第三話
望と命の二人はまだ朝日で満たされて間もない、学校の生徒会室へと歩を進めた。
そこには先客がいた。窓際の入り口側に向かって配置された机。教室の生徒用とは異なる、職員室にあるような、大きくて収納も豊富な特別製。そこには恐らく、今はもういない彼女が座っていたのだろう。今は代わりに彼女が鎮座していた。
「叶くん、八重垣さん、おはよう。二人とも朝から仲が良いのね」
「たまたまそこで会いましたので。安西先輩もおはようございます」
「おはようございます」
安西奏。新生徒会長だということ以外はよく知らないが、見た目はいかにも優等生といった感想。セミロングの明るめの黒髪。サラサラ。おでこは少しだけ覗いている。自信の強さを思わせる瞳は大きく二重で、右目に泣きぼくろがある。制服は折り目正しく、アイロンが行き届いているのがよくわかる。スカート丈は膝上ギリギリ。
男子生徒から熱狂的な人気があることは、同性の友達がほとんどいない望の耳にまで伝わっている。
「とうとう学園祭まで2か月ね。あー嫌だ。まだ具体的なことは何も決まってないし、先生は先生でめんどくさいことは全部こっちに丸投げしてきそうだし、会長代わりにやってくれないかしら叶くん」
「遠慮します。そんなこと言うならそもそも引き受けなければ良かったんですよ」
「冷たいなあ。前会長にはそれなりの恩があったから仕方なくね。後輩に押し付けるわけにもいかないし」
「……そうだったんですね。できる限りの手伝いはします。俺も会長と副会長には少なからず縁があるので」
因縁、の方ではあるが。
「そんなことあったの?」
八重垣は不思議そうにこちらをのぞき込む。彼女には詳しいことは話していない。話せるわけもない。
「お互い、しがらみには苦労しているみたいね。期待してるわよ叶望くん。副会長はまだ候補を探してるところだから、ぜひ名乗り出て頂戴」
「……裏方的なあんまり目立たない立ち位置で頑張ります」
「うふふふ」
怪しい笑みを会長は浮かべる。嫌な予感がしてきた。どこかの吸血鬼と笑い方が似ている。
「ところでそろそろ各クラスの出し物の申請が集まってくる時期ですよね。今年はどんなのがあるんですか?」
八重垣が話を変えてくれた。空気が読める女だ。
「今年は色々ねー。ラーメン屋、焼きそば、メイド喫茶、麻雀カジノ、漫画研究部の展示、プログラミング部のゲーム、ボードゲームカフェ、クレープ、ジェットコースターなんてのも。私的には3ーBの執事喫茶がおすすめね」
「……それは会長の趣味では?」
「顔の良い男をかしずかせるのが今から楽しみだわ」
怖い。プライベートでは近づかないでおこう。
「これ全部整理して承認を出すの大変そうですね。食中毒なんかは一番怖いし」
「そうなのよね。食品衛生の資格を持ってる先生に一応管理はしてもらうのだけど、付きっ切りってわけにはいかないし。私も料理はからっきしだし。だれか料理ができて体力もある、有能な後輩でもいないかしらねえ」
「ぎくっ」
「?」
「まさにあなたが適任ね」
おい八重垣。急に空気読まなくなるのやめろ。
「どうやら食品衛生担当が見つかったようね。調理系の出し物のチェックと調理場の確保、あとのめんどいことは全部お願いね!」
「恨むぞ八重垣」
「ごめんね。手伝うから」
彼女たちは揃って笑顔だった。女はいつも手を取り合って数の暴力で攻めてくる。
けれどこの程度の苦労でいいなら、数週間前のあの地獄に比べたら何でもない。こうなったらなるようになれだ。後は野となれ山となれ、だ。




