自信がないのは自分を愛さなかったから
「六九……、あんたも自信ないんか?」
「あぁ、そうやな。自信ないな」
「そっか……、私と同じやな」
「えっ青ちゃんが? そんなに美人やのに」
「まぁ美人なのは自覚あるけど、自信はないよ」
「そうか……、自信持てよって言っても、説得力ないわな」
「どうやろ」
青ちゃんは唇を少し噛んだ。
「あぁでもな。俺、この取材のこと、さっきまで忘れててん。
でも思い出してな。
その事、噛みしめたら、自信が少し湧いたで」
「良かったことを思い出すってことか……」
「なんかあるやろ」
「思い出されへん」
「さっき俺が、美人やんって言ったやん」
「美人は当たり前やわ」
俺は少しズコっとなりかける。
「それやねん。
あんな美人なんて言われる人、少ないねん。わかる?」
「わかるよ。
キレイな子ばっかりちゃうもん」
「その子からしたら、美人って言われて喜ばへんなんて、腹たつで」
「……ほんまやな。それ腹立つかもしれへん」
「ほら。幸せって失ってから初めて知るっていうやろ。
このことやと思うわ」
「ほんまやわ。じゃあ私めちゃくちゃ幸せやん。男にチヤホヤされるし、美味しいご飯毎日食べれるし、男も選び放題やし。私なんで悩んでるんやろ」
マジ顔で語る青ちゃん。
「そ、そうやろ。青ちゃんなんか、悩む必要ないねん」
「それやったら、六九もやん。たこ焼き作るのウマいし、繁盛してるし、顔も良いし、悩むことないやん」
そう言われると照れくさい。
「……。
そうか。たこ焼き作るのはウマい。ぼちぼち繁盛してる。顔も良いわな。
ほんまや。悩むことなんかないわ」
「じゃあ私達って幸せを無視してただけ?」
青ちゃんは目を見開く。
「そうなんやろな」
俺はふと昔見た映画のことを思い出した。
「昔にな。ある男が無人島に漂着する映画を見たことがある」
「うんうん」
青ちゃんは大きな瞳で、
俺の目をじっと見る。
「それで思ったんが、無人島って店もなければ、人もおらへん。道具類もないねん」
「うんうん」
「それで思った。
店も人も道具も、あるだけで、めっちゃ価値あるって」
「そっか。私、この商店街の店って利用するの六九のところだけやねん。
でもこの商店街がなかったら、六九の店もやっていかれへんもんね」
「そうやな。世界にいらんものなんか何一つないとかいうけど、ホンマかもな」
「うちの店もそうやけど、競争競争で、どんどん人も辞めていくんよ。だから競争に負けたモノはいらんのやってなってたけど、そうじゃないのかもな」
「そうやな。うちら飲食業も競争激しいねん。他の店潰れたらいいのにとか思ったこともあるけど、潰れたら潰れたで街の魅力が下がるし、その空いたスペースにもっと強い敵がくるかもしれんからな」
「そう考えると、皆大事やねんね」
「強い敵とかいうと、ちょっと後ろ向きかもしれへんけど、価値のないものなんてないってのは、大切な考えかもな」
「そんなん言うたら、あれやわ。もうちょっとお客さん大切にしたらんとあかんわって思う」
「そうやな。青ちゃん、いっつもありがとうな」
「なんや。恥ずかしいやん。でもうれしいわ。そういう言葉を待ってたのかもしれへん。
じゃあ今日はもう行くわ。御無沙汰してるお客さんに連絡取ってみる」
「あぁ、ほんならな」
青ちゃんは、たこ焼きを手に少し早歩きで帰っていった。
自信がないのは、自分を愛さなかったからかもしれへんな。
俺はそんなことを考えた。
テレビ取材に来た時、
自分を愛していたら、取材を喜んだだろう。
取材を喜んだら、皆に見てほしいと思い、取材されたと宣伝もしただろう。
でもそうはしなかった。
知る人ぞ知る店で良い。
そんな風に斜めに構えていたかもしれない。
それは自分を大切にしなかったということかもしれない。
そうやって、
自分を評価されない方向に持っていっていたのは、
自分だったのかも。
そう思った。
少しの後悔が頭を流れる。
いいや。
違う。
そうやないやろ。
今までの自分も、
今の自分も、愛するんや。
そうや。“幸せを感じていた”や。
後悔やなく、今の幸せを感じるんや。
このことに気が付ける人なんて少ないはず。
それは、
過去の出来事があってのことやん。
それがなかったら、今の気付きもなかった。
そうや。
今を大切にしよ。
あるモノを大切にしよ。
俺はその言葉を何度も何度も繰り返した。
……
三十分ほどした。
隣のアパートのおばちゃんがやってきた。
「いらっしゃい」
「今日は買いに来たんちゃうねん。こないだ、たこ焼きの試作品くれたやろ。そのお返しや」
そんな気をつかわんでいいのに……。
という言葉が頭に浮かぶ。
あかん、そうやないやろ。
「それは嬉しいな。なに?」
俺は笑顔で覗き込む。
「私の子供がな。
大きい鯛買って、刺身にしたんやけど、アラが残ったからいらんかいうから貰って、アラ煮にしたんや。
上手にできたんやけど、高血圧やん。私。
あんまり塩辛いのは食べられへんから、お返しにあげよかなと思ってな」
「そうかそうか。ちょっと味見してみて良いか?」
「ええよ。ええよ。割りばし貰ったんぎょうさん残っとるから、ちょっと待ってな。取って来るわ」
おばちゃんは俺にアラ煮を渡すと、アパートに戻っていった。
俺は鯛のアラと目を合わす。
「お前も美味いのに、あんまり人気ないんよな」
語りかける。
「ほっとけ。若造」
鯛から声が聞こえた気がした。
「すまん。失礼やったな」
俺は呟いた。
おばちゃんは、
五本ほど割り箸を持ってくる。
スーパー、寿司屋、弁当。
いろんな割り箸があった。
「えらいイッパイ割り箸あるな。店できるで」
「ほら。私、何でも置いとくからな。少しは使いたいねん。こんなチャンス、めったにないからな。使わんと損やわ」
おばちゃんは笑った。
「しかし、あれやな。俺、口一つしかないからな。こんなに割り箸使われへんわ」
「ほんまやね。それ困ったわ」
そう言うてると、喫茶店のマスターがやってきた。
「あれ貼ったんやな。ええ感じやん」
マスターは言った。




