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スクレイパー

沈黙が走る。


「すみません」

二人は頭を下げた。


「保険屋さんかいな?」

俺は尋ねる。


二人は沈黙し、目で合図をかわす。


「はい。〇〇保険です。保険のセールスです。よく来られるのですか?」

男は言った。


「たまにな……。

あのな。別に営業かけてくるのは、ええけどな。

そんなに唐突やと、成績も伸びへんで」


「はぁ」

二人ともきょとんとした顔をしている。


「あのな。君ら二人が入ってきた瞬間な。緊張が走ってん。わかる?」


「緊張ですか……」

男は言う。


「あれちゃう。どう切りだそ。ここも断わられるかな。そんな風に思ってたんちゃうの」


「おっしゃる通りです。なぜそれが」


「だからな。緊張感があってん。俺、最初強盗かと思ったわ」


「そんな。強盗だなんて」

二人は慌てだす。


「いや。別にいいんやけど、もったいないなと思ってな」


「もったいないですか」


「そや。もったいない。ほら君ら、たこ焼き買ったやろ。なんで食べへんの?」


「いえ。セールスが終わったら車で食べようと思ってました」


「あのな。

こっちはな、客商売やねん。できれば美味しく食べて欲しいねん。

それでな。セールスが終わったら、時間がたつやん。ほなたこ焼き冷めてるやん」


二人は頷く。


「それに俺が買わんかったら、たこ焼き美味く感じるか?」


二人はしばし考える。


「微妙な味ですよね」

男は言った。


「せやろ。

これな。俺らにとったらな。たこ焼きは売れてウレシイで。

でも、たこ焼きが冷めるかもしれん。

そこが気になるし、

それに断わったら微妙な味に感じるやろ」


「たしかに、そうですね」


「じゃあな。そこの椅子で、とりあえずたこ焼き食えよ」


「はい。わかりました。食べさせてもらいます」


二人はハフハフ言いながら、たこ焼きを食った。


「大将。これ美味いですね。出汁の味が良い」

男は言った。


「これ、青のり欲しくなりますね」

女は言った。


「つけよか」


女は男の顔を見る。


「いいんですか?」


「あぁ、ええよ。そこに鏡もあるから、それで青のりチェックしたら良いねん」

俺はたこ焼きを受け取り、青のりをかける。


「大将。僕もよくお好み焼きとか焼くんですけど、青のりって、賞味期限中に使い切れませんね」


「そうやろな。うちはすぐになくなるけど、一般家庭やとそうやろな」


「それで、結局途中で捨ててしまうんです」

男は言った。


「私もです」

女も言った。


「あれな。ジップ袋に入れて、冷凍庫とか冷蔵庫に入れてたら、賞味期限過ぎても結構いけるで」


「えっ。そうなんですか?」

女は言った。


「そうそう。結構いけるしな。

あと、チクワに青のり振ってな。食べるやろ。ほんなら天ぷらにしてへんのに、チクワの磯部揚げみたいになるし、おもろいで」


「そうなんですか。やってみます」

女は言った。


「どうや。緊張してるか?」


「そうですね。緊張がほぐれてきました。つーか、セールスのこと忘れてました」

男は言った。


「そやろ。今、俺警戒心ないもん。あんな、セールスって自分を売り込むっていうやろ」


「はい。それは研修で習いました」

男は言った。


「あれな。客の前でな。私はこういうものですとか、アピるわけちゃうねん」


「そう、そうですよね。でもあれ難しいですよね」

男は言った。


「難しく考えるからやねん。雑談でええねん。どうでも良い話で。今の話かて、どうでも良い話やん」


「まぁそうですけど、面白かったですよ」

女は言った。


「せやろ。ちゃんと俺のこと売り込めてるやん」


「ほんまですね。大将、すごい良い人に感じましたもん」

男は目を輝かす。


「良い人ちゃうで、女はずいぶん泣かしたからな」

俺はドヤ顔を決める。


「つーっても、笑わせて、泣かせただけやけどな」

俺は言った。


女はクスクス笑っている。


「大将。これでセールスになんて、どうつなげるんですか?」

男の目は真剣だ。


「そうやな。相手の会話や、店の雰囲気から情報をかき集めんねん」


「情報をかき集める?」

女は目を細める。


「そやな。君らの関係やけど、男の君の方が部下よな」


「なんでわかったんですか?逆に思われることが多いです」

男は言う。


「雰囲気見てたらわかる。ぱっと見、君は年齢が高そうやけど、実は若いやろ。そして新人や。君は少し挙動不審やからな」


男は恥ずかしそうな顔をする。


「それに女性のほうは、若そうに見えるけど、君より年上。もしくは営業成績が上や」


女は頷く。


「それは、そう見えるってことですか?」


「どうやろな。感じる感じかな。

うちら客商売や。

そしてこういう作業は、慣れるとほぼ自動でできるねん。

脳がな。暇になると、目の前の刺激を処理しよんねん」


「目の前の刺激を処理?」

女は首を傾げる。


「そうやな。君が閉鎖的な村の村人やとする。その閉鎖的な村にな。旅人が来た。めっちゃ気にならへん?どんな人かとか」


「気になりますね」

女は答える。


「せやろ。でも逆に、毎日沢山の人が行きかう街に旅人が来た。気になる?」


「気になりませんよね」

女は言った。


「うちは割と人来るんやけど、だいたいが近所の人や。知らん顔が来るのは少ない。そういう時はな。脳がすごい処理するねん」


「なるほど。それでわかったんですか?」

男は言った。


「そうやろな。知らんけど」


「でも、私達って、毎日いろんな所を回ります。全員が違うから、全部が刺激になります」

女は困った顔をした。


「そうやな。それやったら、ジャンル決めて、一周したらどうや?」


「ジャンルを決めて?」

女は俺の目をまっすぐと見る。


「そうや。例えば、たこ焼きとかたい焼きなどの、屋台でも売ってそう系の店を回る。そんな感じ」


「たしかにそれだと、刺激が少なくなるし、店同士の違いがわかりますよね」

女は頷く。


「そやろ。それやったら、会話も広がるんちゃう?」

俺は言った。


「本当ですね。ありがとうございます。もう帰るわよ」

女は男の肩を叩く。


「えっ。でもセールスは?」

男は尋ねる。


「この人に保険はいらないわ。世界を恐怖で見てないもの」

女は言った。


世界を恐怖で見てないーーー

その言葉がやけに引っかかった。


「それで美味かったか?」

俺は尋ねる。


「今までで食った中で一番美味かった最高でした」

男は言った。

「私もです。お世話になりました」

女は深く頭を下げた。


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