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無職の俺が魔法少女を増やしたら、全員俺の彼女になった件  作者: ジャクロの精霊


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1/4

無職歴三か月の俺、魔法少女の採用担当になりました

 就職活動、四十七社目。


 結果、不採用。


 これで十三回目の面接落ちだ。


「……俺って、そんなに必要ない人間なのか?」


 スマートフォンに届いたメールを見つめながら、俺は駅前のベンチで深いため息をついた。


 画面には、もう見慣れてしまった文章が表示されている。


『慎重に選考を重ねました結果、誠に残念ながら、今回はご希望に添いかねる結果となりました』


 丁寧な文章だ。


 丁寧すぎて、逆に心に刺さる。


「せめて一回くらい『惜しかったです』って書いてくれないかな……」


 もちろん、そんなことを書いてくれる会社はない。


 俺の名前は佐藤悠真。


 二十五歳。


 独身。


 彼女なし。


 そして現在、無職歴三か月。


 以前は小さな会社で事務員として働いていた。


 書類整理、電話対応、経費精算、備品管理。


 地味な仕事だったが、嫌いではなかった。


 給料は高くなかったし、残業もあった。それでも、毎月決まった日に給料が振り込まれ、休日には好きな漫画を読める。


 そんな普通の生活が、俺は結構好きだった。


 だが三か月前。


 会社の経営状態が悪化し、ついに事業を続けられなくなった。


 社長は従業員全員を集め、何度も頭を下げた。


『本当に申し訳ない』


 あのときの社長の顔は、今でも覚えている。


 怒る気にはなれなかった。


 俺たちより、社長のほうが泣きそうだったからだ。


 こうして俺は、人生で初めて無職になった。


 もちろん、失業給付の手続きもした。


 だが、それだけで将来の不安が消えるわけではない。


 家賃、光熱費、食費、健康保険料。


 働いていたころは当たり前のように払っていたものが、今では一つひとつ重く感じられる。


 最初の一か月は、まだ余裕があった。


 二か月目には、少し焦り始めた。


 そして三か月目。


 スーパーで卵の値段を見比べるのが、俺の日課になっていた。


「……はあ」


 俺はスマートフォンをポケットにしまった。


 秋の風が、薄いジャケットの隙間から入り込んでくる。


 駅前ではスーツ姿の会社員たちが行き交っていた。


 誰もが忙しそうだ。


 少し前まで、俺もあの中にいた。


「……仕事、欲しいな」


 心の底から呟いた。


 別に、大金持ちになりたいわけじゃない。


 高級車も豪邸もいらない。


 毎月ちゃんと給料をもらって、好きなものを食べて、たまには誰かと映画でも観に行ければ、それで十分だ。


 ……まあ。


「彼女くらいは、欲しいけど」


 そこだけは、少し贅沢な願いかもしれない。


     ◇


「いらっしゃいませ!」


 駅前から十分ほど歩いたところに、小さな喫茶店がある。


『喫茶こもれび』


 木製の看板と、窓辺に並んだ小さな花鉢が目印の店だ。


 俺が会社員だったころ、よく朝食を買いに寄っていた。


 今でも就職活動の帰りに、ときどき立ち寄っている。


 扉を開けると、コーヒーの香りが鼻をくすぐった。


「あっ」


 カウンターの向こうから、聞き慣れた声がした。


「佐藤さん!」


 赤茶色の髪を高い位置で結んだ女性が、こちらを見ていた。


 橘茜。


 二十二歳。


 この店で働く店員で、俺とはもう二年ほどの顔見知りだ。


 ぱっちりとした琥珀色の瞳に、整った顔立ち。


