表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
She is a vampire【挿絵あり】  作者: べなお
◆Ⅲ Awakening

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/81

第十八話

挿絵(By みてみん)

 そこから先のことはよく覚えていない。殆ど話したことのないクラスメイトの声も、そこから先は聞こえなくなった。何か怒鳴っていた気がするが、覚えていない。


 ラミアのところへ行くのも忘れ、頭の中を真っ白にして気が付けば時計は十二時過ぎを指していた。長い間立ち尽くしていたらしい。受話器が足元に落ちている。


 とにかく、確かめなければならない。


 望は、先程の情報を確かめる方法を模索する。浅間の電話番号は知らなかった。短い付き合いだが、結局そんなことも自分は知らないということに思い至る。次に連絡網の1番上に載っている担任教師の番号に電話すると、通過中になっていていっこうに出る気配はなかった。


 学校へ行けば、何かわかるかもしれない。


 途中何人かにぶつかりそうになりながら、気が付けば正門の前にいた。さっきから記憶が所々抜け落ちている。いつもの自分ではない。何かがおかしい。一体自分はどうなってしまったのか。


 校舎の鍵が空いているかどうかわからないことに気付いたが、どうやら施錠はされていない様子。そこにいつもと違う雰囲気が、表現し難い不気味さを醸し出していた。普段過ごしている1年生の校舎から、職員室のある校舎へと移動。扉の前に着くと、休日であるにも関わらず、慌ただしい様子が伺えた。何人もの人間が、中で何か話し合っているようだ。電話の音がひっきりなしに鳴っている。その音が、自分の心臓の鼓動と同調するかのように拍車をかける。胸が痛むほどに。


「叶。こんな休みに何をしている」


 その声に振り向くと、そこには逢見学園生徒会副会長の姿と、見知らぬYシャツ姿の男がいた。なぜか染谷はこんな季節であるにもかかわらずマスクをしている。Yシャツの男は望から見て身長百八十程、がっしりとした体格。年は三十くらいだろうか。明らかに一般人とは異なる異質な雰囲気を漂わせていた。表情は二人共険しい。


「染谷、さん。浅間の、ことは、本当なんですか……?」


「…………残念ながら本当だ。今事実確認に学校は追われているが、浅間栞が亡くなったというのは確かだ」


 その言葉をきくまでは、これは悪い夢なのではないかと何処かで思っていた。性質の悪い悪夢で、目を覚ませばまたいつも通りの日常が始まるのだと。学校の図書室に行けば、いつかのように彼女が出迎えてくれるのだと。そう思っていた。


 そうではないのだと気付くと、強い眩暈に襲われた。堪らずに壁に手をついて支えようとする。浅間が。どうして。一体何がどうなっている。これは本当に現実なのだろうか。


「大丈夫か? しっかりしろ。何かあったのか」


「昨日、俺は浅間と一緒にいたんだ。まだ一日だって経っちゃいない。なのに、どうして」


「それは本当か」


 と無機質な声で聞くはYシャツの男。その男は何やら染谷に耳打ちをすると、染谷は職員室に入っていった。


「私はこういうものだ」


 そう言って彼が胸ポケットから出して提示したのは、テレビや本でしか見たことのない、桜の代紋がついた黒塗りの手帳、即ち警察手帳だった。


「警視庁捜査一課、三島という。君に詳しく話を聞きたい」


 すると暫くして染谷が職員室の扉から再び姿を現した。


「第二会議室が空いているそうです。但し現在先生方が誰一人として手が空いていないため、私が立ち会わせて頂きます。それでも?」


「構わない」


「そう言うことだ。叶、話してくれるか」


 自分には、どうすれば良いか分からない。朝起きていきなり理不尽な現実を突きつけられて、それを受け入れよと強要してくるのだ。こっちは準備なんて出来ちゃいない。浅間栞が死んだ? そんなに簡単に一人の人間が死んでたまるか。これは出来の悪い三文小説ではないはずだ。


「叶。しっかりしろ。辛いかもしれんが、お前には話す義務があり、そして知る権利がある。浅間栞の死についてだ」


「彼女、は……一体どうし、て」


「殺されたんだ。全身から血を抜き取られてな」


 それを告げたのはYシャツの刑事だった。その冷淡な口調は、こういう事を人に伝えるのに慣れている様であった。微塵もこちらへの感情移入もない。ただ粛々とそれは告げられた。


 殺された。


 殺された。


 殺された?


