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「あ、清把ちゃん、アイス食べてかない?」


睦美むつみが店の前で止まった。

チェーン店のアイスクリーム店で、価格も手頃で美味しい。

「いいよ」

清把も睦美も歩き回って買い物をしたので、何処かで休めたらなと思っていた。おそらく睦美も同じなのだろう。三月も終わりとはいえ、ほんの少しだが汗ばむ程度には歩き回っていた。熱くなった身体を冷やすにはちょうどいい食べ物だ。

「睦美?」

二人して入ろうとした時、誰かが友人の名を呼んだ。

「え?」

反射的に振り向いた睦美の先には男子高校生が二人、立っていた。

「え!? 駿しゅん君!? え、どうしたの、こんな所で」

「睦美こそ。どうしたんだよ」

「え、うちは友達と買い物に来て、疲れたからアイス食べよっかって」

「ああ。俺達も似た様なもんかな。ゲーセン行ってカラオケでも行こうかって」

「そうなんだ」

清把は入口で止まってしまった睦美を脇に退く様、軽く腕を引っ張った。

自分達が入店の邪魔をしていることに気がついた睦美は慌てて脇に退いたが、店の脇でも邪魔になるので、店から少し離れた通路の隅で話す。

「あ、駿君、友達の清把ちゃん。清把ちゃん、こっちが、え、えっと、彼氏の、駿君」

睦美が照れながら、清把に紹介した。

「こんにちは、加藤駿です」

睦美がよく話していた通り、彼氏は何処にでもいる普通の男子高校生だった。カッコよくもないが、悪くもない。ごく普通の人だ。

「こんにちは、久桷清葉くずみきよはです」

「よろしく、久桷さん」

「はい」

「ああ、あとこいつ、友達の原田結貴はらだゆうき。……おい結貴」

駿が黙ったままの結貴を肘で小突いた。

結貴は驚いた様な顔をしながら、じっと清把を見つめていた。

何故か清把を見つめる——凝視している結貴がいきなり満面の笑顔になった。

「ああ、やっぱり清把だ! 俺、俺だよ清把、小学生の時一緒だった結貴だよ! 嬉しいなあ、こんな所で逢えるなんて!」

結貴は一方的に盛り上がっているが、三人はそのテンションについていけずぽかんとしている。

結貴に知り合いだ、逢いたかったと言われている清把へ三人の視線が集まるが、清把は少し眉間に皺が寄っていた。思い出そうとしているが、思い当たる者がいないようだ。

何の反応もしない清把に睦美が訊ねる。

「清把ちゃん、知ってるの?」

「ううん、知らない」

雷にでもうたれたかの様な驚きの声と表情をして、結貴は捲し立てる。

「は!? 嘘だろ!? あんなに仲良かったのに。ひでえよ、清把! て、あっ、そっか。名前違うもんな。中浦なかうらだよ、中浦結貴。マ、母親が結婚したから名前変わったんだよ」

結貴はごめんごめんと詫び、照れくさそうな笑顔になる。

(ああ、やっぱりか)

清把はその名前を聞くとスッと心が冷えた。

「……ああ、そういえばそんな人、いたかも?」

「いたかもってひでえよなあ、清把。あんなに楽しく遊んだのにさあ。なあ、またこれから逢おうぜ! いや、今から遊ぼうぜ、な?」

結貴は清把の手を取ろうとしたが、清把はスッと手を引いた。

「遊ぶって? また髪の毛を強く引っ張って遊ぶの? 足を引っかけて転びそうになった私を見て笑って遊ぶの? シャーペンを盗って隠して捜している私をニヤニヤしながら眺めて遊ぶの? それとも階段から突き飛ばして怪我をする私を見たいの?」

清把の冷たい表情で吐き出す言葉に三人は驚いたが「違う!」と結貴が否定した。

「あれはお前が悪いんじゃないか! 俺が腕を掴もうとしたら振り払うから!」

「当たり前じゃない。掴まれるのが嫌だったから振り払ったのに。そのあとまた掴もうとするから、避けようとしたらバランス崩して階段から落ちたんだよ、私」

「そんなの知らねえよ! お前が俺の手を避けたのが悪いんじゃんか! 何で避けたんだよ!」

結貴は俺は悪くないと自己弁護をし出し、奇妙なものを見る様な顔をして清把は小さく首を傾げた。

「触られたくないから避けたんだけど。それに私、ずっと止めてって言ってるのに止めないあなたが凄く嫌。名前だって呼んで欲しくない。それも小学生の時言ったよ」

「清把!」

「だから名前を呼ばないでって言ってるの。本当に高校生?」

「くっ!」

結貴は顔を赤くしながら睨みつけてきた。

「俺、絶対お前の事逃がさないからな! 覚えてろよ!」

結貴はそう捨て台詞を吐くと、くるりと向きを変えて早歩きでショッピングモールの出口に向かった。

「え、おい、原田! あ、ごめん睦美、久桷さん!」

駿は急いで結貴の後を追って行った。

「清把ちゃん、……大丈夫?」

睦美が気遣う様な顔で清把を見る。

「うん、大丈夫。とりあえず、アイス、食べようか」

清把は少し、震えた声で答えた。気分転換のためにも、何か飲むか食べたい。

「……そうだね。アイス食べよっか」

「うん」

睦美は何事も無かったように笑って、二人でまたアイスクリーム店に向かった。

タイトルの九夏きゅうかとは、真夏の頃、盛夏、等を意味する言葉。

単純にいえば『夏の恋』です。

ひねりも何もなさすぎなので『夏』を『九夏』にしてちょっといい感じにしてみました。

あとまだスマホが存在していない時代の話です。

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