 白いシャツに黒いベスト、腰には深緑色のエプロンを巻いている。


 接客中は笑顔を見せることも多いが、俺に対してはなぜか少し口が悪い。


「……また来たの?」


「客に向かってその言い方はないだろ」


「べ、別に悪い意味じゃないわよ!」


 茜は慌てて首を振った。


「今日は面接だったんでしょ?」


「ああ」


「……どうだった?」


「見事に落ちました」


「…………」


 彼女の表情が曇った。


「……そっか」


「まあ、次があるさ」


 俺はできるだけ明るく笑った。


 すると茜は、何か言いたそうに唇を動かした。


 しかし結局、何も言わずにメニューを差し出してきた。


「……今日は何にする?」


「ブレンドコーヒーだけで」


「……また?」


「また」


「ちゃんとご飯食べてる?」


「食べてるよ」


「本当に?」


「昨日はカップ麺を食べた」


「それ、ご飯って言わないから!」


「厳しいなあ」


 茜は頬を膨らませた。


 そして、カウンターの奥へ引っ込んでいく。


 しばらくして、コーヒーと一緒に小さなサンドイッチが運ばれてきた。


「……あれ?」


「何?」


「俺、サンドイッチ頼んでないけど」


「……試作品」


「試作品?」


「そう! 新しいメニューの試作品!」


 茜は早口で続けた。


「ちょうど感想が欲しかったの! だから食べて!」


「でも、これ……」


「お金はいらないから!」


 俺が何か言う前に、茜は顔を背けた。


「べ、別に佐藤さんが心配だからじゃないんだからね!」


「……まだ何も言ってないけど」


「うるさい!」


 その反応がおかしくて、俺は思わず笑ってしまった。


「ありがとう、橘さん」


「……っ」


 茜は一瞬だけ固まった。


「……べ、別に」


 そう言い残して、彼女はカウンターの奥へ逃げるように戻っていった。


 ……本当に不思議な子だ。


 俺はサンドイッチを一口食べた。


 ふわふわの卵に、ほどよい塩味。


 パンも柔らかくて、思わず頬が緩む。


「……うまい」


 すると、奥から小さな声が聞こえた。


「……よかった」


 顔を上げると、茜が慌てて背を向けた。


 俺は気づかないふりをして、もう一口食べた。


 そういえば、会社員だったころも似たようなことがあった。


 残業で疲れていた朝、彼女がコーヒーを少し大きなサイズにしてくれたこと。


 雨の日に、店の傘を貸してくれたこと。


 誕生日だと何気なく話した翌日、小さな焼き菓子をくれたこと。


 どれも、俺にとってはありがたい思い出だ。


 ……まあ、接客の一環なのだろう。


 俺みたいな男に特別な感情を持つ理由なんて、ないだろうし。


 そう思っていた。


     ◇


 午後五時。


 俺は近所の公園のベンチに座っていた。


 手元には、スーパーで買った割引おにぎりが一つ。


 夕焼けに染まった空を見上げながら、今日の面接を思い返す。


『佐藤さんは、今後どのようなキャリアをお考えですか?』


 面接官の質問に、俺は立派なことを答えた。


 会社に貢献したい。


 長く働きたい。


 経験を活かしたい。


 全部、本当の気持ちだった。


 でも、本音を一つだけ言っていいなら。


「……とにかく働きたい」


 俺はおにぎりの包装を剥がした。


「普通に働いて、普通に暮らして……できれば可愛い彼女が欲しい」


 言ってから、少し恥ずかしくなった。


「……いや、まず就職だな」


 そのときだった。


「――そこの人間さん!!」


 頭上から、甲高い声が響いた。


「……ん?」


「そこの、人生に絶望している人間さん!!」


「人違いです」


「絶望してるじゃないですか!!」


 次の瞬間。


 ドゴッ!


