第十一話
放課後、剣道部の練習に行った八重垣にエールを送りながら見送ると、生徒会室には俺と安西生徒会長の2人だけになった。
「比喩じゃなくて本当に作業量が10倍になったわねえ。叶くん達が生徒会に入ってくれてほんと助かってるわ」
先輩はそう言って、俺たちのことを労ってくれる。けれど油断してはいけない。こういう時は何か面倒な仕事を頼まれるか、人をからかう為の前フリと相場は決まっている。
「そんなこと言うんだったら、この前発生した学園祭の飲食部門の調理班と接客班のいざこざというかマジ喧嘩の対応をなんとかしてくださいよ。俺この前止めに入ったら殴られかけましたよ」
「調理班は料理の試作を繰り返してるのに接客班は何もしないでおしゃべりしてるだけだったっていうアレ? いつものことじゃない」
先輩は冷静だ。流石は3年生と言ったところか。
「料理は普段からしてないと、無理して手伝うと迷惑かけるだけだからある程度は仕方ないと思いますけどね。それにしたって、買い出しとか何かしらできることはあるでしょうってことです」
「叶くんは何でもできて偉いわねえ。私はチキンラーメンが得意料理よ?」
「チキンラーメンは美味いですよね。あれも落とした卵をちょうど良く半熟に持っていくのが難しくて……」
「ストップ! 叶くんって話長いって言われない? 特に女子から」
う……。心当たりしかない。
ていうか俺の話が長くて、一体どこの誰に迷惑をかけたと言うんだ?
「心当りはあります」
「素直でよろしい。でも女子は基本的には自分の話を聞いてもらいたいの。あなたが自分の話を聞いてもらったら、そのお返しにあなたが相手の話を聞いてあげるのよ」
「相手の話を、聞く」
そうか。
そうすればまた明日も、その人と話せるんだ。
「私も毎回できてるとは限らないけれどね。それにもっと早く気付いてたら良かったんだけどね」
「安西先輩?」
その時彼女は、俺ではない、どこか遠くの方を見ていた。生徒会室の窓の外。斜陽の射し込む世界の片隅を、見ていた。
「何でもない! なんかしんみりしちゃったー。働き過ぎかもね。なんかごめんね。さあさあ早く続きやりましょ。作業は山積みなんだから。終わったらお姉さんがラーメン奢ってあげるから」
「……それはやる気が出ますね」
味玉トッピングしてもいーよ、と彼女は付け加えた。
人生は食事みたいなものだ。たった一つのアイデアで、ほんの100円の優しさで気持ちが伝わる。
100円を馬鹿にする者は、100円に泣くのだ。
評価・感想頂けますと泣いて踊ります。




