茜が案内してくれたのは、駅から少し離れた洋食レストランだった。


 白い壁に木製の扉。


 窓辺には色とりどりの花が飾られ、入口の黒板には手書きでランチメニューが書かれている。


 店内に入ると、バターと焼きたてのパンの香りが漂ってきた。


 テーブルには白いクロスが敷かれ、壁には小さな風景画。


 落ち着いた雰囲気の店だった。


「前から来てみたかったの」


 茜が嬉しそうに言う。


「でも、一人だと入りにくくて」


「そうなのか?」


「だって……」


 彼女は周囲をちらりと見た。


 俺もつられて視線を向ける。


 窓際では若い男女が一つのパフェを分け合っている。


 奥の席では、年配の夫婦が楽しそうに話していた。


 なるほど。


 カップルが多い店らしい。


「……じゃあ、俺たちも恋人に見えるかもな」


「ぶっ!?」


 茜が飲みかけの水を吹き出しかけた。


「な、ななな何言ってんのよ!?」


「いや、周りから見たらって話」


「そ、そういうことを急に言わないで!」


「ごめん」


「……別に、嫌じゃないけど」


「ん?」


「何でもないっ!」


 茜はメニューで顔を隠した。


 ……今日だけで何回目だろう。


 俺は苦笑しながらメニューを開いた。


 オムライス。


 ハンバーグ。


 ビーフシチュー。


 どれも美味しそうだ。


 そして。


「……高い」


「え?」


「いや、何でもない」


 思わず漏れた本音を飲み込む。


 失業してからというもの、食べ物を見ると最初に値段を確認する癖がついてしまった。


 そんな俺の様子を、茜はじっと見つめていた。


「……佐藤さん」


「何?」


「今日は私が誘ったんだから、少しくらい出すわよ」


「いや、それは悪いって」


「でも……」


「大丈夫。昨日、臨時収入もあったし」


「……あのウサギから?」


「ああ」


 茜は眉をひそめた。


「……本当に払ってくれるの?」


「端末には入金済みって表示されてた。確認したら、ちゃんと振り込まれてたよ」


「……怪しい仕事ね」


「俺もそう思う」


 二人で顔を見合わせた。


 そして、同時に笑ってしまった。


 昨日まで、こんな会話をする日が来るとは思っていなかった。


「じゃあ……」


 茜は少し考えてから言った。


「今日は割り勘にしましょ」


「え?」


「私も働いてるんだから。それに、あんたばっかり無理するのは嫌」


 その言葉に、俺は少し驚いた。


 茜はメニューへ視線を戻しながら続ける。


「……次に仕事が決まったら、そのとき奢ってよ」


「……分かった」


「約束だからね」


「ああ。約束」


 茜は小さく微笑んだ。


 その笑顔が、妙に嬉しかった。


     ◇


 料理が運ばれてくるまで、俺たちは昨日の出来事について話した。


「……それで、本当に魔法少女になっちゃったのよね」


 茜は小さな声で呟いた。


「まだ信じられない?」


「当たり前でしょ」


 彼女はテーブルに肘をつきそうになり、慌てて姿勢を正した。


「昨日まで普通の店員だったのに、いきなり炎が出せるようになったのよ?」


「確かに」


「しかも、あの格好!」


「似合ってたけどな」


「だからっ!」


 茜の頬が赤くなる。


「そういうことを簡単に言わないで!」


「本当のことなのに」


「……もう」


 彼女は頬を膨らませた。


 しかし、しばらくすると少し真剣な表情になった。


「……ねえ、佐藤さん」


「ん?」


「昨日、私を助けてくれたでしょ」


「まあ……」


「……どうして?」


「どうしてって?」


「怖かったはずなのに。あんな怪物、普通なら逃げるじゃない」


 俺は少し考えた。


「……橘さんがいたからかな」


「……え?」


「知らない人だったとしても助けたいとは思うけど、橘さんは前から知ってるし」


 俺は水を一口飲んだ。


「会社を辞めてからも、いつも声をかけてくれただろ」


「…………」


「昨日もサンドイッチくれたし」


「そ、それは試作品!」


「うん。美味しかった」


「……っ」


「だから、放っておけなかったんだと思う」


 茜は黙って俺を見つめた。


 その琥珀色の瞳が、ほんの少し揺れる。


「……覚えてたんだ」


「え?」


「……何でもない」


 彼女は視線を落とした。


「……私も、覚えてるから」


「何を?」


「……あんたが、初めて店に来た日のこと」


 俺は思わず瞬きをした。


「二年前の?」


「そう」


 茜は静かに頷いた。


「あの日、私、仕事で失敗したの。注文を間違えて、お客さんに怒鳴られて……」


「……ああ」


 そういえば、そんなことがあった気がする。


「私、泣きそうだった。でも、あんたが言ってくれたの」


 茜は小さく息を吸った。


「『誰だって間違えることくらいあるよ。次に気をつければいいんじゃない?』って」


「……そんなこと言ったっけ?」


「言ったの!」


 茜が少しだけ声を強める。


「……私には、嬉しかったんだから」


 彼女は俯いた。


「それから、いつも来てくれるようになって……」


