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She is a vampire【挿絵あり】  作者: べなお
◆Ⅲ Awakening

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第二十話

挿絵(By みてみん)

「でも、なんで人間がそんなことしなきゃなんねえんだ」


「なあに。有り得ない事じゃないだろうが。この世で最も多くの人間の命を奪っているのは細菌やウイルスだが、その次は人間自身だ。私達が喰らった数なんて、それよりもはるかに劣る。お前も嫌になるほど知っているだろう。人間が時に、どれほど残虐になるかということを。そういうやつがいても不思議じゃないさ」


 不満はあったが、言い返せない自分がいた。確かに現代社会には残虐な事件が後を絶たない。正常な人間には理解出来ないような事柄に、狂った理論を持ってして意味を見出してしまう人間が確かに存在するのだ。そして今回の事件はそんな人間が犯人ということなのだろう。


「さて、納得したところで良い時間になってしまったな。今夜は私が料理をしてやろう」


「え……」


 咄嗟に漏れた呻き声は、一抹の不安からくるものだった。


「おい、そんな顔をすることはないじゃないか。私だって料理の一つや二つ持っているんだ。折角君を元気付けようと思ったのに」


「いや、すまない。ちょっと本能で身の危険を感じたというか……。ラミアが作ってくれると言うなら、喜んで」


 ラミアは多少眉の外側を釣り上げるも、すぐに表情を崩した。


「何か腑に落ちないが、まあ良い。冷蔵庫にあるものを使わせてもらうぞ」


 すると彼女は部屋の隅に置いてある小さな冷蔵庫を物色し始めた。あんなことは言ったが、彼女の手料理を楽しみにする気持ちも望にはまたあった。それに、打ちのめされていた自分のために、そんなことをしてくれるのが素直に嬉しかった。


 暫く様子を見ていると、彼女は豚肉と、以前に彼女がワインと一緒に持ってきた生ハム、それに余ったマカロニを一袋取り出した。何が出来上がるのか想像も出来ない。


 ふと電話機に目をやると、留守電がきていることを表すランプが点灯している。確認すると、通話主は昨日の片桐という女子生徒。内容は、明日の学校が休みになったことと、希望者は浅間の葬式に出席できるということだった。一旦落ち着きかけていた望の心が、改めて落ち込む。しかし自分が行ってもいいものなのか、分からなかった。自分と彼女の関係は、一言では表しにくい。


 それに葬式の作法もなにも自分は知らない。まだ一度も身近の人の死に対面したことがないからだ。父は祖父母に一度も会わせてはくれない。母の方の祖父母は物心つく前に他界している。


「なあラミア、あんたは誰か身近な、大切な人が、死んだことってあるのか? だとしたら、そういうときはどんな気持ちになる?」


 ふと気になったことを、望は彼女に質問してみた。聞いた後に、多少後悔する。永遠の時を生きる吸血鬼には、愚かな質問だった。しかし彼女は、特に機嫌を損ねるわけでもなくこう答えた。振り向くこともせず。


「……あるさ。ある。しかし今はあまり覚えていないんだ。吸血鬼は自分の心をすり減らしていき、やがて失ってしまう。生血をすすり、自身の糧とする度に、そうなっていくんだ。だからお前の質問には半分しか答えられない」


 その背中が、望には寂しそうに見えた。もう二度と取り返すことのできない何かを、悔やんでいるかのように。


「だがお前は人間だ。人間なら、心を失うな。きちんと悲しんで、苦しんで、失ったということを感じておけ。その胸にな」


 望は自分の胸に手をやった。悲しい。故に苦しい。そこに空洞があるかの様だ。そこにはきっと、浅間栞がいたのだろう。叶望の中で、彼女の存在はいつの間にか大きくなっていたのだ。しかし彼女はもう戻ってこない。それを強く自分に対して言い聞かせた。その空洞は、いつか元通りに塞がるのだろうか。わからないけれど。


「そういえばあんた、さっき言ってたよな。吸血鬼は他にもいる”かも”しれない、って。妙に言葉を濁したようだったが、あれは一体どういうことなんだ」


「ああ、あれか。実際のところ、私にもよくわからないんだ」


「……よく、わからない?」


 彼女は続ける。水で満たした鍋を火にかけながら。


「吸血鬼はな、周囲のプシュケーを感じることで、他の吸血鬼の存在を察知することができる。その範囲は個体差はあるが、例えば私ならこの街の範囲程度は可能だ。しかしそれは、その吸血鬼が異能を行使しているときに限られる。力を抑え、プシュケーを乱さずに息を潜めている吸血鬼は察知し辛い。が……今この街には大っぴらに力を行使し、人を喰らっている吸血鬼はいない。それだけは断言できる」


「ということは、やっぱり犯人は人間、なのか」


 人を無差別に殺し、血を抜いて回る男。もしそうだとしたら、そいつは最早人間ではない。吸血鬼のようなものではないか。


「そう考えるのが無難だろうな。……で、お前はどうしたいんだ。そいつを捕まえて復讐でもするのか」


「…………復讐」


 彼女の命を奪った犯人を捕えて、同じ目に遭わせればこの胸の空洞は塞がるのだろうか。


「正直今は、そんなこと考えられない。犯人が人間なら、それは警察の仕事だろう」


「そうだな。それが無難だ。私も人間同士のいざこざにまで手を出す気はない。もしやるとしても一人でやることだ」


 そう言ってから暫くすると彼女の料理が出来上がり、皿に盛りつけられて配膳される。出されたのは二品。一つはマカロニをチーズと胡椒で和えたような料理。もう一つは焼いた豚肉を生ハムで巻いた料理だった。


「これは恐らく、私の故郷の料理だ。これの作り方だけはなぜだか、頭の中に焼き付いていてな。相当気に入っていたのだろう。食べてみるがいい」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 マカロニを箸でつまんで口に運ぶ。その様を彼女は、喜ばしげに眺めていた。中々に美味い。生ハム撒きは重厚な味わいで、きちんとしたレストランで出されてもおかしくはないと思わせた。コンビニのインスタント食品にはない温かさが、その料理にはあった。簡単な材料だが、どうしてここまで心に染みるのだろうか。


「誰かの為に……手間と、気持ちをかけて……」


「ん? 何か言ったか?」


 不思議そうに彼女は尋ねてくる。


”望が私の為に手間と気持ちをかけて作ってくれたものだ。美味しくないはずがないだろう”


 望はその意味が何となく分かった気がした。料理には作ってくれた人の気持ちがこもるのだということを。彼女が今、自分を元気づけようとしている気持ちは、真実なのだ。それは希望などどこにもないと思っていたこの世界で、ささやかながら泣きたくなるような優しい真実。昔、母が自分に料理をいつもつくってくれたことを思い出した。その時はそれが当たり前だと思っていたけれど、今になればわかる。


「ラミア……疑って済まない。俺が弱かったから、あんたを信じ切ることができなかった。この通りだ」


 口から出てきたのは素直な謝罪の気持ち。例えこちらの心が筒抜けだとしても、感情は、気持ちは、口に出さなければ伝わらない。そう、思った。


「……なあに。いいのさ」


 彼女の笑みが、冴えを取り戻した気がした。案外、本当に落ち込んでいたのかもしれない。


「冷めないうちに残りも召し上がれ」

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