 血を抜かれて?


 どうして。


 どうして彼女が?


「詳しくは部屋で話す。そう言うことだ。では案内してくれ」


「こちらへ。叶、一人で行けるか」


 浅間栞が、殺された。今日現れて今名乗った刑事だと言う男がそう言っている。どうしても望には信じられなかった。現実を受け入れられないでいた。受け入れてしまったら、そこで彼女は本当に消えていなくなってしまう気がした。



挿絵(By みてみん)








 通された部屋は普段職員会議等に使われている部屋らしい。通常の教室を二つ並べた程の広さであり、長方形状に長机が組まれている。生徒は決して入ることのない部屋。しかし今望の意識を緊張させているのは、その異質な空気によるものでは無かった。先ず染谷が鍵を開けて入り、次いで三島刑事、最後に望が入り扉を閉めた。三人は長机の角の席にそれぞれ腰掛ける。いつかの尋問紛いの生徒指導を思い出した。


「無いとは思うが、あまりうちの生徒の心身を脅かすような真似は慎んで頂きたい」


 染谷はあくまで望の味方。今はそれだけが辛うじて望の正気を保っていた。


「そんなことは決してしませんよ。この目つきは職業柄でしてね、仕事中はご勘弁を。それではまず現状を把握してもらう為にも私から話すことにしましょう。今回の事件についてです」


 浅間栞は本日の早朝、変わり果てた姿で発見された。場所は白樺山山道、普段なら人目につかない場所だが、休日のランニングに来ていた老夫婦によって通報された。最初は人形か何かが捨ててあるように見えたらしい。しかし近づいてよく見れば、それが血抜きのされ、生気の失った死体であることに気が付き、慌てて通報。駆けつけた警察によって彼女の死亡が確認された。


 情報は、彼女の所持していた携帯電話から両親に伝わり、そこから学校へ伝わった。遺体の状況から警察はこれを殺人事件と断定。そしてわざわざ警視庁の捜査一課が出向いて来た理由が。


「これは今逢見市を騒がせている連続猟奇殺人事件の一つだと考えられています。ニュースで報道されているあれです。しかし一つだけ、そこでは伏せられていることがありましてね。それは被害者の死体は皆、一人残らず全身の血を抜かれていることなんですよ。今この逢見には、無差別的に人を殺し、血を抜いて回る吸血鬼の如し野郎がいるってね」


 心臓の鼓動が早くなり、嫌な汗が(うなじ)を伝う。脳裏に浮かぶのは赤い髪と瞳をした女性が、残忍に笑いながら浅間を襲う光景だった。もしかしたら、あの時に後を付けられていたとしたら、それとも再び精神に種を植え付けられていたか。そして彼女と話す俺を見て、それが吸血鬼の秘密を漏らそうしているところだと彼女が思ったとしたら。現に俺は浅間に秘密を話してしまおうか迷ったことがある。その迷いを裏切りだと思われたとしたら。今この時もこの考えを、どこかで聞かれているとしたら。


「今までに被害者は五人、皆血を抜かれて殺されています。多くは頭を鈍器のようなもので殴られ、殺された後で血を取られています。血液を奪う理由は不明。更に言うなら血を抜くには注射針や吸引機を使わなければならない、そして全身の七、八割の血を抜くのはとてつもない重労働のはず。それを続けざまにする理由がわからないのです。ただ衝動的な猟奇的思考に犯されて行動しているにしては、大掛かり過ぎている」


 そんなことをいとも簡単にできて、そんなことをする必要がある犯人を、自分はよく知っている。


「とにかく謎の多い事件ですよ。本当に吸血鬼の仕業かもしれない。…………では本題に入りましょうか。貴方は、一体なぜ彼女と一緒にいたのか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