「ぐはっ!?」


 何かが俺の額に激突した。


 衝撃でベンチから転げ落ちる。


 手に持っていたおにぎりが、宙を舞った。


「あああああっ!! 俺の夕飯!!」


 おにぎりは無情にも地面へ落下した。


 俺は膝をついた。


 ……今日、二度目の絶望だった。


「いたたた……着地失敗です……」


 目の前で、小さな声がした。


 顔を上げる。


 そこにいたのは、白くて丸い奇妙な生き物だった。


 大きさは手のひらほど。


 ウサギのような長い耳。


 背中には透明な羽。


 そして、なぜか赤いネクタイを締めている。


 小さな革鞄まで持っていた。


「……何だ、お前」


「妖精です!」


「……」


「妖精です!!」


「二回言わなくても聞こえてる」


 白い生き物は胸を張った。


「初めまして! 私は魔法少女管理局・人材育成課所属の妖精、ポポです!」


「……はあ」


「あなたをスカウトしに来ました!」


「……宗教なら間に合ってます」


「宗教じゃありません!」


「保険も入ってます」


「保険でもありません!」


「借金の保証人にはならないぞ」


「人間不信すぎません!?」


 ポポは頭を抱えた。


 俺は立ち上がり、服についた土を払った。


「悪いけど、俺は忙しいんだ」


「えっ? でも、無職ですよね?」


「無職だって忙しいんだよ!」


「そうなんですか!?」


「就職活動とか、面接とか、家計の計算とか!」


「……なるほど」


 ポポは真剣な顔で頷いた。


 そして、突然涙を浮かべた。


「……実は、私もなんです」


「……ん?」


「私も、仕事を失いそうなんですうううっ!!」


「……は?」


 ポポは革鞄から一枚の書類を取り出した。


 そこには、赤い文字でこう書かれていた。


『最終業務改善通知』


「今月中に魔法少女を五人採用できなかったら、契約更新なしって言われたんです!」


「……」


「三か月も成果ゼロで……」


「……」


「上司には『次こそ結果を出せ』って……」


「……お前もか」


 俺はゆっくりとポポの肩に手を置いた。


「……分かるぞ」


「人間さん……!」


「仕事を失うのって、つらいよな」


「つらいですううう!」


「頑張っても結果が出ないし」


「そうなんですううう!」


「面接官も上司も、容赦ないし」


「本当にそうなんですううう!」


 気がつけば、俺たちは夕暮れの公園で抱き合って泣いていた。


 通りすがりの小学生が、こちらを指さした。


「ママー、あのお兄ちゃん、ぬいぐるみと泣いてる」


「見ちゃ駄目よ」


 ……聞こえてるぞ。


 しばらくして、ポポは涙を拭った。


「そこでお願いです!」


「……何だ?」


「私と一緒に魔法少女を探してください!」


「断る」


「早い!?」


「俺は普通の仕事を探してるんだ」


「でも、報酬はありますよ?」


「……報酬?」


 俺の耳が、ぴくりと動いた気がした。


「はい!」


「……いくら?」


「魔法少女を一人正式採用するごとに、五万円です!」


「……五万円?」


「はい!」


「五人なら?」


「二十五万円です!」


 俺は静かにベンチへ座り直した。


「……詳しく聞こうか」


「切り替え早すぎません!?」


     ◇


 ポポの説明によると、この世界には人間の負の感情から生まれる『災厄獣』という怪物が存在するらしい。


 普通の人間には見えないことも多く、魔法少女だけが対抗できる。


 しかし近年、魔法少女の志願者は減少しているという。


「昔は人気のお仕事だったんですけど……」


「なんで減ったんだ?」


「危険な任務が多いとか、衣装が恥ずかしいとか、恋愛禁止だと思われているとか……」


「……ブラック企業じゃないか?」


「違います! 恋愛は禁止されてません!」


「ほかは否定しないんだな」


 ポポは咳払いをした。


「と、とにかく! あなたには適性のある女性を探して、魔法少女になってもらうお手伝いをしてほしいんです!」


「……女性って、何歳くらいまで?」


「年齢より適性と本人の意思が重要です!」


「じゃあ、二十歳を超えてても魔法少女なのか?」


「もちろんです!」


「……少女とは?」


「職業名です!!」


「便利な言葉だな!?」


 ポポは鞄から銀色の小さな端末を取り出した。


 中央には桃色の宝石が埋め込まれている。


「これは『マギカル・レジスター』。適性のある女性が自分の意思で契約すると、魔法少女としての力を授けることができます」


「……俺も魔法を使えるようになるのか?」


「なりません」


「少しくらいは?」


「一切なりません」


「空を飛んだり?」


「無理です」


「ビームとか?」


「出ません」


「じゃあ俺、何するの?」


「採用担当です!」


「命懸けの人事部かよ!!」


 ポポは誇らしげに端末を差し出した。


「さあ! これであなたも魔法少女プロデューサーです!」


「その肩書き、履歴書に書けるのか……?」


 俺が端末を受け取った、その瞬間だった。


 ピピピピピッ!