「……」


「仕事で疲れてる日も、私が淹れたコーヒーを美味しいって言ってくれて……」


 茜の声が小さくなっていく。


「……だから」


「だから?」


「……何でもないっ!」


 彼女は慌てて顔を上げた。


「ほ、ほら! 料理来たわよ!」


 ちょうど店員がオムライスとハンバーグを運んできた。


 ……なるほど。


 昨日、端末に表示された好感度八十七。


 あれは突然生まれた感情じゃなかったのかもしれない。


 俺が知らなかっただけで、茜の中にはずっと何かが積み重なっていたのだろう。


 そう思うと、胸の奥が少し温かくなった。


「……橘さん」


「何?」


「また、一緒に来ような」


「…………!」


 茜の顔が真っ赤になる。


「……うん」


 彼女は小さく頷いた。


「……約束ね」


 そのときだった。


「――あらぁ。ずいぶん仲良しなのね♡」


 甘ったるい声が、俺たちの頭上から降ってきた。


     ◇


 顔を上げる。


 そこには、見覚えのある女性が立っていた。


 長い紫色の髪。


 淡い藤色の瞳。


 大人びた顔立ちに、悪戯っぽい微笑み。


 黒いタートルネックのトップスに、ワインレッドのタイトスカート。短いジャケットを羽織り、足元にはヒールのあるブーツを履いている。


 昨日、公園で俺に声をかけてきた女性だった。


「あっ……」


「あら、覚えててくれたの?」


 女性は嬉しそうに微笑んだ。


「昨日の素敵なお兄さん♡」


「……どうも」


「ふふっ。そんなに緊張しなくてもいいのに」


 彼女は俺の隣へ身を寄せた。


「私、月城莉々香。二十四歳よ」


「佐藤悠真です」


「悠真くんね。いい名前」


 莉々香は楽しそうに目を細めた。


「ねえ、悠真くん」


「はい?」


「年上のお姉さんに甘やかされるの、好き?」


「……え?」


「膝枕とか、耳かきとか……」


「ちょっと待ってください!」


「それとも、もっと大胆なこと?」


「ちょっとおおおおっ!!」


 茜が勢いよく立ち上がった。


「何してるんですか!?」


「あら?」


 莉々香はきょとんとした。


「自己紹介だけど?」


「自己紹介でそんなこと聞きません!」


「そうかしら?」


「そうです!」


 莉々香は口元に手を当て、くすくす笑った。


「ふふっ。可愛い子ね」


「子供扱いしないでください!」


「あらあら。もしかして、彼女さん?」


「か、彼女じゃ……!」


 茜の声が途中で止まった。


 莉々香はにっこり微笑む。


「じゃあ、私が立候補してもいいのかしら?」


「だ、駄目です!!」


「どうして?」


「それは……!」


 茜の頬が真っ赤になる。


 俺は慌てて割って入った。


「まあまあ、落ち着いて」


「佐藤さんは黙ってて!」


「俺の話じゃないの!?」


 莉々香は楽しそうに笑っていた。


 しかし、茜が俯いた瞬間。


 その笑みが、ほんの少しだけ変わった。


「……ふふっ」


「……何ですか」


「ううん。いいなって思っただけ」


「……何が?」


「そんなに一生懸命、誰かを好きになれること」


「っ……!」


 茜が目を見開く。


 莉々香は窓の外へ視線を向けた。


「……羨ましいわ」


 その声には、さっきまでの軽薄さがなかった。


 しかし次の瞬間、彼女はいつもの笑顔に戻った。


「なーんてね♡」


 そして、俺のほうへ身を乗り出す。


「悠真くん。今度、私ともデートしてくれる?」


「えっ!?」


「もちろん、二人きりで」


「ちょっと待ちなさいよおおおおっ!!」


 茜の叫び声が、店内に響き渡った。


 ……頼む。


 誰か、この状況を説明してくれ。


     ◇


 その数分後。


 莉々香は俺たちの席を離れ、少し奥のテーブルに座っていた。


 どうやら一人で食事に来ていたらしい。


 茜はというと。


「…………」


 ものすごく不機嫌だった。


「……橘さん?」


「何?」


「怒ってる?」


「怒ってない」


「……本当に?」


「怒ってないって言ってるでしょ!」


「はい」


 ……絶対怒ってる。


 俺はハンバーグを一口食べた。


 美味しい。


 だが、味が分からないくらい空気が重い。


「……あの人、綺麗だったでしょ」


 茜がぽつりと言った。


「え?」


「さっきの人」


「まあ、綺麗な人だと思うけど」


「……ふーん」


 茜は頬を膨らませた。


「……そう」


「でも、今日は橘さんと来られてよかったよ」


「……え?」


「楽しいし」


 俺は少し笑った。


「また来たいと思ってる」


 茜は俺を見つめた。


 しばらくして、ゆっくり視線を落とす。


「……そ、そう」


「嫌だった?」


「嫌なわけないでしょ!」


 言ってから、茜は自分の口を押さえた。


「……あ」


「……」


「い、今のは……!」


「うん」


「……忘れて」


「無理かな」


「ばかっ!」


 茜はそう言いながら、笑っていた。


 俺もつられて笑った。


 そのとき。


 ピピピピピッ!!


