第5話 同棲って、どうせいっちゅうねん!?
無事に(?)アレスと共に【薬草摘み】の依頼を達成した、その日の晩。
時刻は午後9時少し前。
俺は間借りしている宿屋の一角で、ベッドの上にゴロンッ! と寝転がりながら天井を見上げ1人悶々とした夜を過ごしていた。
もちろん考えるのは女の子になった我が偉大なる相棒、アレスについてだ。
……まぁ『女の子になった』っていうか、元から女の子だったらしいんだが、今はそんな事はどうでもいい。
問題は俺がアレスを性的に見てしまっていることだ。
「アホか、俺は!? アレスは相棒だぞ!? いくら俺がカノジョが欲しいスケベなロクデナシでも、相棒に欲情するのは完全にアウトだろうが!」
だというのに俺の下半身は本体の意思を無視して本能に忠実なようで、今日1日アレスのネットリとした色気に当てられたせいか、今もズボンとパンツを突き破らんばかりの勢いで硬くそそり立っている始末だ。
きっと風の谷あたりに住む少女が今の俺のアレを指先で弾いたらキィィィ――ンッ! という甲高い音ともに「いい音……」とうっとり♪ しながら頬ずりしてくるに違いない。
「いやアホなことを考えている場合じゃないぞ、俺。このままじゃ下半身に身体を乗っ取られた挙句、アレスを男の性欲で傷つけてしまう」
そんな事になってみろ、俺は俺が許せなくなるぞ?
幸い今日はギリギリ乗り越えることが出来たが、これから毎日至近距離であんな濃厚な色気を浴び続けたら、近い将来間違いなく理性が飛ぶ。
そうなったら俺達の友情が終わってしまう!
それだけは何とかしても避けたい!
「……いっそ新しくパーティーメンバーを募るか?」
俺は盗賊、アレスは僧侶、前衛が圧倒的に足りていないし、戦士あたりを募集すれば何人か集まってくれないだろうか?
……いや、そう言えば前回募集したときは誰も集まらなかったんだっけ?
あの虚無感をもう1度味わうのは心が折れそうで嫌だなぁ。
そんなことを考えていると、
――コンコンッ!
と俺の部屋のドアが控え目にノックされた。
「んっ? 誰だ、こんな時間に? 店主か?」
コンコンっ! コンコンッ! と何度も控え目にノックする音が部屋の中に木霊する。
そんなに急かさなくてもちゃんと出ますよぉ~っと。
俺はベッドから起き上がり、トロトロとした足取りで扉の前まで移動し、ドアを開けた。
「あいあ~い、どちら様ですかぁ~? ――うぇっ!?」
「……こんばんは、ダルくん」
「あ、アレスッ!?」
扉を開けると、そこにはピッチピチの僧侶の制服に身を包んだ我が相棒アレスの姿があった。
えっ、なんで!?
な、なんでアレスが我が家に!?
困惑する俺を横目に、アレスはシュンッと獣耳とシッポを垂れ下げつつ、懇願するような瞳で俺を見下ろしてきた。
「……ごめんね? こんな時間に部屋に押しかけて?」
「い、いやそれは別に構わんが……どうした一体?」
「……ちょっと込み入った事情があるから、中でお話してもい~い?」
「お、おう」
分かった、と小さく頷きながらアレスを部屋へと招き入れる。
お風呂あがりなのか、俺の横を通る際、アレスの身体から女の子の甘くてイイ匂いが鼻腔をこれでもかと蹂躙し、
――呼んだ、パパ?(もっこり♪)
「呼んでねぇ! 呼んでねぇから!?」
「……えっ、なにが?」
「な、なんでもねぇよ! コッチの話だ、気にすんな!」
不思議そうな顔で俺の方へと振り返るアレス。
そんなアレスに爽やかな笑みを向けつつ、『おっ、出番か?』と呼んでもいないのに独立愚連隊がごとく硬くそそり立った我が股間の肉棒を両手で隠す。
クッソ、落ち着けマイサン!? 荒ぶるな!?
あとでたっぷり相手をしてやるから、今は大人しくしていてくれ!
「あっ、そうだ! な、何か飲むかアレス? と言っても水と葡萄ジュースくらいしかないんだけどさ」
「……ううん、大丈夫。喉、乾いてないから」
「そ、そっか。あぁ、そこの椅子に腰を下ろしてくれて構わないからな?」
そう言ってアレスを文机の方に誘導しつつ、俺はカサカサカサ! とキッチンの暗殺者『G』のように音もなくベッドの方へと移動し腰を下ろす。
その際に枕を股間の上に持ってくることも忘れない。
とりあえずこれでモッコリは隠せるハズだ。
俺は心臓をバクバク言わせながらアレスが椅子に腰を下ろすのを確認するなり、コチラの下半身に意識を持っていかれないようにすぐさま本題へと切り込んだ。
「それで? なにがあった?」
「……家出してきた」
「そっかぁ~。家出してきちゃったかぁ~……なんで?」
「……両親と喧嘩した」
そう言うとアレスはポツリ、ポツリと家出してきた理由について俺に語り始めた。
まぁザックリ話を要約するとこうだ。
アレスは家のしきたりで18歳までは戦士として冒険者活動をし、任期が満了次第、冒険者を辞める事になっていた。
だがアレスは冒険者を続けると両親に宣言。
その覚悟の証明として戦士から僧侶に転職した姿を親に見せた。
結果、アレスパパBU☆TI☆GI☆RE!
