ラミネート加工
「でも、俺プリンターとか持っとらんしな」
「大丈夫。大丈夫。コンビニのプリンターで印刷できるから」
そう言い、
マスターは印刷の方法を教えてくれた。
俺は再び店を閉め、
コンビニへ印刷に向かう。
店員に説明を聞きながら、十分ほどで印刷は終わった。
帰り際、俺は近くの文具屋に顔を出す。
「まいど。ラミネート加工ってできる?」
「あぁロックやんか」
店主は言った。
店主はネズミ色のパーカーに黒いエプロン姿。黒縁のメガネだった。
「これラミネートして欲しいねん」
「これやったら三百万円」
「おぉ。三百円な」
俺は三百円を手渡す。
「ちょっと待ってな。ひさしぶりやからな。ラミネートするのは」
「なんやラミネートって人気ないんか?」
「そんなことないけど、ラミネートって一回したらいらんやろ。たまにポンポンとしか出ぇへんのや」
「そんなもんなんか。てっきり毎日なにがしらラミネートしてるもんやと思てた」
「そりゃ繁盛店やったら、そうかもしらんけどな。
うちの商店街はあんまり活気もないからな。それに新規で店が出ぇへんしな」
(うぃーん)
プラスチックが溶けるような臭いが微かにする。
「ほれできたで。あと少し冷めるまで待ってな」
「おお」
俺はじっとラミネート加工を見つめる。
「なぁ。ラミネート加工って、幸せの瞬間を閉じ込めるんやな」
そう呟いた。
「なんや。お前は詩人か!
まぁでもうまい事言うたな」
「いや。ほんまにそう思うねん。ラミネート加工やったら、色褪せへんやろ」
「いや……、それはないわ。普通に色褪せしよるで」
「えっそうなん」
「そうやそうや。インクに耐光性がなかったら色褪せしよる」
「そういえば、赤色の看板とか、よう色褪せしとるな」
「あれはな。赤は紫外線を多く吸収しやすい色やからやねん。そして紫外線がな。赤色の色素を分解しやすいねん。ちなみに黒もやで」
「なんや。お前すごい賢いな」
「一応文具屋やで、専門知識は勉強しとるわ。お前もたこ焼きの専門知識はあるやろ」
「そうか。そうやな。俺も勉強したもんな」
「お互い精進やな」
「そやな。おおきに。行くわ」
俺は文具屋をあとにした。
俺は街のあちこちを見渡す。
退色した赤と黒の看板ばかりが目に入る。
逆に白い看板は、退色してない。
そうか……。
そういうことがあるんやな。
ラミネート加工で、
幸せが閉じ込められるって思ったけど、
それは退色するからムリやった。
幸せは閉じ込めることができへんのか?
うん。
ちょっと待てよ。
データがあるんやから、
再度プリントアウトして、
ラミネートしたらいいんやわ。
これ音楽もそうやな。
カセットテープ。
何回もダビングしたら、
劣化するけど、
その時の熱は閉じ込めることができる。
それを何度も味わうことができるんや。
俺らたこ焼き屋とは、まるで違うな。
永遠に味わえる音楽。
その刹那で終わるたこ焼き。
この両方を俺は経験したんや。
なんや。
俺すごい恵まれてるやん。
そう思うと、
心の中が暖かくなってきた。
俺はラミネートに封じ込められた
栄光に目をやる。
そうか。
俺認められたんやな。
そう実感する。
二十三歳の時にたこ焼き屋をはじめて、
今年で十年になる。
この取材があった時には、もう認められてたんや。
それがとても誇らしかった。
「俺幸せやったのに、全然感じてなかったわ」
なんか、
その時の幸せに申し訳ない気がしてきた。
ラミネート加工した栄光を抱きしめる。
「ありがとうな」
そう言うと、目が潤んだ。
店の前に着く。
青ちゃんがいた。
「もう。お腹空いた」
青ちゃんは頬を膨らます。
「あぁカンニンカンニン。ちょっとラミネート加工しに行っててん」
俺は青ちゃんに、ラミネートを渡し、たこ焼きに火をつける。
「なにこれ?」
「あぁこれな。昔、冷やしたこ焼きってのをやったときに、テレビが取材に来たんや。その時の番組のやつ」
「へぇ六九ってあんがいやる男なんや」
「はは。スゴイやろ」
「スゴイやろって、六九はスゴイ子やって知ってるよ」
青ちゃんは言う。
俺は何も答えず、カセットテープをかけだす。
「六九……。あんたもう抜けたんやな」
青ちゃんは言った。
「なんや。抜けたって」
「うんうん、なんでもない。でも今日の六九。なんか眩しいわ」
「眩しい。あぁ顔てかっとるんとちゃうか。脂取り紙くれへん」
「ちょっと待ってや。はいコレ」
「ありがとう」
俺は脂取り紙でオデコと鼻の脂を取る。
「これで、てかりは取れたやろ」
「ほんまや。てかりは取れたわ」
青ちゃんは笑った。
「ソース。かつお節有り、マヨネーズ有り、共喰いになるから青のり抜きで良かったな」
俺は尋ねる。
「ようやく覚えよったか。じゃあこれからはいつもので、言っていい?」
「そうやな。特別やで」
「やった」
青ちゃんは子供のような顔をした。
「私な、こんな仕事やんか。だからなんか大切にされるの嬉しいねん」
「こんな仕事?キャバの事か」
「そうや。あんまりイメージ良くないやん」
「そうか?俺は立派な仕事やと思うで」
「でも彼女とかにはしたくないやろ」
「キャバ嬢の彼女か……」
俺は少し想像した。
「恥ずかしいやろ」
「うーん。
どうやろな。
恥ずかしいというより、ヤキモチ妬くかもしれへんな」
「そうなん」
「うん。
なんか自分の好きな女が、他の男としゃべっとったら、なんか良い気はせいへんやん」
「そうか……、
でも例えば私が六九の彼女になったとするやん。
六九もたこ焼き屋に来る人と話したりするやろ。
私がヤキモチ妬くとは思わへんの?」
「でも俺は浮気とかせーへんからな」
「そんなん私も浮気せーへんわ」
「そっか。そうやな。そういうものやな」
「そこやねん」
青ちゃんは頬を膨らませた。
「あれなんかもな。
ヤキモチ妬くのは、自分に自信がないのかもしれへんな」
俺は呟いた。