 ポケットの中で、端末が激しく震えた。


「……ん?」


 取り出した画面には、赤い文字が表示されていた。


『警告』


『災厄獣反応を検知』


『発生地点:現在位置』


「…………」


 俺はゆっくり顔を上げた。


 店内の照明が、一瞬だけ暗くなる。


 窓の外が、不自然に黒く染まっていた。


「……佐藤さん?」


 茜が眉をひそめる。


「……何か出たの?」


「ああ」


 俺は端末を握りしめた。


「……昨日の怪物だ」


 その瞬間。


 店の奥から、悲鳴が響いた。


「きゃあああああっ!!」


     ◇


 黒い霧が、店内の天井から流れ落ちていた。


 それは床の上で渦を巻き、巨大な蜘蛛のような姿へ変わっていく。


 人間の上半身。


 何本もの細長い腕。


 顔には、無数の目。


「……うわ」


 俺は思わず後ずさった。


「気持ち悪っ!」


 客たちが悲鳴を上げる。


 椅子が倒れ、食器が床に散らばった。


 店員が非常口へ誘導しようとしている。


 しかし、怪物は長い腕を伸ばし、通路を塞いだ。


「佐藤さん!」


 茜が立ち上がった。


「端末!」


「ああ!」


 俺はマギカル・レジスターを操作する。


『魔法少女登録確認』


『変身承認』


 茜の身体が真紅の光に包まれた。


「――マジカル・イグニッション!」


 赤いリボンが舞い上がる。


 白いニットは、金色の装飾が施された赤いドレスへ。


 スカートは何層ものフリルを重ねた戦闘衣装へ。


 足元には白いロングブーツ。


 右手には、燃え盛るハート形の宝石を持つ真紅の杖。


 光が収まると、そこには炎の魔法少女が立っていた。


「……よし!」


 茜は杖を構えた。


「今度こそ、ちゃんと戦ってやるんだから!」


 しかし。


 怪物は茜ではなく、店の奥へ向かっていた。


 そこには、一人の小さな男の子がいた。


 五歳くらいだろうか。


 青いパーカーを着た少年が、テーブルの下で震えている。


「……ママ……」


 怪物の腕が伸びた。


「危ない!」


 俺が叫んだ、その瞬間。


「――その子に触らないで」


 静かな声が響いた。


 莉々香だった。


 彼女は男の子の前に立ち、両腕を広げていた。


 先ほどまでの悪戯っぽい笑みは消えている。


「……お姉ちゃん?」


 少年が震える声で言った。


 莉々香は振り返り、優しく微笑んだ。


「大丈夫よ」


「……怖いよ」


「うん。怖いわよね」


 莉々香は膝を折り、少年の目を見た。


「でもね、お姉ちゃんがここにいるから」


「……本当?」


「本当」


 彼女は小指を差し出した。


「約束」


 少年が小さな指を絡める。


「……うん」


 莉々香は立ち上がった。


 そして、怪物を睨んだ。


「……子供を怖がらせるなんて、最低ね」


 怪物の腕が振り下ろされた。


「莉々香さん!」


 俺は走り出した。


 だが、間に合わない。


「――クリムゾン・シールド!」


 茜の杖から炎の壁が現れた。


 怪物の攻撃を受け止める。


 ドゴォン!


