↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
She is a vampire【挿絵あり】  作者: べなお
◆Ⅳ A world where no one gets hurt

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
78/81

第十三話

挿絵(By みてみん)


「……ううぅんっ、あれ? 叶君?」


「先生大丈夫?」


 校舎の屋上から劇的な自由落下を遂げたこの高校の数学教師、水波雪乃は意識を取り戻し、俺の姿をその両の瞳に映し出した。


 彼女を受け止めた望の神器、漆黒のペンダントは数十メートルの巨大な蜘蛛の巣状に形態変化していた。彼女は自分の体を受け止めた物体が何なのかに気付き、その事実に戸惑いだす。


「やだあっ、これ何っ?!」


「いろいろ事情があって説明が難しいんだが、……その、」


「……ちょっとまだ受け止めきれないけど、また助けられちゃったみたいね。叶君って一体何者なの?」


「俺自身も最近、よく分からなくなってるよ。それより、先生はなんであんなところから飛び降りたりしたの? まさかとは思うけど」


 それはあまり考えたくない想像。


「私が? 飛び降りた? ……ごめん、なんで今ここにいるのかも、正直よく思い出せないの」


 彼女は頭を手で押さえながら、目をつぶって過去の記憶をさかのぼっているようだった。どうやら本当に覚えていないらしい。


「……記憶が無くて、体が勝手に」


 まさかとは思うが。


 また、なのか?


 この街に、あの初夏の悪夢が。


 魑魅魍魎(ちみもうりょう)の悪鬼羅刹(あっきらせつ)。阿鼻叫喚(あびきょうかん)に急転直下に弱肉強食な存在。太陽を忌み嫌い、深淵と人間の血液をこよなく愛する。


 吸血鬼。


 奴らなら、それくらいのことは察知されずにやってのけるだろう。しかしどうしてこう、いつもトラブルは同時多発的に突撃してくるのだろうか。


「私を呼んだかしら?」


 どこからともなく、いや、いつの間にか暮れていた日が生み出した影から、彼女はその姿を生成させた。


 それはこの世のものとは思えない、美しい雪女のように絹のような長い白髪だった。


 けれどその瞳だけは、血のように深紅だ。


「……お前は誰だ?」


 自らの動物性が知らずに備えていた、生存本能が一斉に大音量のアラームを鳴らしだした。声に震えがでないように、声帯に全集中。


「私はトロイア・ルージュ。あなたに逢いに来た。ご想像の通り、血を吸う鬼よ。あなたにどんな価値があるのか、確かめたくなってね。そのために、そこの女にも手伝ってもらったわ」


 吸血鬼は水波先生に視線を移した。


「あなた、この学校の人間じゃないわね。警察を呼びますよっ」


「呼んでみなさいな。あなたの目はちゃんと見えているのかしら? 今私が影から出てきたでしょう? 私を捕らえられる者も、縛り付けられる者も、いやしないのよ」


 その笑顔は、禍々(まがまが)しいほどに飾り付けられていて、その真っ赤な瞳の奥には強い侮蔑の感情が蠢(うごめ)いているのが分かった。


 望月燕と、前生徒会長と、少しだけ似ている。似ているが、発している狂気の濃度が桁違いだ。


「ひっ……」


「俺の価値だって? どうしてそんなものに興味がある?」


「今、この街はあなたを中心に回っている。人間なのに、私たち鬼と繋がろうとする。完全に敵対するならまだしも、隣人として付き合っている。今も明確な敵意を出している私に対して、殺気で跳ね返そうとしない。そんな生き方をしていたら、あなた明日にでも人間ではいられなくなるわよ」


 人間では、いられなくなる。


 俺は本当に、人間でい続けたいのだろうか?


「吸血鬼に勧誘でもしてくれてるのかい?」


「今のあなたの成り立ち方は、それなりに退屈しない。だからもう少し見ていてあげる。でも私が退屈し始めたら、勧誘なんて生易(なまやさ)しいことは言わずに、こちらに引きずり込むことになるでしょうね。あなたがその時どんな能力を発現するのかにも興味があるし」


「……俺にだって後ろ盾は控えてるからな。ただでは血をやらないぜ」


「もう逢ってきたわ。あなたの恋人にはね。けれど私の能力は最強よ。物理的な攻撃では、私を止められない。まあせいぜい足掻(あが)いてみることね」


 そう言い残して、彼女は足元の影へと姿をくらましていった。


 向けられていた濃密な敵意が消え去ったことで、急激にアドレナリン放出が落ちてどっと疲れが出る。その場に膝をついた。


「……一体何なのよ。あの女性は」


「俺もよく分かりませんが、少なくとも学園祭のゲストではないでしょうね」


「ところで叶くんって、恋人いるって本当なの?」


「いや、さっきのは勘違いです。……知り合いの女性のことを言ったんだと思うけど」


「へー。女友達多いのね」


 この何とも言えない空気はなんだろう。


 ともかく、懸案事項が2つも3つも増えたことは明確だった。

感想をお待ちしております。

それが何よりの原動力となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。