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ギターの弦

俺はアパートに帰った。

切れたギターの弦を見ながら、

「ありがとうな」

そう呟いた。

ギターの弦を前にかえたのはいつだっただろう。

そんな事を振り返る。

台所に行き、水をコップに一杯飲む。

ビールの景品についていたガラスコップ。

景品欲しさにビールを買ったが、それ以来そのビールは買っていない。

なんとなくロゴがカッコいいから、

いまだに使っている。


ギターの弦の予備あったかな。

俺は考える。

そうだ。

押し入れの中にあったはず。

俺は押し入れの中を再び探し出す。

ホコリとカビっぽい空気が鼻をつく。

(くしゅん)

俺は窓を開ける。

夜特有のアスファルトと妙な湿っぽい空気が部屋に流れ込む。

俺はマスクを取り出す。

そしてつける。

再び探し出す。

押し入れには俺の人生の残骸が眠っている。

見るたびに、

少し憂鬱になり、見るのを拒んでいた、ある意味の聖域。

いや禁忌の地とでもいうべきか。

この中には俺の黒歴史が詰まっている。

とでもいうべきなのだろうか。

俺が生きてきた痕跡が生々しく、いまだに息を潜めている。


十分ほどで弦は見つかる。

大きめの茶封筒に入って。

俺は弦を取り出す。

弦と共に一枚の便せんが中から飛び出す。

俺は中を読む。


ーーーーー

六九。すまんな。

俺がクスリに手をだしたせいで、お前にまで迷惑かけて。

こんな俺がいうのもなんやけど、お前は才能がある。


つーか。なんか輝きがあんねん。


俺はそれが悔しくて、クスリに手をだした。


いやお前のせいやないで、俺が弱かったんや。


できるならお前の隣でプレイしてたかった。


お前は夢を諦めんといてくれよ。


ピー助

ーーーーー

クスリに手を出したバンドメンバーからの手紙やった。

こんなん。

見たことないで。

俺はそう思う。


記憶が思い出される。


そういえば、ピー助が


「これお詫びってわけじゃないけど、受け取ってくれ。ギターの弦や」


って渡してくれたんやった。


胸の奥から鳩尾にかけて少し痛くなる。


夢を諦めんといてくれよって。

お前が言うなよ。

そう思ったが、

そりゃ言いたくなるよな。

そうも思った。


ピー助はもう出所しとるやろな。

そんな事を思いながら、

ふとスマホを見る。


ピー助の連絡先は消した。

実家も知らん。

だいたい本名じたい知らんかったと。

今更気が付いた。


「なぁピー助。俺バンド諦めへんほうが良かったんか?」

俺はギターの弦に問いかける。


ギターの弦は何も返答してくれなかった。

俺はギターの弦を張り替える。


ギターが心なしか、若さを取り戻したような気がした。


「なんやお前、若返ったんちゃうか?」

軽口を叩くと。


「もともと若いんじゃボケ。年とったんは、お前のほうやろ」

そうギターが言ったような気がした。


俺は昔に録音したカセットテープの事を思い出した。

俺は押し入れの中を再び物色し、カセットテープを探し出す。

紙のラベルに「ドブネズミロックス-ファーストアルバム-慟哭」

そうボールペンで書かれてあった。


ドブネズミロックスは俺のバンド名。

ドブネズミのように強い生命力で、

どんな世界でも生きてやる。

そんな祈りを込めたんだったと思う。


それが、

まったく生命力がねぇじゃないか。

自分自身にツッコミを入れる。


俺はカセットデッキを探す。

赤いボディのダブルカセットプレイヤー。

リサイクルショップで三千円で購入した。

中古のダブルカセットプレイヤー。


ホコリを払い、コンセントをつけ、カセットをかける。


(じー)

十八秒間のノイズのあと。

(ぽんぽんぽん)

マイクを叩く音。


「今日はドブネズミロックスの全国ツアーに来てくれてありがとう」

俺の声がする。


(くぃーん)

ギターの音が入る。


録音風景を思い出す。

スタジオを割り勘で借り、このカセットデッキで録音したんだっけ。


安い録音スタジオで、

全国ツアーだと見栄を張った。


バンドメンバーは、

それでも目がマジだった。


それから四十八分。

俺たちのオリジナル曲が流れた。

どんな曲よりも、たくさん聞いた。

ドブネズミロックス-ファーストアルバム-慟哭。

ずいぶん、

遠くの世界の曲に聞こえた。


「やっぱり、俺らの曲かっけーじゃないか」

俺はそう呟いていた。


俺は新品のカセットテープがなかったか探す。

すると八本のカセットテープが見つかった。

俺は、

カセットテープのダビングを始める。

オリジナルテープを大事にしたいが為に。


翌朝、

俺はチャリにカセットデッキを乗せ、店にゆっくりと向かう。


店で聞きたい。

そう思ったからだ。

店には三十分前につき、

カセットデッキを置くスペースの棚を探す。

油まみれの棚。

俺は洗剤を使い丁寧に拭く。

十五分ほど清掃し、

カセットデッキを置き、曲をかける。


「おお。カッコいいやないかい」

俺は一人悦に入る。


仕込みを始める。

十時二十五分。

学生服姿の男子が入ってきた。

ここらでは見ない制服や。

さぼりか?


「いらっしゃい」

俺は声をかける。


「たこ焼き一パック」


「味はソースと塩、醤油があるけど」


「塩ってどんな味ですか?」


「そうやな。シンプルに塩だけやな。そのままやけど」


「じゃあ塩で」


「マヨネーズはどうする?」


「マヨネーズはかけてください」


「塩やったら、カツオと青のり抜きにする人が多いけど、どうしよ」


「じゃあ抜きで」


「はいよ」


俺はたこ焼きを準備しだす。


「これだれの曲ですか?」


そう聞いてきた。


「ドブネズミロックスや」

俺は答える。


まさか自分のバンドとは言えない。


「ドブネズミロックス……」

学生は、スマホで検索を始める。


「はじめて聞きました。

この音源、どこで手に入ります?

検索しても出てこないんすよ」


「インターネットにはないやろな。あるのはテープだけや」


「あの。この曲、録音させてもらえませんか?」

学生は言った。


「カセットテープやけど、ラジカセ持ってるんか?」


「最近カセットデッキ貰ったんで、それで録音します」


俺は少し嬉しかった。



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