第七話
「かなちゃん先輩! はやく駅前のタリーズ行きましょうよー!」
「わかったー。この仕事だけ片づけたらすぐ行くねー」
夕暮れの茜色に包まれた生徒会室。時代の匂いが染みついた木製の机や本棚に囲まれながら、私はせっせと学園祭用の資料と格闘している。これ以上は集中力が続かないから、きりの良いところで明日の私に任せよう。きっと明日の私は怒るだろうけれど。
「それにしても人手が足りないわね。望くんを囲い込めたのは大きいけど、如何せん仕事量が多すぎるわ。これはまた男の子をちょろまかして手伝わせる手を使うしかないかなあ。これやると後が大変なんだけど」
悪い女である。
「それに女の子の敵が増えるしなあ。八重垣さんみたいな人はほんとに貴重よね。体育会系は縦割りでトップダウンで目標が決まれば一直線だから。陸上部の友達に声かけて有望そうな子を探してもらおうかしら」
スマートフォンでチャットアプリを起動し、友達にメッセージを送る。少しだけ疲れているのかもしれない。
後輩の女の子と私、安西奏は高校前のバス亭からバスに乗って駅前の某喫茶店に来ていた。季節は秋。辺りは山が多いので、そういう変化は感じ取りやすい。寒くもないし熱くもないこの時期はとても過ごしやすい。厚着をしなくてよいので朝の支度も手間取らない。
「かなちゃん先輩は彼氏作らないんですか?」
後輩が不用意にコンフォートゾーンに攻め込んでくる。流石は女子高生だ。自分もか。
「ご想像にお任せしまあす」
「えー。教えてくださいよー」
「生徒会手伝ってくれたら教えてあげる」
「またそれだー。塾が忙しくて無理なのにい」
「じゃあ残念でしたー」
こんなやりとりに意味などない。でもこれが私たちのやり方だ。コミュニケーションだ。特に意味もない時間を私はあなたと共有したいですよ。そういう信頼を寄せていますよ。その確認をし合うために、やっているのだ。
これを意味がないと言う人たちはそういうところがわかってないなあ、と思う。
「新作のマロンクリームラテ美味しいですね!」
「そうねー。今回のは当たりだねえ」
学園祭のことはいったん忘れる。仕事の基本だ。起きている間、常に大変なことを考えていたら身が持たない。特に、仕事に関係がない人と話すのが大事だと思う。そういう時にはこういうふわふわした子が丁度良い。
それにしても叶望くん、か。真面目でなんだかんだで言うこと聞いてくれそうな子に見えるけど、どこかこっちには見せない暗いところがあるような印象がある。ああいう子はちょっと間違うと裏で無理をして、潰れてしまう心配もある。
「学園祭、私のクラスは男子がメイド喫茶やりたいなんて言い出して、女子みんなで止めたんですよー。ほんとダサいですよね」
「あはは。そうだね。でもかわいいじゃない。やってあげればよかったのに」
「やですよー。うちらにメリットないですから。彼氏はやっぱり大学の学園祭で探すものですよ! それかSNS!」
今風だなあ。
「そだよね。やっぱり時代は執事喫茶だよね」
「それだったらうちも行きます!」
「一緒に行こうねー」
喫茶店の女子高生にしゃべらせておけばみんな読むだろう。