 衝撃でテーブルが吹き飛び、窓ガラスが割れた。


「くっ……!」


 茜が歯を食いしばる。


「佐藤さん! その子を連れて逃げて!」


「分かった!」


 俺は少年のもとへ駆け寄り、抱き上げた。


「大丈夫か?」


「……うん」


「よし。お母さんのところへ行こう」


 莉々香も一緒に出口へ向かおうとした。


 だが。


 怪物の長い腕が、俺たちの前に伸びた。


「しまっ……!」


 茜の炎がそれを焼き払う。


 しかし、新しい腕が次々と生えてきた。


「何なのよ、こいつ!」


 茜が叫ぶ。


「焼いても焼いても増えるじゃない!」


 そのとき。


 ピコン♪


 端末が光った。


『魔法少女候補者を検知』


『対象:月城莉々香』


『魔力適合率:99.2%』


「……またかよ!」


 俺は思わず叫んだ。


 莉々香がこちらを見る。


「どうしたの?」


「莉々香さん!」


「はい?」


「魔法少女になってくれませんか!?」


「…………」


 莉々香は瞬きをした。


 そして。


「……え?」


「魔法少女です!」


「……ふふっ」


 彼女は口元を押さえた。


「悠真くん、こんなときに口説くなんて大胆ね♡」


「口説いてません!!」


「私に可愛い衣装を着せたいの?」


「そういう話じゃない!」


「じゃあ、脱がせたいの?」


「違います!!」


 茜が遠くから叫んだ。


「何いちゃついてるのよおおおっ!!」


「いちゃついてない!!」


 莉々香は楽しそうに笑った。


 しかし、俺が差し出した端末を見ると、その表情が変わった。


「……本当に、魔法少女になれるの?」


「ああ。本人が望めば」


「……私でも?」


「もちろん」


 莉々香は少しだけ俯いた。


「……私ね」


「ん?」


「昔から、よく言われるの」


 彼女は苦笑した。


「ふざけてばかりで、真面目な話ができない人だって」


「……」


「だから、誰かが困ってても、私が何かできるなんて思われない」


 莉々香は男の子を見た。


 少年は俺の腕の中で、小さく震えている。


「……でもね」


 彼女の声が、少しだけ強くなった。


「誰かを守りたいって気持ちまで、冗談だと思われたくないの」


 俺は端末を差し出した。


「だったら、証明してみませんか」


「……え?」


「莉々香さんが、どんな人なのか」


 彼女は俺を見つめた。


 そして、ゆっくりと微笑んだ。


「……本当に変な人ね、悠真くん」


「よく言われます」


「でも……嫌いじゃないわ」


 莉々香は端末へ手を伸ばした。


「いいわ。私、魔法少女になってあげる」


『契約意思を確認』


『魔法少女登録開始』


 眩しい光が店内を満たした。


 白い羽根が舞い上がる。


 莉々香の身体を、金色の光が包み込んだ。


 黒い服が光へ溶け、純白のドレスへと変わっていく。


 肩には金色の装飾。


 腰には大きな白いリボン。


 背中には、透き通るような光の翼。


 そして頭上には、小さな金色の輪が浮かんでいた。


 まるで天使だった。


「……おお」


 俺は思わず見惚れた。


 莉々香は自分の姿を見下ろした。


「あら……」


 そして、にっこり微笑んだ。


「ふふっ。悠真くん、どう?」


「すごく綺麗です」


「まあ♡」


 彼女は楽しそうに胸元へ手を当てた。


「そんなこと言われたら、もっと大胆なことしたくなっちゃう」


 その瞬間。


 ピコン♪


『警告』


『不純な思考を検知』


「……え?」


 莉々香の頭上に文字が浮かび上がった。


『聖属性魔法使用制限:発動』


「…………」


「…………」


 俺たちは顔を見合わせた。


「……何これ?」


 莉々香が呟く。


 端末からポポの声が響いた。


『あっ! 莉々香さんの魔法は聖属性ですね!』