今世紀最大の親子喧嘩へと発展。
アレス、そのまま家を飛び出し現在に至る――という感じである。
「……だからもうあの家には帰らない」
ぷくぅっ! と愛らしく頬を膨らませながら、アレスにしては珍しい力強い口調でそう宣言する。
まぁ家のしきたり云々は置いといて、アレスパパの気持ちも分からなくはない。
なんせ信じて送り出した娘がピッチピチのドスケベレオタード衣装に身を包んで帰ってきたのだ。その衝撃たるや……想像を絶するモノだっただろうに。
もし仮に俺に娘がいて、アレスのようなピッチピチのレオタード衣装に身を包んで帰って来ようモノなら……俺はマーダ神殿を燃やしてしまうかもしれない。
ただブチギレるだけなら良心のある親御さんだと言えるだろう。
「なるほどな。アレスの言いたいことは分かった。要は親御さんが冒険者を続けるのを反対しているワケね?」
「……うん。だからお父様とお母様が反対出来ないような実績を作って、無理やりにでも認めさせようと思う」
「でも家に居ると冒険者を無理やり辞めさせられそうだったから、強硬手段として家を出たと?」
そういう事でOK? と視線で尋ねると、アレスは『その通り』とばかりにコクンと首肯した。
「……だから、しばらくの間はダルくんの家に泊まらせて貰うね? 今日からよろしく、ダルくん」
「うん、よろしく出来ないね」
笑顔で無理やりお泊りしようとしてくるアレスを同じく笑顔で拒否する。
瞬間、アレスは「……どうして?」と不満気に頬を膨らませ、チロッ! と甘く俺を睨んで来た。
いやいや、どうしてってお嬢さん? 理由を言わなきゃ分かりませんか?
「正気かアレス!? お前は今、肉食獣の檻の中へ無防備でダイブしようとしているんだぞ!?」
これがどれくらい危険なことは分かるか!?
例えるならヤリチン冒険者の目の前に全裸の爆乳お姉さんが横たわっているくらい危険なことなんだぞ!?
しかしアレスは事の重大さに気づいていないのか、全力で食い下がってきやがった。
「……なんで? 前は泊めてくれたのに」
「あの時と今とじゃ状況が違うだろ!? アレスは女の子で――」
「……なにも違わないよ? 元からボクは女の子。ダルくんが勝手に男の子と勘違いしていただけ」
「うぐぅっ!? で、でも!? だからこそ危険だろうが!? 俺はお前を『女の子』と認識しちまったんだぞ!? もし間違いが起こったらどうする!?」
「……間違いが起こるの?」
どこか試すようなアレスの視線が俺を貫く。
その瞳はどこか獲物を前にした肉食獣のような輝きを放っていて……な、なんだあの目は!?
あんな目をしたアレスを俺は知らないぞ!?
「……ボクとお泊りしたら、ダルくんは間違いを起こすの?」
「バッ!? そ、そんなワケねぇだろうが! 確かに俺はエロガキだが、相棒をエロい目で見るほど落ちぶれちゃいねぇよ!」
「……じゃあ大丈夫だね。今日からよろしくダルくん」
「あぁっ!? しまった!?」
ヤバい!? と思ったときはいつもアフターフェスティバル。
気がつけばダルがお泊りする流れになっていた!?
ど、童貞の見栄っ張りを逆手にとった見事な作戦である。ヤバイですね♪
「ま、待ってくれアレス!? い、今のは売り言葉に買い言葉っていうか!? 流石に相棒でも男女が1つ屋根の下で同衾するのは――」
「……やっぱり、ダメ?」
アレスが甘えたような声を出して不安気に俺を見つめてくる。
まるで捨てられた子犬のように獣耳とシッポは力なく垂れ、その姿を見ているだけで俺の中の庇護欲と性欲がムクムクと膨らんでいく。
だがここで甘い顔を見せてはいけない。
なんせ我が相棒の貞操の危機なのだ。心苦しいがハッキリ拒絶させて貰おう。
許せアレス、これもすべてお前の為なんだ。
俺は心の中で『もちろんOKに決まってんだろうが! これからよろしくなアレスッ!』と呟きつつ、
「もちろんOKに決まってんだろうが! これからよろしくなアレスッ!」
と言った。
心と身体はまさに一心同体ッ! ……もしかしたら俺はバカなのかもしれない。
「……よかった。それじゃ今晩からよろしくね?」
「……うん」
ホッとしたように満面の笑みを浮かべるアレスを横目に、俺はぎこちない笑みを頬に貼り付けながらコクンと頷いた。
こうして俺の煩悩との長い長い闘いの夜が切って落とされたのであった。
だがこの時の俺はまだ知らなかったのだ。
この『お泊り』が俺とアレスの本当に長い【同棲生活】の幕開けになるとは。
俺もアレスもまだ知らないでいた。
「……ベッド1つしかないし、一緒に寝るダルくん?」
「マジですか旦那っ!?」




