幸せの塊
俺は仕事を終え、
割り箸を持ち、店を閉める。
「この割り箸どないしよ」
俺はつぶやく。
ふと手に巻いている輪ゴムに気が付く。
「そういえば、避難用に買ったウエットティッシュがあったな」
俺は思い出す。
アパートに着き、うがいをし、発泡酒をあける。
「お疲れさん。乾杯」
自分を労う。
玄関の隅でくたっとなっている非常用のリュックサックを取り出す。
なんか痒いな。
リュックに触るとなぜか痒い。
「なんや、構ってやらへんかったから怒ってるんか?」
返事はない。
当然や、無機物やもんな。
「こいつも百年くらい経つと妖怪になるんか?」
「でもあれやな。百年経って妖怪になるんやったら、美術館とか博物館とか、お化け屋敷になるわな。古いモノばっかりやもん」
一人呟く。
(くしゅん)
「あぁこれ花粉とかハウスダストとかやな」
俺はマスクをかけ、窓を開ける。
湿った空気と共に、下水道のニオイが微かにする。
「なんで下水道のニオイやねん。なんかこうフローラルの香りとかないんかい」
「まぁでも俺、柔軟剤のニオイとか苦手やからな。くしゃみ出んねん」
「どうでもええわ。俺なんか年中たこ焼きのニオイぶら下げとるもんな」
リュックを窓際に運び、手ではたく。
手が若干紅くなる。
三分ほどはたくと、かゆい感じは取れた。
俺はリュックの中身を取り出す。
カップラーメン
ビスケット
乾パン
水
缶詰
Tシャツ
パンツ
単一電池
単三電池
懐中電灯
携帯ラジオ
救急グッズ
ウエットティッシュ
テレホンカード
「えっと賞味期限は?」
「なに? 全部賞味期限過ぎとるやん。どうすんねん。いや、もったいな」
俺は賞味期限について調べ出す。
なんや。
味が落ちるだけで、食べられるもの多いやん。
俺は賞味期限の切れた食べ物類を全部取り出し、
写真を撮った。
「これで、明日これと同じのを買いにいけばええわな」
「とりあえず、しばらく飯はこれにしとこか」
俺は乾パンと缶詰を開ける。
発泡酒で乾パンと缶詰をアテにする。
「案外いけてるやん」
腹が膨れたので、
今度はウエットティッシュを確認する。
なんか異常に軽い。
俺はウエットティッシュを開けてみる。
乾燥して使い物にならない状況だった。
「これ乾燥するねんな。これも定期的に交換しとかんとあかんな」
俺はゴミ箱に乾いたウエットティッシュを捨てようとする。
「オイラはまだ使えるで」
ウエットティッシュから声が聞こえる。
俺、飲みすぎたんか……。
「オイラ乾いててもホコリは取れるからな」
ウエットティッシュから声が聞こえる。
いささか奇妙にも感じたが、
もらった割り箸の先に乾いたウエットティッシュをつけ、輪ゴムでしばる。
「ほんまは濡れた状態で掃除しよと思ってたけど、これでもええやろ」
そう呟き、
俺は隅の掃除を始める。
狭い部屋ながら、案外ホコリは溜まっていた。
結局、部屋全体を掃除するのに、乾いたウエットティッシュをすべて使い切った。
「ありがとな。オイラ燃え尽きちまったぜ」
そんな声が聞こえた。
ウエットティッシュも割り箸も、輪ゴムも満足そうやった。
「ありがとうな」
俺はゴミ箱の中の彼らに敬礼をした。
俺は懐中電灯がつくかどうか確認する。
電池はあるようだ。
しかし付かない。
「あれ。あかんやん。電池切れや」
俺は懐中電灯の中をあける。
何か様子がおかしい。
緑青のような色がしている。
「なんやこれ」
俺は検索をかける。
液漏れ。
長時間、電池を入れっぱなしにしていると、乾電池の液が漏れる。
「ちょっと待て、なんなん液漏れって。乾電池、乾いてないやん」
俺はツッコミを入れる。
しかし、これ使われへんのか。
残念やな。
俺は懐中電灯の写真を撮る。
俺はふと気が付く。
この懐中電灯は単三電池や。
単一電池なんか、どこで使ってんねん。
俺は部屋中の家電製品を開けて確認した。
どれも単三電池だった。
「君はなんでここにおるんや」
俺は声をかける。
返事は返ってこない。
「電池にも栄枯盛衰ってあるんやな」
俺は単一電池の事を考える。
そういえば、昔は懐中電灯と言えば、単一電池やった。
それがLED電球に替わり、単一から単三に変わった。
時代は代わっても、行動がそれに追いつかないから、
単一を買ったんやろな。
そう思った。
「ちょっと待てよ。ダブルカセットデッキ。あれ単一やったんちゃうか?」
俺は店で使えればと、電池をスーパーの袋に入れた。
……
思っていた通り、
店のカセットデッキに、電池は使えた。
なんかちょっと嬉しかった。
しばらくの間、
避難用の食料を食った。
店での話題にした。
それええな。
と周りが真似をし始めた。
たこ焼き屋というのは、
仕入れが均一化されているし、
最終、自分が食って消費するから、
フードロスは少ない。
最悪、冷凍しておけば、たこ焼きだけ食うでも良い。
でもやっぱりフードロスは減らしたいという気持ちが、
どっかにあった。
その気持ちが満足できた。
液漏れはモッタイナイ事をしたと思ったが、
うちにある電池類は、よく使うもの以外、全部抜いておいた。
懐中電灯は写真を撮って、常連に見せておいた。
「お前賢いな」
と周りが真似を始めた。
すると、商店街のあんまり話したことのない人から、声がかかるようになった。
「電池の話聞いたで。うちも何個かやられとったわ。被害が広がる前でよかったわ、ありがとう」
そんな風に言って、たこ焼きを買ってくれた。
別に見返りなんか求めてない。
ただ皆に損をして欲しくなかっただけ。
そんな気分で言うただけやのに。
輪が広がった。
些細な幸せが集ったら、
幸せの塊になるんちゃうか。
そんな風に思えた。
俺はリュックを開け、
確認した。
賞味期限切れが見つかった。
食べられることを知った。
そして食べた。ほんまに食えた。
周りに教えた。
周りも賞味期限切れのものを見つけた。
周りも食った。
食べられることがわかった。
ちょっと得をした。
液漏れが見つかった。
注意喚起をした。
電池を外した。
損をする人が減った。
周りが得をした。
その得が縁という形で戻ってきた。