「ポポ!?」


『説明書によると、純粋な心を保つことで最大出力を発揮するそうです!』


「……つまり?」


『えっちなことを考えると、魔法が弱くなります!』


「…………」


 莉々香の笑顔が固まった。


「……え?」


 茜が吹き出した。


「ぷっ……!」


「……ちょっと待って」


 莉々香が震える声で言う。


「私、今、何を考えても駄目なの?」


『不純な思考は制限対象です!』


「……そんな」


 莉々香は両手で顔を覆った。


「私の人生、終わったわ……!」


「大げさすぎるだろ!!」


 怪物が咆哮した。


 莉々香は慌てて顔を上げる。


「あっ、そうだった!」


 彼女は深呼吸した。


「……よし」


 そして、真剣な表情になる。


「今は余計なことを考えない」


 光の翼が大きく広がった。


「――セイクリッド・プリズム!」


 無数の光の槍が現れた。


 それらは怪物の腕を次々と貫き、黒い霧を浄化していく。


「すごい!」


 俺が叫ぶ。


 莉々香は嬉しそうに微笑んだ。


「ふふっ。悠真くんに褒められちゃった♡」


 ピコン♪


『不純な思考を検知』


「また!?」


 光の槍が一斉に消えた。


 茜が叫ぶ。


「戦闘中くらい集中しなさいよ!!」


「だって、悠真くんが褒めるんだもの!」


「俺のせい!?」


 怪物が再び腕を振り上げる。


 そのとき、莉々香の視線が少年へ向いた。


 俺の腕の中で、彼はまだ震えていた。


 莉々香は静かに息を吸った。


「……大丈夫」


 その声には、先ほどまでの冗談めいた響きがなかった。


「お姉ちゃんが、守ってあげる」


 白い光が、彼女の身体から溢れ出した。


 頭上の輪が強く輝く。


『聖属性魔法出力:最大』


 莉々香は両手を前へ伸ばした。


「――ホーリー・エンブレイス!」


 巨大な光の翼が怪物を包み込む。


 黒い霧が浄化され、怪物の身体が崩れ始めた。


「茜ちゃん!」


「分かってる!」


 茜が杖を構えた。


「クリムゾン・ハートブレイク!!」


 真紅の炎が光の中心へ突き刺さる。


 轟音とともに、怪物は消滅した。


 店内に静寂が戻った。


「……終わった?」


 俺が呟く。


 莉々香はゆっくりと振り返った。


 その表情は、どこか安堵しているようだった。


「……よかった」


 彼女は小さく微笑んだ。


「誰も、怪我しなくて」


 そのとき、少年が俺の腕から降りた。


「……お姉ちゃん」


「ん?」


「ありがとう!」


 莉々香は目を見開いた。


 少年は笑顔で続ける。


「天使みたいだった!」


「…………」


 莉々香の瞳が揺れた。


 そして、彼女は膝を折り、少年の頭を優しく撫でた。


「……ありがとう」


 その声は、少しだけ震えていた。


     ◇


 事件が終わったあと。


 俺たちはレストランの外に立っていた。


 幸い、怪物に襲われた客たちは全員無事だった。


 しかし、店内はひどい有様だった。


 割れた窓。


 倒れたテーブル。


 焦げた床。


 そして、真っ黒になった天井。


「…………」


 俺は言葉を失った。


「……これ、誰が弁償するんだ?」


 茜が顔を引きつらせる。


「……私、そんなに燃やした?」


「……まあ、少し」


「少し!?」


 莉々香が笑った。


「ふふっ。派手にやっちゃったわね♡」


「笑い事じゃありません!」


 そのとき、端末からポポの声が響いた。


『ご安心ください! 災厄獣による被害は魔法少女管理局の補償制度で対応します!』


「……本当か?」


『はい! 申請書類が必要ですが!』


「……何枚?」


『三十二枚です!』


「多すぎるだろ!!」


 俺は頭を抱えた。


 せっかく無職になったのに、また事務仕事か。