『警告。災厄獣反応を検知』


「……え?」


 ポポの顔から血の気が引いた。


「う、嘘……こんなところに!?」


 公園の向こう側。


 夕暮れの空が、不自然に歪んでいた。


 黒い煙のようなものが渦を巻き、そこから巨大な腕が伸びてくる。


 続いて現れたのは、三メートルほどの怪物だった。


 全身が黒い泥に覆われ、顔には笑っているような亀裂がある。


 周囲の人々が悲鳴を上げた。


「きゃああああっ!」


「なんだ、あれ!?」


 子供たちが逃げ出す。


 怪物が遊具を踏み潰した。


 金属の軋む音が、公園に響き渡る。


「悠真さん! 逃げてください!」


「言われなくても逃げるわ!!」


 俺は全力で走り出した。


 だが、そのとき。


「――ちょっと! 危ないでしょ!」


 聞き覚えのある声がした。


 振り返ると、公園の入り口に一人の女性が立っていた。


 赤茶色の長い髪。


 白いブラウスに紺色のカーディガン。


 膝丈の黒いスカート。


 肩には小さなショルダーバッグ。


 ……橘茜だった。


「……橘さん!?」


「佐藤さん!? 何してるのよ、こんなところで!」


「それはこっちの台詞だ!」


「仕事帰りよ! 見れば分かるでしょ!」


「いや、後ろ!!」


「後ろ?」


 茜が振り返る。


 怪物が、彼女の目の前に立っていた。


「…………」


「…………」


 数秒の沈黙。


 そして。


「ぎゃああああああっ!?」


 茜は全力で逃げ出した。


「何よあれ!? 何なのよあれ!?」


「怪物だよ!!」


「見れば分かるわよ!!」


「じゃあ聞くな!!」


 俺たちは並んで走った。


 しかし怪物は、長い腕を伸ばして進路を塞いだ。


 ドゴォン!


