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テレホンカード

俺は店でテレホンカードを見ていた。

なんか非常用袋に十枚も入ってた。

どれも多少使用しているカード。

換金もできない。


だいたいテレホンカードなんて、

公衆電話自体ないやんけ。

そう思った。


「六九、なにしてんの?」

青ちゃんや。

今日も全身青の服や。


「今日もブルーで決まっとるのぉ」


「それ何してるん?」


「あぁこれな、テレホンカードやねん」


「テレホンカードって、スマホみたいなもの?エライ薄いな」


「いや。これな。公衆電話あるやろ。あれで電話かけるカードや」


「めっちゃレトロやん」


「そうやな。レトロやな」


「その公衆電話ってどこにあるの?」


「どこにあったやろ。そうや、あそこの文具屋の前にあったわ」


「なぁ、そのテレホンカード使わせてよ」


「ええけど。どうするん?」


「私が文具屋行くやろ。それでな、六九にテレホンカードで電話すんねん」


「あぁええよ。これ使い」

俺はテレホンカードを渡す。


「あんたの番号しらへんねん」


「あぁじゃあ。電話番号をカードに書いとくわ」

俺はマジックで書く。


「ありがとう。じゃあ行ってくるわ」

青ちゃんは文具屋に向かう。

そしてすぐに帰ってきた。


「速かったな。電話かけたか?」


「六九のアホ。テレホンカードに番号書いても、電話に吸い込まれるやん。私覚えてないから、かけられへんかったわ」


「あぁほんまやな。すまんすまん。こっちの紙に書くわ」


「じゃあ。行ってくるから出てな」


三分後、電話が鳴る。

だれや。着信がだれかわからん。気持ち悪いな。ほっとこ。

ってあかんあかん。

青ちゃんや。


「はいよ」


「六九?」


「そうやで。青ちゃんか」


「うん。私初めて公衆電話した」


「そうか。よかったな」


「あんたが、初めての男や」


「そそうか。なんか響きがエッチやな」


「はつたいけん」


「何を言ってんねん」


「きゃはは」


「満足したか。ほな戻ってきいな」


「え~もっと話してたい」


「そうか、何話すんや」


「そうやな。うわ残高が減った。昔の人って、この残高減るん見ながら電話してたん?」


「そうやで。なんか切ないやろ」


「そうやな。なんか私、キャバのお客さんの気分やわ」


「どういうことや」


「なんかな。お客さんが言うててん。

店に来る前にATM行ってお金下ろす。

そして財布見るやろ。いっぱい入っとる。

それで店にきて、ドリンク注文したり、延長したりで、酔いながらも頭の中でお金の計算するねんて。

お金が減るたびに、もう青ちゃんとはこれだけしか時間がないねんな。

そう思うのが切ないって」


「たしかにな。テレホンカードも似たもんかもしれんな」


「こんな気持ちを持ちながら、私に会いに来てくれてんねんな。

そう思うと、私も罪な女やでと思うわ」


「そうか。そうやな」


「ぷぷぷー」

電話が途切れる音がした。

テレホンカードがきれたみたいやな。


三分ほどして青ちゃんが戻ってきた。


「これ。ありがとう。なんか人生を知った感じがする」

青ちゃんは、テレホンカードを手渡す。


「これいらんか?記念に」


「いいわ。過去はひきずらん女やねん」


「記念にとか、取っておかへんの?」


「うちらは水商売やん。水商売は流れる商売やねん。過去をひきずっとったら、流れが悪くなる。だから記念品なんか、さっさと使って、流すねん」


「そんなんいうても、お客さんにプレゼントせがむやろ」


「そりゃせがむよ。でもそのプレゼントを持っておくのも、客が続く間だけやで。客が去ったら、さっさと質屋に売りに出すわ」


「そうなんか?」


「そりゃそうやで。だって身につけられるモノには限りがあるやん。今の客がくれたモノを身につけとかんと。今の客かて、寂しいやん」


「よう考えてるんやな」


「……なぁ。そのテレホンカード。譲ってくれへん。お金払うから」


「ええけど。なにするの?」


「お客さんにな。そのテレホンカードで電話したろかなと思って」


「なんでなん」


「なんかよくわからんけど、テレホンカードプレイ?」


「ほんまにようわからんな。まぁええよ。いくら出してくれるん」


「それいらんカードやろ」


「そうやな」


「額面の半額でどう?」


「おおええよ。ただ一枚だけ置いとくわ。非常用に」


「ありがとう」


俺は額面を計算しだす。


「正確にはわからんから。ざっとでええな。損はせえへんから」


「ええよ」


「全部で三千円分やから、千五百円な」


「はいコレ。あとたこ焼きも」


「はいよ」

俺はいつものようにたこ焼きを青ちゃんに渡した。


「なぁ六九」


「なんや」


「このテレホンカードにもあんたの思い出あるんちゃう?好きな子とかの」


「あぁそういえばあったな」


「私に売って良かったん?」


「うちは水商売やんか。水商売つーのは流れる商売やねん。過去をひきずっとったら、流れが悪くなる。だから、さっさと売って、流すねん」


「なんや。私の真似やん」


「そうや。今日から使わせて貰うわ」

俺は笑った。


青ちゃんは、振り返らず、帰っていった。


……

俺は青ちゃんから、受け取ったテレホンカード代千五百円を見つめていた。


飯代に使うか。

貯金するか。

そう思ったら、

ふとギターの事を思い出した。

たしかギターをかけられるギターハンガーかなんかあったな。


そう思いフリマアプリを見る。

送料込み千三百八十円で二個入りのギターハンガーが売っていた。

家に一つ置いて、

店にも一つ置くとええんちゃう。

そう思い落札する。


数日後。

ギターハンガーが届き、

俺は店にギターを置くスペースを作り、

暇な時にギターを弾くようになった。


「六九。ギターまた弾くようになったん?」

青ちゃんだ。


「あぁ。あのテレホンカードの千五百円で、このギターハンガーを買ってな。

ギターも飾るだけやったら、もったいないからたまに弾いてんねん」


「あんたはたこ焼きのピックより、ギターのピックのほうが似合っとるわ」


「そうか。今はただのおっさんやで」


「おっさんやけど、カッコいいわ」


「惚れるなよ」


「そりゃ無理やわ」

青ちゃんは笑った。


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