 しかも、今度は魔法少女のために。


「……佐藤さん」


 茜が申し訳なさそうに俺を見た。


「……ごめん」


「いや、橘さんのせいじゃないよ」


「でも……」


「誰も怪我しなかった。それが一番だろ」


 茜は少しだけ目を丸くした。


 そして、小さく微笑んだ。


「……そうね」


 その隣で、莉々香が俺を見つめていた。


「……悠真くん」


「はい?」


「あなたって、本当に変な人ね」


「……またですか」


「ふふっ。でも、そういうところ……好きよ」


「……え?」


 莉々香は悪戯っぽく笑った。


「ねえ、今度私ともデートしましょう♡」


「えっ!?」


「もちろん、二人きりで」


「ちょっと待ちなさいよ!!」


 茜が勢いよく割って入った。


「何でそうなるんですか!?」


「あら? 私も魔法少女になったんだし、仲良くしないと」


「仲良くする方向が違います!」


「じゃあ、茜ちゃんも一緒に来る?」


「えっ?」


「三人でデートするのも楽しそうじゃない?」


「さ、三人で!?」


 茜の顔が真っ赤になる。


 俺は思わず口を挟んだ。


「いや、まだ誰とも付き合ってないんだけど……」


 その瞬間。


 二人が同時に俺を見た。


「……まだ?」


「……まだ、なのね♡」


「…………」


 しまった。


 何か、とんでもないことを言った気がする。


 莉々香は楽しそうに笑った。


「じゃあ、これから可能性はあるってことよね?」


「え、いや、その……」


 茜が俺の袖を掴んだ。


「……佐藤さん」


「は、はい」


「私との約束、忘れてないでしょうね?」


「約束?」


「また、一緒にご飯に行くって……」


「ああ。もちろん」


「……っ!」


 茜は嬉しそうに目を伏せた。


 莉々香がその様子を見て、柔らかく微笑む。


「……ふふっ。茜ちゃんって、本当に可愛い」


「う、うるさい!」


 俺は二人を見つめながら、深くため息をついた。


 魔法少女、二人。


 採用報酬、合計十万円。


 そして、なぜか急激に複雑になっていく俺の恋愛事情。


 ……これ、本当に仕事なんだよな?


 そのとき、端末が小さく震えた。


『魔法少女登録人数:2/5』


『新たな候補者を検知』


『魔力適合率:99.9%』


「……九十九・九?」


 俺は画面を凝視した。


 すると、さらに文字が表示された。


『警告』


『対象者の魔力特性に異常あり』


『推奨:慎重な接触』


「…………」


 嫌な予感しかしない。


 俺が顔を上げると、茜と莉々香が同時に首を傾げた。


「どうしたの?」


「何かあったの、悠真くん?」


 俺は空を見上げた。


 秋の青空は、何事もなかったかのように澄み渡っている。


 ……神様。


 俺、ただ普通に働いて、普通に暮らしたかっただけなんですけど。


 どうしてこうなったんでしょうか。


 その問いに答えてくれる者は、もちろん誰もいなかった。


 ただ一つ、確かなことがある。


 俺の平穏な日常は、もう二度と戻ってこないらしい。


 そして次に出会う少女が、俺たちの常識を根底から覆すことになるなんて――。


 このときの俺は、まだ知る由もなかった。

この章を楽しんでいただけたなら、ぜひご感想をお聞かせください。


コメント、評価、または単に章を読んで感じたことなど、何でも構いません。


読んでいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
 ジャクロの精霊さん、こんにちは。 「無職の俺が魔法少女を増やしたら、全員俺の彼女になった件 ツンデレ魔法少女と初デート!? そこに現れた変態お姉さん」拝読致しました。  初めての初デート。  カ…
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