 目の前の地面が砕ける。


「きゃっ!」


 茜が転びそうになる。


 俺は咄嗟に彼女の腕を掴んだ。


「こっち!」


 遊具の陰へ引っ張り込む。


 心臓がうるさいほど鳴っていた。


 怖い。


 当たり前だ。


 俺はただの無職で、喧嘩だって強くない。


 目の前の怪物に勝てるわけがない。


 それでも、隣で震えている茜を置いて逃げることだけはできなかった。


「……佐藤さん」


「何?」


「手……」


「あっ、ごめん!」


 慌てて離そうとすると、茜が逆に俺の袖を掴んだ。


「べ、別に離せとは言ってないでしょ!」


「どっちだよ!?」


 そのとき、ポポが俺の肩に飛び乗った。


「悠真さん! その女性です!」


「何が!?」


「魔法少女の適性があります!」


「……は?」


 ポポは端末を指さした。


 画面には大きく表示されていた。


『適性者発見:橘茜』


『魔力適合率:98.7%』


「すごい! こんな高い数値、初めて見ました!」


「喜んでる場合か!?」


 茜がポポを見て、目を丸くした。


「……え? 何そのしゃべるウサギ」


「妖精です!」


「ウサギがしゃべった!?」


「だから妖精ですってば!!」


 怪物の足音が近づいてくる。


 俺は端末を握りしめた。


「橘さん! 頼みがある!」


「何よ!?」


「魔法少女になってくれ!」


「…………は?」


「魔法少女!」


「……頭打ったの?」


「俺もそう思う!」


 茜は俺を睨んだ。


「こんなときに冗談言わないでよ!」


「冗談じゃない! この端末で変身できるらしいんだ!」


「らしいって何よ!?」


「俺も今日初めて知ったんだよ!」


 怪物が遊具を掴んだ。


 金属が折れる音がする。


 茜の顔が青ざめた。


 俺は彼女の目を見た。


「……怖いよな」


「当たり前でしょ……」


「俺も怖い。正直、今すぐ逃げたい」


「だったら……」


「でも、あいつを止められる可能性があるなら、頼みたい」


 俺は端末を差し出した。


「無理にとは言わない。嫌なら一緒に逃げよう」


 茜は黙って俺を見つめていた。


 その琥珀色の瞳が、ほんの少し揺れる。


「……本当に、私にできるの?」


「分からない」


「そこはできるって言いなさいよ!」


「嘘ついてどうするんだよ!」


「もうっ……!」


 茜は唇を噛んだ。


 そして、小さく息を吸う。


「……分かったわよ」


「え?」


「やってあげるって言ってるの!」


 彼女は端末に手を伸ばした。


「勘違いしないでよね! あんたのためじゃないんだから!」


「うん」


「ここにいる人たちを助けたいだけ!」


「分かってる」


「それに……」


 茜は少しだけ頬を赤くした。


「……あんたが怪我するのも、寝覚めが悪いし」


 端末が光り輝いた。


『契約意思を確認』


『魔法少女登録開始』


 桃色の宝石から、真紅の光が溢れ出す。


 茜の足元に巨大な魔法陣が展開された。


 赤いリボンが光となって舞い上がり、彼女の身体を包み込む。


 白いブラウスは、金色の装飾が施された赤いドレスへ。


 黒いスカートは、何層ものフリルを重ねた戦闘衣装へ。


 足元には白いロングブーツが現れ、髪を結んでいたリボンは炎のように輝く大きな飾りへと変化した。


 最後に、彼女の右手へ真紅の杖が降りてきた。


 その先端には、燃え盛るハート形の宝石。


 眩しい光が収まる。


 そこに立っていたのは――


「…………」


 赤いドレスを纏った、美しい魔法少女だった。


「……すげえ」


 思わず呟く。


 茜は自分の姿を見下ろした。


「……」


 スカートを摘まむ。


 杖を眺める。


 そして。


「な……」


「橘さん?」


「なんなのよ、この格好ぉぉぉぉっ!!」


 公園中に絶叫が響き渡った。


「フリフリじゃない! リボンまで付いてるじゃない! 私、二十二歳よ!?」


「似合ってると思うけど」


「っ!?」


 茜の顔が一瞬で真っ赤になった。


「な、な、何言ってんのよ!?」


「いや、本当に」


「ばっ……ばかっ!!」


 その瞬間。


 ボォォォォッ!!


 杖の先端から巨大な火柱が噴き出した。


「うわああああっ!?」


 炎は怪物の横を通り過ぎ、公園の噴水を直撃した。


 水蒸気が爆発的に広がる。


「な、何これ!?」


 ポポが興奮して叫んだ。


「すごいです! 感情に反応して魔力が増幅しています!」


「つまり!?」


「照れたり怒ったりすると、炎が強くなるんです!」


「最悪の組み合わせじゃねえか!!」


 怪物が咆哮した。


 黒い腕が振り下ろされる。


「橘さん、危ない!」


「分かってるわよ!」


 茜は杖を構えた。


 しかし、何をすればいいのか分からないらしい。


「ちょっと! どうやって攻撃するの!?」


「ポポ!」


「魔法名を叫んでください!」


「魔法名!?」


「心に浮かんだ言葉で大丈夫です!」


 茜は目を閉じた。


 杖の宝石が赤く輝く。


 そして、彼女は叫んだ。


「――クリムゾン・ハートブレイク!!」


 真紅の炎が巨大なハートの形となって飛び出した。


 怪物の胸を貫く。


 轟音。


 衝撃波。


 そして、爆発。


 黒い巨体は光の粒となって崩れ落ちた。


 公園に静寂が戻る。


「…………」


「…………」


 俺は口を開けたまま、茜を見つめた。


「……勝った?」


「……勝った、みたいね」


 ポポが歓声を上げる。


「やりましたあああ! 初採用! 初討伐! 私、クビにならずに済みますうう!」


「いや、まだ四人必要だろ」


「……あ」


「忘れてたのかよ!」


 俺は端末を確認した。


『魔法少女登録完了』


『登録人数:1/5』


『採用報酬:50,000円』


「……五万円」


 思わず呟く。


「五万円だ……!」


 今日、面接に落ちた。


 夕飯のおにぎりも失った。


 なのに、五万円を手に入れた。


 人生、何が起こるか分からない。


 ……もっとも、これは普通の仕事とは言い難いが。


 そう思っていると、茜が近づいてきた。


「……ねえ、佐藤さん」


「ん?」


「さっきのことなんだけど」


「さっき?」


 彼女は杖を両手で握りしめた。


 顔が赤い。


「……似合ってるって、言ったでしょ」


「ああ」


「……本当に?」


「うん。すごく似合ってる」


「…………っ」


 茜は俯いた。


 耳まで真っ赤だった。


「……ばか」


「え?」


「なんでもないっ!」


 彼女は勢いよく背を向けた。


 その直後。


 ピコン♪


 端末が、可愛らしい音を立てた。


『新機能解放』


『魔法少女の好感度を測定できます』


「……好感度?」


 画面に茜の名前が表示される。


『橘茜』


『好感度:87/100』


「…………」


 俺は画面を二度見した。


「……八十七?」


 ポポが覗き込む。


「わあ! すごいです!」


「何が?」


「普通、初対面の人間なら十から二十くらいなんですよ!」


「……え?」


「八十七なんて、かなり特別な相手じゃないと出ません!」


 俺はゆっくり茜を見た。


 茜も、ゆっくりこちらを見た。


 視線が合う。


「…………」


「…………」


「……何見てんのよ」


「いや……」


「変なこと考えてないでしょうね?」


「いや、その……」


 俺は端末を隠した。


 だが。


『警告』


 画面が赤く点滅した。


『対象の感情が急上昇しています』


『好感度:91/100』


「上がった!?」


「何がよ!?」


「いや、何でもない!」


『好感度:94/100』


「なんで!?」


「だから何が!?」


 茜が俺に詰め寄る。


 顔が近い。


 長い睫毛も、赤く染まった頬も、はっきり見えた。


 そして。


『好感度:97/100』


 ポポが小さく呟いた。


「……あの、悠真さん」


「何?」


「ひとつ言い忘れていたことがありまして」


「……何だよ」


 ポポは、妙に真剣な顔をした。


「魔法少女の契約には、もうひとつ特殊な性質があるんです」


「特殊な性質?」


「魔法少女は、自分に力を与えてくれた人と強い絆を結びやすくなるんです」


「……絆?」


「もちろん、恋愛感情を強制するものではありません。ただ、その人のことを深く知る機会が増えるというか……」


「……それで?」


 ポポは笑った。


「過去の記録では、担当者と結婚した魔法少女もいるそうですよ!」


「…………」


 俺は茜を見た。


 茜は俺を見た。


 そして彼女は、震える声で言った。


「……ねえ、佐藤さん」


「……はい」


「明日って……暇?」


「……無職なので」


「じゃ、じゃあ……」


 茜は胸の前で指を絡めた。


「……一緒に、ご飯でも……」


 俺の心臓が跳ねた。


 そして、その瞬間。


 ピピピピピッ!!


 端末が再び鳴り響いた。


『新たな魔法少女候補を検知』


『候補者数:7』


「……七?」


 ポポが画面を覗き込んだ。


「えっ!? こんな近くに七人も!?」


 さらに通知が表示される。


『候補者が接近中』


 俺は顔を上げた。


 公園の入り口に、一人の女性が立っていた。


 紫色の長い髪。


 大人びた雰囲気。


 胸元の開いた黒いトップスに、短いジャケットを羽織っている。


 彼女は俺を見るなり、にっこり微笑んだ。


「あらぁ……素敵なお兄さん」


 甘ったるい声。


「ねえ、あなた。今、彼女いる?」


「……え?」


 隣で茜の杖が、ぼうっと燃え上がった。


「…………は?」


 紫髪の女性は、さらに笑みを深めた。


「いないなら、私が立候補しちゃおうかな♡」


 茜の背後に、巨大な炎の魔法陣が現れる。


「……佐藤さん?」


「は、はい」


「……あの女、誰?」


「知りません!!」


 ポポが楽しそうに叫んだ。


「わあ! 早速二人目の候補者です!」


「お前、ちょっと黙れえええええっ!!」


 こうして俺の、魔法少女たちに振り回される日々が始まった。


 ちなみに、このときの俺はまだ知らなかった。


 これから出会う魔法少女たちが、全員とんでもない変人であることも。


 そして――


 彼女たち全員と恋人になる未来が待っていることも。


 もちろん。


 そんな未来を知っていたら、俺は最初にひとつだけ確認していただろう。


 ――デート代って、経費で落ちますか?


 残念ながら、答えはノーだった。


 俺の人生は、まだまだ前途多難らしい。

この章を読んでいただき、本当にありがとうございます!


楽しんでいただけたなら幸いです。もしお時間があれば、コメント欄でご感想をお聞かせいただけると嬉しいです。また、もしこの物語が気に入っていただけたら、星評価をいただけると大変励みになります。


お時間とご支援、本当にありがとうございました!

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 ジャクロの精霊さん、こんにちは。 「無職の俺が魔法少女を増やしたら、全員俺の彼女になった件 無職になった俺、魔法少女を作ることになりました」拝読致しました。  日本では、労働基準法によって、労働…
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